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カインクム家の日常の変化


 カインクムは、フィルランカの帝国大学入学後、フィルランカとも、エルメアーナとも、話をする機会が減ってきた。


 カインクムとしたら、忘れていた、フィルランカとの約束について、期限が迫ってきていた事を、ジュエルイアンに指摘されて、意識するようになってしまったのだ。


 そんな事もあり、今まで、子供だと思っていた2人が、大人になってきた事を嬉しくも思うのだが、大人になってきた、2人が、眩しく映るのだった。


 これが、早くに無くした妻が生きていたら、そんな事も無かったのだろうが、娘2人が、何を考えているのか、この年齢の女性に何と話し掛けてよいのか、困ってしまうことの方が多いのだ。


 その結果、カインクムは、2人から距離を置くようになった。


 そして、特に、フィルランカには、10歳の時、カインクムが引き取る際に約束した、10年後に同じように思っていたら、お嫁さんにしてあげるという事が、頭に残ってしまっているので、エルメアーナ以上に意識してしまっていた。


 それも、久しぶりにカインクムの店を訪れたジュエルイアンが、フィルランカの店での応対の品の良さから、カインクムにフィルランカを引き取った時の話を、根掘り葉掘り聞いて、そして、その時の約束の話まで、させられてしまったのだ。


 その結果、何度か、ジュエルイアンから、その約束について指摘されてしまい、カインクム自身が、その約束をどうしようかと、持て余してしまったのだ。


(困った。 フィルランカの事が、マトモに見ることができない。 あの約束の話を、今更、俺の方から言い出すのも、……。 うーん、おかしな話だ)


 カインクムは、フィルランカをどうしたらよいのかと悩んでいるのだ。


 約束は、不履行になる前提で、行ったのだが、それを伝えるべきか悩んでるのだ。


(そうだ。 10歳のフィルランカに約束した話だ。 これは、破棄されるためにというか、……。 うん、そうだ。 あの約束は、リップサービスなんだ。 だから、こっちからは、何も言う事はない。 それに、フィルランカが、誰か、若い男を連れてくるだろう。 ……。 そうだ、絶対に、そうなる。 だから、それを、待っていれば、構わないんだ)


 カインクムは、1人になると、いつも、同じような事を考えているのだった。




 カインクムの考えている事は、フィルランカもエルメアーナも知る事はなく、ただ、2人とも、カインクムの様子がおかしいと思っているようだ。


 エルメアーナは、いつものように、朝食を取ると、工房に行く。


 そして、注文の状況を確認して、その日に作る物の確認を行なって、作業を始める。


 仕事量は、多くは無いが、3人の家族が、暮らし、1人を大学に出す程度には、十分な金額になっている。


 最近は、カインクムとエルメアーナの腕が拮抗している事もあり、武器もだが、帝都の北の穀倉地帯から、農機具として使う、鎌や、鋤なども、注文が増えていた。


 カインクムの第3区画は、帝都の西門から、第8区画を抜ける必要があるが、帝都に来た農家の経営者が、自分の農奴のためにと買って行く事が多い。


 そして、商会からの発注もあるので、エルメアーナは、常に工房に入るようにしていた。


 10歳の時に学校に行くのを止めてから、常に、工房に入り浸り、父の技を盗んで、同等以上のものを作るまでになっていた。


 その腕が、口コミで広がっていたので、カインクムの店には、親娘の熟練工が居るとか、ここの農具は、なっが持ちするとか、評判になっていた。


 また、帝国軍からの剣の発注も、定期的に来ていたので、仕事は、暇でも忙しいでもなく、安定して注文を受けていた。


 最近では、イスカミューレン商会からも仕事を引き受けている事もあり、国内の辺境にもカインクムの名前は、伝わっている。


 エルメアーナは、鍛治仕事のスケジュールを確認すると、今日、仕上げる仕事の内容を見て、カインクムにも伝える。


 そして、自分の仕事とカインクムの仕事の振り分けも、ある程度行ってから、自分の仕事に入る。


 ただ、それは、最近、カインクムが、最初に工房に入るのではなく、店に出て、カウンターの椅子に座って、何かを考えているようなので、エルメアーナが、行っている。


(父は、私が、一人前になったと思って、スケジュール管理も行わせているのかもしれない)


 エルメアーナとしたら、自分を一人前にするために、鍛治のスケジュール管理も行わせているのだと思っているので、今日の予定を確認して、自分の仕事と、カインクムの仕事を割り振るのだ。


 その内容を聞いて、カインクムは、自分の鍛治仕事を行っていた。




 一方、フィルランカは、高等学校時代と一緒で、早目に起きて、3人分の朝食の準備と、自分のお弁当と、2人のお昼の作り置きを行って、駅馬車の乗り場に行く生活を続けていた。


 第3区画から第1区画の帝国大学へ行く駅馬車の時間は、高等学校時代から変わらないが、学校のスケジュールを確認すると、長期休暇が多くなったこともあり、その分、授業のある期間は、真面目に通学していた。


(大学の授業は、楽しいわ。 ミルミヨルさん達が私に着せてくれた衣装もだけど、あれの意味が、本当によく分かったわ。 宣伝というのは、とても重要な事だと理解できたわ)


 フィルランカは、主婦業と学業の両立を大変だとは思うのだろうが、それ以上に、大学で学んだ事を、カインクムの店で、どのように活かそうかと、それを考えることが、とても楽しいのだ。


(高等学校に入学した時は、カインクムさんもエルメアーナも、昔のような、食べたり、食べなかったりの生活に戻ったけど、今度は、そんな事も無いわ)


 フィルランカは、カインクムとエルメアーナが、食べたり、食べなかったりの生活に戻らなかったことに安堵していたのだ。


 用意する食事についても、ローテーションになってしまっているが、そのローテーションを長くすることで、2人に分からないように工夫していた。


 ただ、曜日感覚を持たせるために、週末には、毎回、同じ料理を出すのだが、それ以外の日は、翌週には先週の料理を出すことはしない。


 最低でも同じ料理を2週続けて行うのは、週末以外には、行わないようにしていた。


 そして、時々、別の料理を、イレギュラー的に出す事で、マンネリ化を解消するのだ。


 ただ、フィルランカとしたら、帝国大学に入った頃から、カインクムの言葉数が減ってきた事が気がかりだった。


 高等学校の初めの頃までは、3人で他愛もない会話で盛り上がったように思えたのだが、それが、今では、会話にぎこちなさを感じていたのだ。


(何でだろう。 カインクムさんの言葉が、減ってきたわ。 ……。 そう言えば、減り出したのって、ジュエルイアンさんとヒュェルリーンさんが、お店に来たあたりからかしら。 ……。 それに、私が、帝国大学に入った頃から、カインクムさんは、何だか、私と視線を合わせてくれないように思える。 ……。 視線が合うと、すぐに他を向いてしまうような気がするわ。 ……)


 フィルランカは、そんなカインクムの対応が、もどかしく思うのだが、それを、何でなのかと聞く気にはならないようだ。


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