フィルランカの相手が気になる2人
大学生になったフィルランカは、モカリナ、イルーミクの3人で、仲良く講義を受けていた。
3人とも同じ学部ということもあり、受ける授業も同じなので、校内では常に一緒の事が多い。
そして、フィルランカの食べ歩きも、時々、モカリナとイルーミクが一緒になることもあり、エルメアーナと4人で動いたり、そして、リズディアが合流することもある。
ここにきて、ヒュェルリーンが、急用で南の王国に帰国したこともあり、リズディアは、何かと、フィルランカに声をかけていた。
しかし、それは、モカリナにも配慮した形で行なっているので、2人が一緒にイスカミューレン商会に就職した時に、どんなことになるのかといった話だった。
だが、フィルランカは、卒業したら、カインクムの店を見るので、イスカミューレン商会には、入らないの一点張りだった。
その理由も、カインクムには、エルメアーナの代わりに学校へ行かせてもらった事もあり、幼年学校が終わったら、本来なら、進学せず、店番をするはずだった。
しかし、幼年学校の校長から、商業について、もっと、勉強をすることで、カインクムの店を大きくしてはと言われて、それに乗ったのだ。
だから、フィルランカとしたら、カインクムの店を大きくするまでは、カインクムに恩を返せない事になると断ったのだ。
それに対して、リズディアも反論した。
「だったら、私が、カインクムさんの店を、今の3倍の場所を提供します。 第1区画に良い物件があるから、それをカインクムさんに提供します」
そんな提案をリズディアは、するのだが、フィルランカは、一向に、はい、とは、言わない。
「それは、私が、カインクムさんの店を大きくしたのではなく、リズディア様が、大きくしたのです。 それでは、私は、カインクムさんに恩を返したとは言えません」
そう言って、突っぱねていた。
そんな話をエルメアーナは、どうでも良いことだ、自分には関係ないといった様子で、聞くだけだった。
ただ、イルーミクにしても、モカリナにしても、その提案をフィルランカが、断るのは変だと思っていたようだ。
リズディアにしても、フィルランカを自分のテリトリーに取り込みたいのだから、フィルランカに話をせずに、カインクムに話をするべきだろうと思っていた。
そして、フィルランカとしたら、リズディアの提案は、自分の判断の範疇を超えているのだから、本来であれば、カインクムと話をするようにと言うべきはずが、そうはならないので、2人のそんな会話を不思議そうに聞いていた。
ただ、そんな時、フィルランカは、何かを考えるような仕草をする。
(もう、なんで、リズディア様は、そんな事を言うのかしら? 私は、20歳になったら、カインクムさんのお嫁さんになるために、あの家に入ったのよ。 だから、誰が何と言おうと、卒業後、私は、カインクムさんの店に入るのよ)
エルメアーナ以外は、なんで、いつもは、おっとりしているフィルランカが、リズディアが、イスカミューレン商会に取り込もうとすると、はっきりと、否定することが、何でなのか不思議に思ったようだ。
(だけど、この話は、恥ずかしくて、モカリナにもイルーミクにも、絶対に言えない。 ましてや、リズディア様になんて、絶対に言えないわ)
そして、この話が終わると、時々、フィルランカが、ニヤニヤしたり、恥ずかしそうにする事があった。
それについて、モカリナとイルーミクは、気にはなっていたのだ。
そんなある日、大学が終わって、フィルランカと別れて、モカリナとイルーミクが、貴族街に帰る時、モカリナが、イルーミクの馬車に一緒に乗った。
「ねえ、イルーミク。 なんで、フィルランカは、ああも、リズディア様の誘いを断るのかしら?」
「それは、カインクムさんの店を大きくするためなのでしょ。 高等学校、帝国大学と、カインクムさんに学費を出してもらって、それに、お小遣いまでもらっているのよ。 まあ、そのお小遣いは、フィルランカの食べ歩きで、無くなってしまっているみたいだけど」
