2人の話と、エルメアーナの話
フィルランカは、イルーミクとモカリナに迫られて、大学に入った後、カインクムの様子がおかしい事を話し始めた。
その理由として、考えられる事は、フィルランカの大学の学費が、カインクム家の負担になっているのではないか思っていることを話した。
(なんで、なんだろう。 私、やっぱり、幼年学校を出たら、カインクムさんの店の店番をしていたら、それでよかったんじゃなかったのかしら。 幼年学校の校長先生との話の勢いで、帝国大学へ進むと言ってしまったけど、あの時、本当は、断った方が、こんな事にはならなかったんじゃないのかしら)
フィルランカは、2人に話をしつつ、わずかではあるが、暗い表情になっていくようだった。
イルーミクとモカリナは、話の内容を聞いて、少し後悔気味にしていた。
「ねえ、でも、カインクムさんは、学費が足りないと言ったの?」
雰囲気を悪くしたことで、悪い事をしたと思ったのか、モカリナが、フィルランカに声をかけた。
「あ、ああ、そうよ。 学費の問題なら、リズディア義姉様達が、奨学金制度を作っているから、それを使うこともできるわ。 そ、そうよ、フィルランカは、高等学校時代から成績も良かったのだから、きっと、申請したら、直ぐに許可が降りると思うわ」
イルーミクは、フィルランカから、モカリナの答えを聞く前に、話をした。
「そ、そうよね。 経済的な理由なら、その手があるわ」
イルーミクが、奨学金について、話をすると、モカリナも、同意した。
奨学金制度は、帝国として広く、人材を確保するため、貧しい家庭に生まれても、才能があるなら、それを伸ばすために、費用を貸し出すものだった。
それをリズディアとクンエイが、計画して作り上げたのだ。
特に、帝国臣民の中には、貧しい家庭に生まれた者も多いので、成績上位者だと判断されれば、奨学金をう受けることは可能となる。
人数は多くはないが、帝国大学へ進学した中には、奨学金を受けている人も居た。
(そういえば、高等学校の入学の時に、その話を聞いた覚えがあるわ。 そうか、経済的な問題なら、それを使えば、カインクムさんに負担をかけなくて済むのね)
フィルランカは、奨学金の事を2人に言われて、思い出したようだ。
「そうね。 その手が、あるのよね」
モカリナとイルーミクは、フィルランカの答えを聞いてホッとしたようだ。
「早速、今日、家に帰ったら、カインクムさんに聞いてみるわ」
フィルランカ達は、安心して、昼食を食べ始めると、また、いつもの他愛も無い会話になり、安心したようだ。
フィルランカは、家に帰ると、直ぐに、夕食の用意をする。
そして、いつものように、料理を食卓に用意していると、エルメアーナが手伝ってくれた。
ほんの僅かな手伝いでも、フィルランカには、家族として、認められているように思えたので、とても嬉しかったようだ。
食事は、3人でテーブルを囲んで、食べるのだが、今日もカインクムは、一言も発せず、ただ、エルメアーナの話をフィルランカが受け答えるような会話になっていた。
「なあ、フィルランカ。 今日の、お前は、口数が少ないな。 なんだか、別の事を考えているようだ」
エルメアーナは、フィルランカの様子が、いつもと違う事に気がついたようだ。
それを聞いて、フィルランカは、エルメアーナの鋭い指摘にびっくりしたようだ。
「ん? ああ、今日の授業は、少し難しかったのよ。 だから、ちょっと、気になっていたのよ」
フィルランカは、慌てて、誤魔化すと、その様子を、エルメアーナは、ジーッと見ていた。
少し間が置かれて、フィルランカは、自分の考えている事を、エルメアーナに見透かされたのかと思ったようだ。
(どうしよう、エルメアーナったら、ジーッと私を見ている。 誤魔化した事が分かってしまったのかしら? そうよ、このタイミングで、話をした方が、いいのかもしれない)
そして、フィルランカが、カインクムをチラリと見る。
「なんだ、フィルランカ、そうだったのか。 大学の授業は、フィルランカでも難しいと思う事があるのだな。 ちょっと、以外だったよ」
それを聞いて、フィルランカは、カインクムに向けようとしていた視線をエルメアーナに戻して、ホッとしたような、気の抜けた表情をした。
「でも、フィルランカは、父と私の為に、店を大きくしてくれるために、帝国大学へ行っているんだ。 それに、フィルランカは、秀才だから、きっと、今日わからなくても、その事を覚えていたら、これから先の授業を聞いていたら、きっと理解できるはずだ」
フィルランカは、自分だけ分かっているという表情をする。
「何か、新しい事を覚える時は、よく分からない方が多い。 でも、その分からない事を、覚えておくと、後から繋がりのある何かを教えてもらった時に、そのよく分からなかった事が、頭に浮かんできて、今、教えてもらった事と、繋がる事があるんだ。 理屈を理解すると覚えるのも早いけど、どうしても、理解できない時は、その事を、ただ、覚えておくだけにして、頭の片隅に置いておくんだ。 きっと、これからの授業で、今日の事が理解できると思うぞ」
エルメアーナは、フィルランカに、真剣に答えた。
ただ、フィルランカは、自分が誤魔化すために言った事にエルメアーナが真剣に答えてくれたことが、嬉しくもあり、申し訳なくもあるので、微妙な表情をしていた。
「あ、ありがとう。 エルメアーナ」
(ごめんね。 エルメアーナの前で、私の学費の事を、カインクムさんに確認できないわ)
それを聞いて、エルメアーナは、得意そうな表情をした。
「お安い御用だ。 私も、鍛治の事で、悩んでいた事があったんだ。 きっと、人には、そんな時が、誰にでもあるのだぞ」
エルメアーナの得意そうな表情を見て、フィルランカは、なんともいえない表情をしていた。
ただ、カインクムは、2人の会話を、黙って聞くだけだった。




