ツカ辺境伯領のモンレムンとリズディア
最近の、リズディアは、イラついた様子をしていた。
リズディアは、ジュエルイアンとヒュェルリーンが、南の王国に帰国した、このチャンスをモノにしようと、フィルランカとエルメアーナに接触するようにしていたが、なかなか、フィルランカが、自分の方に、なびいてこない事が、気に食わないようだ。
イスカミューレン商会としても、女性の管理職候補として、ナキツ家の四女であるモカリナと、フィルランカ、そして、自分の家の末娘のイルーミクを考えていた。
モカリナは、完全に、なびいてくれおり、なおかつ、ナキツ家からも願ってもない話となって、大喜びで有った。
そして、フィルランカが、それに加われば、リズディアと4人で、事業を任せられる可能性もあると考えていたのだ。
しかし、フィルランカは、カインクムの店の店番をして、カインクムの店に恩を返すと言って、一歩も引かないのだ。
リズディアとしては、帝都で営業しているカインクムが、ジュエルイアン商会に、所属していることが、気に食わないのだ。
カインクムは、特に、帝都でも有名な鍛冶屋であって、なおかつ、近年は、娘のエルメアーナもカインクムに劣ることのない鍛治技術を持っていると噂になり、カインクムの娘ではなく、天才鍛治少女のエルメアーナという位置付けを確立しつつあるのだ。
ここにきて、カインクムだけでなく、娘のエルメアーナも有名になりつつあり、この親娘の作った製品を欲しいという声を聞くたび、リズディアは、面白くなかったのだ。
カインクムは、ジュエルイアン商会の支店を通じて、鍛治仕事を引き受けていた。
最近は、イスカミューレン商会の仕事も受けてくれるのだが、その比率は、ジュエルイアン商会の方が、圧倒的に高い。
ジュエルイアンとヒュェルリーンが、帰国して、運良くフィルランカとエルメアーナに接触できたリズディアだが、それは、ジュエルイアンとヒュェルリーンを通じて、接触できたのだ。
その恩もあり、なおかつ、ジュエルイアン商会とイスカミューレン商会は、常に協力関係にあり、実際には、ジュエルイアン商会の方が、大きな商会なので、イスカミューレン商会のリズディアとしては、酷い手を使ってフィルランカ達を引き込む事はできない。
あくまで、正攻法で攻めるしかない相手なのだ。
ジュエルイアンとヒュェルリーンが、帰国したこの間に、卒業後の進路をカインクムの店ではなく、イスカミューレン商会にしたいと考えていた。
しかし、それをひっくり返すチャンスが来たのに、フィルランカは、一向に、リズディアの話に乗ってくることはなく、エルメアーナは、全く、興味を示さないのだ。
そして、カインクムにしても、イスカミューレン商会の仕事は、引き受けるが、ジュエルイアン商会の仕事を優先して、引き受けるので、そのため、大した量は、引き受けてもらえてないのだ。
それを、フィルランカを引き込むことで、カインクムとエルメアーナを取り込みたいと、密かに思っていたのだ。
リズディアは、フィルランカを引き込む計画が、全く進まない事にイライラしていたのだ。
そんな事もあり、リズディアは、仕事中にそのことを指摘されてしまった。
「義姉上、珍しく、イライラしてますね。 いつもの美人の義姉上の表情に、何だか、変な鋭さがありますよ」
その指摘を受けて、リズディアは、驚いたようだ。
「モンレムンは、何で、そんなに鋭いのよ。 うちの旦那だって、そこまで鋭く無いわよ」
リズディアは、否定もせず、少し怒った様子で答えた。
リズディアの商談の相手は、ツカ辺境伯領の長男である、ツカ・ベンミン・モンレムンと言い、2年前に、ツカ辺境伯領のツカラで、発生したツノネズミリスの討伐を行った、ツカ辺境伯領軍の司令官でもある。
モンレムンは、ツカラのツノネズミリスの討伐によって、昨年、帝都で勲章の授与と、大尉から少佐へ昇進している。
そして、父である辺境伯領の領主の命を受けて、イスカミューレン商会に、商談に来ていたのだ。
ただ、モンレムンは、ツカ辺境伯領の次期領主になる事もあり、皇帝の五女と政略結婚させられていた。
そのため、皇帝の長女であるリズディアは、モンレムンにとって、義理の姉にあたる。
その縁もあって、モンレムンは、リズディアに、ツカ辺境伯領へ、後払いでの開発援助をお願いに来ていたのだ。
その席で、妹の夫である、モンレムンに、自分の悩み事を指摘されてしまったのだ。
「義姉上は、ご自分で思っているより、周囲は、細かい部分まで、見ているのですよ」
「あらま、そうなの?」
「そうですよ。 皇位継承権を返上してイルルミューランに嫁いだとはいえ、リズディア様は、ご姉妹の中では、一番の美人と言われてたのです。 誰もが、その麗しいお姿を見て、今日は、楽しそうなとか、常に、リズディア様の表情を遠くから拝見させて頂いたのですよ。 私もその1人ですから、リズディア様の微妙な表情の変化は、分かりますよ」
リズディアは、恥ずかしそうに頬を両手で覆った。
モンレムンも意識して、義姉上から、リズディア様に呼び方を変えて、リズディアの微妙な変化を探ったようだ。
「まあ、そうでしたの。 だったら、これからは、もっと、表情には気をつけます」
モンレムンに指摘を受けたことで、自分のポーカーフェイスが、まだまだたと反省したようだ。
「ところで、どうなのでしょうか? 農地開発用の農具もですけど、その支払いを伸ばしてもらう件は、いかがでしょうか?」
「ええ、それは順調よ。 国庫の方からも今回の災害処理のために使われる費用の貸付もされているので、生産が安定するまで、支払いは、延ばせます。 その資金で、帝都の鍛冶屋に発注をかけているわ。 完成したものから、順次送っているので、安心して」
「ありがとうございます」
モンレムンは、辺境伯領の開発における物資面は、クリアーできた事にホッとしたようだ。