モカリナは、イルーミクの答えを聞いて、今までのフィルランカの行動を考えていた。
「でもね、イルーミク。 その食べ歩きだって、カインクムさんやエルメアーナに出す食事を作るために、フィルランカは、食べ歩いているのよ。 エルメアーナが、話していたけど、フィルランカは、色々な、お店の味を、家の料理として、再現してくれるって言ってたわよ」
それを聞いて、イルーミクも、フィルランカのお小遣いの使い道が、最終的には、カインクムとエルメアーナに還元されている事に気がついたようだ。
「そうね。 確かにそうね。 フィルランカのお小遣いって、フィルランカが、食べるだけで終わらないで、食べた物を、フィルランカが料理をして、カインクムさん達が食べているのよね」
「そうでしょ。 だから、フィルランカが食べた料理って、カインクムさん達に還元されているのよ」
フィルランカは、お小遣いを家のために使っている事が、確定的だと、2人は、理解できたようだ。
「うーん、そうね。 カインクムさんから貰ったお小遣いって、結局、カインクムさん達に還元されているわね」
「でしょ。 それって、何でなのかしら」
イルーミクは、モカリナの指摘を聞いて、フィルランカが、何で、そこまでするのか不思議になったようだ。
「ねえ、フィルランカは、何で、そんなに食べ歩いているのかしら?」
「ああ、それ、一回だけ聞いて、答えてくれたことがあったわ。 そう、料理が上手になるには、まず、味を覚えることから始めるって、言ってたわ。 それに、料理上手なのは、良いお嫁さんになるためだって言ってたわ」
それを聞いて、イルーミクは、目の色を変えた。
「ねえ、フィルランカの相手って誰なの?」
「サー?」
モカリナもそこまでは、聞いてなかった。
いや、聞いても、教えてもらえなかったのだ。
「ねえ、モカリナ。 今の話を総合していくと、フィルランカの想い人って、カインクムさんじゃないの?」
それを聞いて、モカリナは、固まった。
フィルランカは、エルメアーナと同じ歳であり、イルーミクともタメ歳である。
モカリナは、フィルランカの一つ下なのだが、今のイルーミクの話を聞いて、モカリナは、あり得ないと思ったようだ。
「それは、あり得ないでしょ。 カインクムさんは、エルメアーナのお父さんよ。 フィルランカは、親友のお父さんに恋しているってことなのよ。 そんなの、どう考えても、あり得ないでしょ」
その話を聞いて、イルーミクは、思わず、例え話が、頭に浮かんだようだ。
「うーん、つまり、モカリナが、私の父のお嫁さんになるってことと、同じってことなのよね」
イルーミクは、モカリナの話を総合すると、立場的には、そう言うことになるのだと考えたようだが、その言葉を聞いて、モカリナは、青い顔をしていた。
「そうね。 私も、モカリナが、そんな事になったら、ちょっと、引くわね」
そう言って、イルーミクは、モカリナを見た。
そこには、青い顔をして、イルーミクを見るモカリナがいた。
「どうしたの? モカリナ」
「ね、ねえ、わ、私を、イスカミューレン商会にって話には、そんなオチがあるの?」
モカリナは、イルーミクの、さりげない例え話が、実は、裏の計画としてあるのかと思ったようだ。
流石に、そのようなことは無いので、イルーミクもモカリナの反応に驚いたようだ。
「無いわよ。 そんな計画。 それに、もし、そんな計画が有ったら、私が真っ先に、反対するわよ」
イルーミクは、少し怒ったように言うので、真剣にそんな計画は無いとモカリナにも伝わったようだ。
「本当よね」
「本当よ。 そんな計画は、絶対に、あ、り、ま、せ、ん!」
その完全否定を聞いて、モカリナは、落ち着いたようだ。
「ねえ。 フィルランカとカインクムさんだけど、……。 無いわね」
「ええ、無いわ」
お互いにホッとした様子で、結論付けていた。
そして、2人は、ため息を吐いた。




