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南の王国へ旅立つジュエルイアン達


 ジュエルイアンは、急に帝都を出る事になった。


 そのため、引き継ぎを急ピッチで行って、南の王国へ戻る日になって、カインクムの店にジュエルイアンとヒュェルリーンが、訪ねてきた。


 ジュエルイアンは、カインクムと、カウンターで、話を始めたので、ヒュェルリーンは、2人の娘達と、商談用のテーブルに移動した。


「突然、ごめんね。 帝都の第9区画の開発は、まだ、終わらないのに、うちのジュエルイアンが、帰るって言い出したから、私も、南の王国に帰らないといけなくなってしまったの」


 ヒュェルリーンは、名残惜しそうな様子で、2人に言うが、フィルランカとエルメアーナは、仕方なさそうな表情をしていただけだった。


「ええ、旦那様と、ご一緒なのですから、私は、ヒェルさんが、羨ましいです」


 フィルランカが、少し顔を赤くしてヒュェルリーンに答えるが、その言葉が、終わるか終わらないかで、エルメアーナが、ヒュェルリーンに答えた。


「問題無い! このところ、ヒェルと一緒だったけど、少し前までは、父と、フィルランカと3人で暮らしていたんだ。 寂しくないぞ」


 ヒュェルリーンは、エルメアーナの言葉を聞いて、顔を少し引き攣らせた。


「いや、そうじゃないのよ」


「ん? 何が、どうなっているんだ?」


 ヒュェルリーンは、困った表情をした。


「あのね、私達が、南の王国へ行くと、リズが、きっと、イスカミューレン商会に誘ってくるわ。 特に、フィルランカちゃんは、モカリナ以上に、イスカミューレン商会に欲しいと思っているのよ。 だから、きっと、あの手この手で、フィルランカちゃんを誘って、それと同時にエルメアーナも誘うつもりでいるのよ」


「そうなんですか」


「ふーん」


 ヒュェルリーンの言葉に、フィルランカとエルメアーナは、興味が無さそうに答えた。


 2人が、ヒュェルリーンの言葉を他人事のように聞いていたので、ヒュェルリーンは、心配そうな表情で2人を見た。


(もう、なんで、この2人は、こんなに呑気なのよ。 猛獣の開けた口の中にわざわざ飛び込んでいくみたいだわ。 大丈夫かしら?)


 ヒュェルリーンは、心配そうに2人を見た。


 その視線が、フィルランカに、プレッシャーを与えたようだ。


「ああ、私は、リズディア様に誘われようが、モカリナやイルーミクが、何か言ってきても、カインクムさんの店を出る気はありません。 私の未来は、卒業後に、ここのお店の店番と、2人の料理を作る事です。 だから、リズディア様が、何と言ってきても、その気持ちは変わりません」


 いつものフィルランカの様子とは違い、はっきりと答えた。


「そうだぞ、ヒェル。 私たちは、ずーっと、ここで暮らして、ここで、仕事をするんだ。 だから、リズディア様達は、関係ないぞ」


 エルメアーナは、ドヤ顔で、ヒュェルリーンに答えるのだが、ヒュェルリーンは、フィルランカを覗き込むように見た。


(この堂々とした物言いは、8年前に、この家に入った時の、カインクムさんのお嫁さんにしてもらう約束は、フィルランカちゃんの中で、まだ、生きているのね。 だから、リズの話をしても、考えは変わらないと言いたいみたいね)


 カインクムが、フィルランカを養女にすると言った時、フィルランカは、養女じゃなく、嫁にして欲しいと頼んだのだ。


 それに対して、カインクムは、10年後にフィルランカが、今と同じ気持ちでいたら、嫁にすると約束をしたのだ。


 フィルランカ10歳の時の話である。


 カインクムとしたら、その頃には、そんな約束が無かった事となっており、フィルランカが、自分で誰か好きな人を見つけるだろうと思っていたので、その場を取り繕うだけの嘘のつもりだったのだ。


 しかし、フィルランカには、そんな男の話など、何も無く、モカリナやイルーミクとエルメアーナを含めた4人で遊ぶことが多かったのだ。


 ここまでの8年間、フィルランカに男の話は、一言も無かったのだ。


(きっと、そうだわ。 フィルランカちゃんは、カインクムさんのお嫁さんになりたいのね)


 ヒュェルリーンは、カウンターでジュエルイアンと話をしているカインクムを見た。


(でも、なんでなのかしら、24歳も年上の人を好きになったのかしら? ……。 まあ、100歳の私と、32歳のジュエルイアンの例も有るから、私が、とやかくは、言えないわね)


 ヒュェルリーンは、ホッとした表情を見せた。


「そうね。 フィルランカちゃんは、ここの店で、カインクムさんとエルメアーナの3人で暮らしたいのよね。 フィルランカちゃんの意志が、はっきりしているから、リズのお誘いが、有ろうが、無かろうが、関係ないわね」


 そう言って、ヒュェルリーンは、フィルランカに笑顔を向けた。


「ごめんなさい。 私ったら、変な事に気を回し過ぎたみたいね」


 フィルランカには、ヒュェルリーンの笑顔も、言葉の意味も、よく分からないといった様子でヒュェルリーンを見返していた。


「フィルランカちゃんさえ、しっかりしていたら、きっと、ここで、3人で、ずーっと暮らせるわ」


 その言葉に、フィルランかもエルメアーナも、嬉しそうな笑顔を向けた。


(でも、本当に、それで、構わないのかしら? ……。 まあ、リズの懐柔計画は、途中で頓挫するだろうことは分かったわ。 今は、それだけでいいのよ。 きっと、良い方向に進むわ)


 ヒュェルリーンは、2人というより、フィルランカの言葉を信じたようだ。


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