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ツカ辺境伯領のモンレムンとリズディア 2



 モンレムンは、リズディアが、何かに引っ掛かっている事が気になったようだ。


 モンレムンは、仕事の話は、おおよそ終わったので、その話をする事にしたようだ。


義姉上あねうえは、何か、ご不満なのですか? イルルミューランという、旦那を持って、イスカミューレン商会でも大きな仕事を任されて、順風満帆といったところだと思うのですけど」


 それを聞いて、リズディアはため息を吐いた。


「それが、そうでもないのよ。 1人は、良い人材を確保したのですけど、もう1人の方は、全く、見向きもしてくれないのよ」


 モンレムンは、リズディアが、弱音を吐いたことに驚いた。


 皇帝陛下の主催の兄弟会に、モンレムンは、夫婦で出席するので、その際に、リズディアとも面識を持っている。


 そして、帝国でも最大の領地を持ち、帝国の西の要と言われている、ツカ辺境伯ともなれば、幼少時代は、帝都で過ごすことが多いので、リズディアとも面識が多い。


 モンレムンが、今まで見てきた、リズディアは、皇帝陛下の長女という立場から、凛とした態度をとっていたので、今まで、リズディアの弱音なんて、聞いたことがなかったのだ。


 それが、今、モンレムンは、リズディアの弱音を聞いてしまったことに驚いた。


「実は、帝国大学に、優秀な女子が、今年、3人入ったのよ。 その1人が、この家のイルーミク、そして、もう1人が、ナキツ侯爵家の四女のモカリナなのよ。 そして、その2人より成績の良かった、女子がいたのだけど、その娘が、全く、こっちになびいてくれないのよ」


 モンレムンは、リズディアの誘いを断るという少女がいると聞いて、少し驚いたようだ。


(これは、たまげた。 何処の公爵家のご令嬢なんだ。 いや、大公家なのか?)


 モンレムンは、黙って、リズディアの話を聞いていた。


「それが、鍛冶屋の娘なのだけど、以前は、隣の孤児院の子供だったのよ。 それが、その鍛冶屋に引き取られて、学校に通わせたのよ。 でも、その娘は、編入だったにも関わらず、編入試験の結果もずば抜けていて、そして、高等学校は、入学から卒業まで、次席をキープしていたのよ」


 モンレムンは、今の話を聞いて、自分の考えていた事と大きく異なっているように思え、表情を引き攣らせた。


「あの、すみません。 その娘というのは、鍛冶屋の娘なら、帝国臣民なのですか?」


 モンレムンは、リズディアが目をつけている、その娘が、貴族でもない、ただの帝国臣民であることに驚いた様子で、リズディアに聞き返したのだが、それを聞いて、リズディアは、がっかりしたような表情をする。


「そうよ。 その娘は、フィルランカと言って、鍛冶屋のカインクムの養女なのよ。 帝国大学を卒業したら、イスカミューレン商会に誘っているのだけど、卒業後は、カインクムさんの店の店を見ると言っているのよ」


 リズディアは、また、ため息を吐いた。


(おい、ただの帝国臣民が、しかも、元孤児が、リズディア様の誘いを断るのか。 こりゃ、恐れ入った。 それにカインクムの所に居るのか。 カインクムの鍛冶屋は、俺の領地でも有名だ。 そういえば、娘の仕事もカインクムに劣らないと言われているぞ。 ん? 娘でなくて、養女なのか)


 モンレムンは、表情を曇らせた。


(カインクムの養女なのか。 それは、店ごとイスカミューレン商会に取り込みたいと思って、その養女を引き込もうとしていたのか。 さすが、才女と名高いリズディア様だ。 狙う場所がエグくないか)


 モンレムンは、感心した表情で、リズディアを見ていた。


「無理矢理、引き込もうかとも考えたのですけど、……」


 リズディアは、落ち込んだ表情をして、ボソリと話した。


(おい、それは、やめておいた方がいい。 いくら、皇帝陛下の長女だったと言っても、粛清対象になる)


 リズディアの一言を聞いた、モンレムンは、血の気が引いたようだが、リズディアは、次の言葉をつないだ。


「そんな事をしたら、きっと、皇帝陛下からも、クンエイ兄様からも、そして、ジュエルイアンとヒュェルリーンからも恨まれてしまうわ。 だから、無理矢理はやめたのよ」


(当たり前だ、兎機関とうきかんに目をつけられたら、イスカミューレン商会も終わりだぞ。 その原因を皇帝陛下の長女だったなんて事になったら、大スキャンダルだ)


 リズディアの、ぼやくような言葉に、モンレムンは、顔を引き攣らせていた表情から、無理矢理はやめたという言葉を聞いて、力が抜けたように、ホッとなり、話を聞いていた。


「そうですよ。 アツ公爵家のお取り潰しの例がありますから、軽率な行動はお控えください」


 その言葉を聞いて、リズディアも、同じ事を考えていたようだ。


「もちろんよ。 だから、頭が痛いのよ」


 それを聞いて、モンレムンは、笑顔をリズディアに向けた。


「しかし、北の王国の縁談を断った、リズディア様とは思えませんね」


 その一言を聞いて、リズディアは、少し拗ねた表情をした。


「私だって、時には、思ったように進められない事だってあります」


 そんなリズディアを、モンレムンは、頬を緩めた。


「そうですね。 何もかも上手くいったら、人生なんて、面白くもないでしょう。 壁が有って、その壁を越えるから、人生は、楽しくなるのです」


 リズディアは、それを聞いて、一瞬、考えるような表情をしたが、すぐに笑顔になった。


「おっしゃる通りですね。 まだまだ、私の努力が足りないのですね。 これから、もっと、頭を使って、何とか、フィルランカとカインクム親娘を、うちの商会に、引き込んでやるわ」


「そうです」


 リズディアは、今の会話で、さらに、フィルランカを取り込むことに、生き甲斐を感じたように、表情には、やる気が見えた。


 それを見たモンレムンは、いつものリズディアに戻ったことを、喜ばしく思ったようだ。


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