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フィルランカの事を思うカインクム


 入学式の後、カインクムは、フィルランカを直視出来ずにいた。


 それは、18歳のフィルランカと10歳の時にした、約束のことがあったからだ。


 フィルランカは、カインクムの養女として、孤児院のシスターと話をしたのだが、フィルランカは、その時、養女ではなく嫁にして欲しいと言ったのだ。


 その時、シスターとカインクムは、フィルランカの話を10歳の少女の戯言と聞いていた。


 そして、カインクムは、そのフィルランカの嫁にしてほしいと言われた回答を、10年後にフィルランカが、今と同じ思いでいたら、嫁にしようというものだった。


 それは、フィルランカが、20歳になった時なので、カインクムもシスターも、その約束が10年後に実行されるとは思っていなかった。


 少女が、10年も同じ人を、しかも、24歳年上の男性を思い続けるとは、2人は思わなかった。


 その時期になったら、きっと、若い男子を選ぶことになるだろうことは目に見えていたのだ。


 ただ、幼年学校を卒業して、高等学校の生活を終わらせても、カインクムの予想に反して、フィルランカに、そんな浮いた話は無かった。


 カインクムは、幼年学校の校長先生に頼まれて、高等学校へ行くことが決まった時に、進学したら、好きな男でもできるのでは無いかと思っていたのだが、付き合いのあるのは、侯爵家のナキツ・リルシェミ・モカリナと、イスカミューレン商会を運営する貴族の、スツ・メンレン・イルーミクと、どちらも女子だった。


 そして、家に遊びに来た、モカリナとイルーミクに、フィルランカの男性関係の話を、それとなく、探るように聞いたこともあったのだが、フィルランカの友達であるモカリナからも、イルーミクからも、フィルランカの男性関係の話は無かったのだ。


 学校内で、フィルランカの好きな男ができなかったのは、モカリナとイルーミクからしたら、自分達の思惑には都合が良かったのだが、カインクムとしたら、フィルランカの幸せを考えると、少し寂しくもある。


 孤児のフィルランカなら、貴族ではない、帝国臣民の商人の三男坊か四男坊と、恋仲になってもらえればと思っていたのだ。


 最悪、商家の後継だったとして、嫁ぐことになり家を出ることになっても、それはそれで構わないとも思っていたのだ。


 ただ、フィルランカ18歳になって、そのような話を聞かないのは、今でも、カインクムへ思いがあるのではないかと、ジュエルイアンに指摘されたことで、カインクムは、自分自身、フィルランカとどう接していくのが良いのか、分からなくなってしまい、困っているというのが実情である。


(くそー、ジュエルイアンに、フィルランカの事を、詳しく話し過ぎたな。 入学式以降、フィルランカを、ちゃんと見ることができないぞ。 全く、ジュエルイアンが、そんな事を言わなければ、こんな事にはならなかっただろう)


 カインクムは、1人でいると、イライラしてしまっていた。


(なんで、あの時、ジュエルイアンに教えてしまったんだ)


 ジュエルイアンに教えてしまったことで、入学式に指摘されてしまったのだ。


 それで、後2年で、約束の期限になることを、カインクムが意識してしまったのだ。


 特に、少女の18歳なら、化粧をせずとも、肌のきめ細かさ、体のラインなど、どれをとっても、何もせずにいても魅力的である。


 そして、ミルミヨルによって、体のラインが綺麗に見える衣装を用意してもらっているので、とても魅力的になってしまっているのだ。


 そんな、とても綺麗な少女が、8年前に嫁にして欲しいと言ったのだ。


 カインクムは、そんなフィルランカが、とても眩しくて仕方がないのだ。


 そして、その様子が、娘のエルメアーナにも知られないように、気をつけていたので、工房で作業をする以外の時間は、なるべく、エルメアーナからも離れるようにしていた。


 そんなこともあり、カインクムは、店にいる時間が多くなっていた。


(エルメアーナは、そんな男と女の関係に敏感ではなさそうだが、鍛治技術の微妙な変化にも敏感だからな。 警戒するに越したことはないだろう。 俺の気持ちの変化を見抜かれて、フィルランカに伝わったら、事だからな)


 家の中で、作業をしている、カインクムと、エルメアーナなので、常に顔を合わせる事が多いこともあり、カインクムは、可能な限り、エルメアーナとも距離を取るようにしていた。


 工房では、作業内容によっては、エルメアーナと一緒に行わないといけないものは、エルメアーナと一緒に作業をするが、それ以外は、エルメアーナに工房を任せて、カインクムは、店番をするようにして、工房と店とに分かれるようにした。


(我ながら、情けないことだな。 いっそのこと、フィルランカに、あの時の約束は、あの場を凌ぐために言った嘘だから、誰か、良い伴侶になりそうな男性を帝国大学で見つけなさいと言うべきなのだろうか?)


 カインクムは、1人になると、常にフィルランカの事を考えてしまうのだった。


(だが、フィルランカは、8年前の約束について、何も言ってこないのだから、フィルランカ自身が忘れている可能性だってあるのか? ……。 だったら、黙って、このまま、やり過ごしていたら、フィルランカが、嫁に行きたいと、誰か、男を連れてくるかもしれないんじゃないのか?)


 カインクムは、難しそうな顔をして、店のカウンターの椅子に腰を下ろして、腕を組みながら難しい顔をしていた。


(ああ、だったら、やっぱり、黙って、そのまま、やり過ごして、フィルランカが、自分で、誰か、旦那となる男を連れてくるのを、待ったほうがいいだろうな)


 カインクムは、時々、店番をする時に、フィルランカの事を考えるようになっていた。


 ただ、その様子を、時々、店を訪れる人達に目撃されている。


 カインクムは、真剣に考えているので、店に入ってきた客を見落としてしまうことが多くなったのだ。


 周囲は、42歳のカインクムが、まだ、ボケがはじまったとは思えないので、最近のカインクムが、何でそんな状況なのか気になっていた。


 ある者は、扉を開けた瞬間、怖い顔をしていたので、その開けた扉を、ゆっくり戻して、店を去って行ったり、店の商品を物色していた時、カインクムが、唸り声を上げて、天井を睨んでいたとか、カインクムの様子がおかしいという噂が流れ出した。


 だが、カインクムの、その様子について、誰も話を聞く者がおらず、何か様子が変だとだけ噂が流れていた。


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