開設前のギルド ツ・バール支部
ジュエルイアンは、第9区画の開発状況を確認しつつ、今日は、ギルド、ツ・バール支部のギルドマスターになるユーリルイスと、最終的な建物の打ち合わせを、ギルドの建物内で行なっていた。
ただ、ジュエルイアンとしたら、ユーリルイスの言うとおり、ギルドの建物を作るだけであって、室内の防御結界や、外部からの攻撃に対する防御結界などは、ギルドが行うようになっていたので、ジュエルイアンとしたら、ユーリルイスの要求に応じて、部屋の配置、壁の構造、ドアの位置などを、要求通りに行うだけなので、ある程度は、現場監督に任せているが、トップ会談によって決定される内容もあるので、帝都に詰めていた。
建物自体は、一部の内装を残して、完成しており、現在は、敷地内の建物の方に、ジュエルイアンの従業員達は、そっちの仕事に従事していた。
ギルドと、開発に関する打ち合わせは、ギルドの建物の中で、常に行うようにしていた。
何か不具合があれば、その内容を確認して、現場監督にすぐに指示を出せるように配慮しているのだが、今日は、そのような要求は無いようだ。
また、ギルド周辺の建物においても、冒険者の利用を優先して行えるように配慮されていた。
ギルドが使う冒険者に対しても、ジュエルイアン商会として、常に配慮を怠らないのだ。
住宅もだが、飲食店、宿、販売店、鍛冶屋、医薬品店、医者、必要と考えらる設備は、人も含めてジュエルイアン商会が、手配をかけていた。
カインクムのように、帝国臣民も居るが、不足する人材については、ジュエルイアン商会の支店を通じて、新たに、帝都に来てもらう人も居た。
計画の完成は、帝国暦360年なので、その時まで、もう、2年を切っているが、ジュエルイアンの行っている担当箇所は、順調に進んでおり、むしろ、予定を前倒しにしている部分まであるようだった。
そんな中、ジュエルイアンとユーリルイスの会談は、大きな揉め事もなく、予定通りに進んでいた。
「ジュエルイアンさん、ギルドの建物も、あとは、一部の内装を残すだけになった。 これなら、再来年と言わず、来年にも、ギルド ツ・バール支部を運営できそうですよ」
それを聞いて、ジュエルイアンは、渋い顔をした。
「おやおや、そんな事、ギルド本部の人に聞かれたら、本当に、そうさせられますよ。 ギルドの支部も出張所も、建物ができたとしても、その後の持ち込む設備の調整に時間がかかるでしょ。 それを考えたら、むしろ、再来年に開設するのが、ギリギリというところでしょう」
呑気な話をしたユーリルイスを、ジュエルイアンは宥めた。
ギルドは、冒険者の資産を保管するための銀行のような施設をもち、その保管金庫のセキュリティー対策には、魔法紋を利用して、侵入を防いでいることもあり、また、盗聴防止機能など、セキュリティー対策もだが、各ギルドの支部・本部・出張所を繋ぐ通信システム等、内部の設備を揃えるだけでも、かなりの時間がかかるのだ。
建物だけの事なら、それは、近いうちに完成するだろうが、その後の内部に設置するものについて、完全稼働させるまでには、更に時間が掛かる。
ジュエルイアンは、その辺りの事を、ユーリルイスに指摘したのだ。
「そうだったな。 建物だけ見ていたら、すぐに出来上がってしまうような気になっていたよ」
「そうですね。 新しいものは、早く使ってみたいですからね。 でも、早すぎるのは、未熟成の酒を飲むようなものですよ」
それを聞いて、ユーリルイスは、酸っぱそうな表情をした。
「ああ、確かにそうだな。 ちょっと、焦りすぎているようだな」
(まあ、無理もないだろう。 初めて、任されるギルドマスターで、しかも新設だからな。 浮かれるのも仕方がないか。 ……。 だが、ここは、東の森の魔物の脅威もあるし、それに帝国の魔物は、ランクも高いぞ。 下手な事をしたら、冒険者をどんどん減らすことになるからな)
ジュエルイアンは、前にいるユーリルイスから、視線を外さず、表情も崩さないようにみていた。
「そうですね。 私は、少し浮かれていたのかもしれませんね。 気を引き締めるようにします」
ジュエルイアンは、笑顔で答えた。
「ああ、そういえば、昨日、通信装置の設置が終わって、使えるようになったと言っていたよ。 忙しい商人さんだから、通信装置を使いたい場合は、言ってくだされば直ぐに用意させます」
ジュエルイアンは、喜んだが、それを表情には出さないようにしつつ答える。
「そうですか、それは、ありがたい。 早速、南の王国と連絡を取りたいので、取次をお願いしたい」
「早速、ご利用ありがとうございます」
ユーリルイスは、人を呼んだ。
すると、すぐに、職員の女性が入ってきた。
「ああ、サレンカレン。 早速、ギルドの通信装置のお客様だ」
そう言って、ジュエルイアンに視線を送った。
「早速、連絡を取りたいのだが、南の王国のジュエルイアン商会のスリンエル・ナラカオ・バルキンガルを読んでほしい」
「かしこまりました」
サレンカレンは、依頼を聞くと、すぐに退出していった。
サレンカレンが、出ていくのを待って、ジュエルイアンは、ユーリルイスを見た。
「あの女性は、貴族なのですか?」
ユーリルイスは、ジュエルイアンのい質問に、やっぱりといった様子をする。
「ああ、貴族の家の使用人だったようだ。 受付嬢とか、人は集める必要があると思っていたら、ある貴族から頼まれたんだ」
「ほー、そうですか」
「どうも、厄介払いをされたみたいなんだ。 婦人に遊んだ事がバレて、追い出されたみたいだ。 まあ、受付嬢として働いてもらう分には問題ないので、使うことにしたんだ」
ジュエルイアンは、ユーリルイスが、サレンカレンの事を細かく調べてあるように思えたのか、それ以上のことは、聞かなかった。
すると、サレンカレンが戻ってきた。
南の王国のギルド支部には連絡が取れました。
「ジュエルイアン商会まで、早馬を走らせました。 あちらの都合を確認するまで、30分程掛かります」
「ありがとう。 それじゃあ、30分後に、また、顔を出すようにするよ」
「かしこまりました。 私は、下の階の受付用の場所におりますので、お声を掛けて頂ければ対応するようにいたします」
「わかった。 その時は、そっちに顔を出すようにするよ」
そこまで話をすると、サレンカレンは、また、退出していった。
「それじゃあ、私たちは、周辺の確認に行くよ。 30分後に、彼女のところに顔を出す」
「ああ」
そこまで言うと、ジュエルイアンも、席を立って退出していった。




