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入学式が終わって


 フィルランカは、オリエンテーションが終わると、モカリナとイルーミクと一緒に教室を出た。


 同じクラスには、知った顔も数名あった。


 それは、同じ高等学校から入学してきた生徒達だったが、フィルランカ達3人には、挨拶はするが、積極的に話しかける様子は無かった。




 高等学校時代から、フィルランカには、皇帝陛下の落とし子という噂があった。


 それには、ナキツ家が、フィルランカを秘密裏に、護衛を行なっていたという話も含まれていた。


 モカリナは、年齢的に、フィルランカと歳も近いこともあり、フィルランカの学校内での護衛を行っているという事になっていた。


 そして、2人が、2年になって、スツ家のイルーミクが、モカリナとフィルランカと親密になった事で、その噂は、真実味を帯びてきたと、勝手に噂が一人歩きしたのだ。


 イルーミクのスツ家は、長男のイルルミューランが、第21代皇帝 ツ・リンクン・エイクオンの長女である、リズディアを嫁にしたことで、スツ家もナキツ家と一緒に、フィルランカを保護しているのではないかと、噂になったのだ。




 エイクオンが、皇帝位を継いでから、貴族の粛清が頻繁に行われていた。


 貴族として、相応しくない家の取り潰しが、皇帝陛下の命によって相次いだ。


 それは、帝国の秘密諜報機関により、その家の不正が暴かれて、報告を受けていたのだが、周囲は、その事実を知らないので、全ての事を知っていた皇族が怖かったのだ。


 その結果、フィルランカ達と接触する事は、家の秘密を暴く手段として使われているのかもしれないと、疑う家もあったのだ。


 痛くも無い腹を探られるのでは無いかと、各家は考えていたので、家としては、フィルランカ達3人に、自分達の子供を近づけたい気持ちもあるのだが、できずにいた。


 その3人から、自分の家の情報が漏れるのではないか、疑心暗鬼になり、不用意に近づけられずにいた。


 取り入る事ができれば良いのだが、皇帝陛下と皇室から、目をつけられているので、自分の子供を使って、家の内情を知られるのではないかと疑ったのだ。


 些細な不正なりを、利用して、家の取りつぶしをされる事を嫌った貴族達が距離を取ったのだ。


 そのため、周りは、フィルランカ達3人を警戒するようになったのだ。




 しかし、現実には、フィルランカが、エイクオンの落とし子ということは、全くのデマ話で、そんな事実は全く無いのだが、噂の真相を探ろうという生徒達は誰も居なかった。


 フィルランカとしたら、モカリナとイルーミクの2人と、楽しく学校生活を送れることで満足しており、モカリナにしても、イルーミクにしても、フィルランカが、他の貴族のテリトリーに引き込まれそうもない、その現状が都合良くもあった。


 その噂のおかげで、フィルランカを、警戒しているので、他の貴族は、フィルランカに警戒心を抱いていたので、その状況が都合が良かったのだ。




 モカリナとしたら、学校を卒業した後の自分の未来は、リズディアと共に働きたいと思っているので、イルーミクと交流を持てるのは有り難い。


 そこに、才女のフィルランカが加われば、何か事業をイスカミューレン商会の中で作ることも可能だろうと思っていたのだ。


 そして、イルーミクとしても、リズディアと親密になる事で、スツ家での重要度が増す事になる。


 そのため、モカリナもイルーミクも、そのフィルランカが、皇帝陛下の落とし子という噂を、否定も肯定もせず、利用していたのだ。




 モカリナのナキツ家としては、最初は、モカリナが先走ってしまったと思っていたのだが、フィルランカの噂の真相を確認して、フィルランカは皇帝陛下の落とし子では無い事を知っていた。


 最初は、帝国臣民のフィルランカと友人関係である事を嫌っていたが、フィルランカと接触してから、モカリナの成績が上がったことと、飛び級ができそうだと思うと、2人の関係を引き裂くようなことは行わなかった。


 そして、学年が上がると、モカリナは、スツ家のイルーミクと親密になりだした。


 イルーミクと、リズディアと交流を持てる事となり、その事実関係からフィルランカとの友人関係には、モカリナにメリットの方が多いと判断された。


 そして、スツ家とナキツ家の、家同士の交流も増えていたのだ。




 モカリナとイルーミクは、フィルランカと、3人での学校生活を楽しんでいたが、帝国大学に入学して、周りの貴族達の様子を見て、それは、続きそうだと思ったようだ。


 モカリナもイルーミクも、高等学校時代の噂が、帝国大学になっても有効だと判断したようだ。




 2人は、安心した様子で、フィルランカと一緒に、教室を出ると、玄関に向かう。


 そして、スツ家、ナキツ家、ジュエルイアン商会と、カインクムの家族達と合流するのだった。


 スツ家にしても、ナキツ家にしても、貴族でもない家族と一緒にいる事は、通常ではあり得ない。


 しかし、大陸の全ての国に支店を持つ、ジュエルイアン商会と、帝国一の鍛治技術を持つ、カインクムとエルメアーナの親娘と、モカリナの成績を上げることに貢献してくれたフィルランカは、貴族では無くても、敬意を払う対象となっていた。


 その態度が、周囲には、余計に噂の真実味を帯びているように思えることになるのだが、当人達は、全く気にしていなかった。


 そして、当のフィルランカには、噂のことは、全く知らない話になっている。


 それは、カインクムとエルメアーナにも言えた。




 校舎の玄関先では、スツ家とナキツ家と、ジュエルイアン達、そして、カインクム親娘が、3人を待っていた。


 モカリナとイルーミクは、お互いの家人達の元に行くので、フィルランカもカインクムの方に向かった。


 カインクムは、ジュエルイアンと、エルメアーナは、ヒュェルリーンと何やら話をしていた。


 フィルランカに最初に気がついたのは、カインクムだが、先に声をかけたのは、ジュエルイアンだった。


「おお、フィルランカ。 もう、入学式は、終わったのか?」


「はい、終わりました」


「そうか、じゃあ、これから、全員でお祝いに行こう」


「ありがとうござます」


 フィルランカは、ジュエルイアンに、お礼を言うと、カインクムに向いた。


「カインクムさん、無事に帝国大学に入学できました。 これも、カインクムさんのお陰です。 本当に、ありがとうございました」


 カインクムは、少し恥ずかしそうに聞いていた。


「あ、ああ、だが、入学しただけだ。 これから、もっと難しい事を習うのだからな。 ちゃんと、卒業してくれれば、それでいい」


 カインクムの言葉を、フィルランカは、有り難く、そして、嬉しく思ったようだ。


「はい、しっかり、勉強して、カインクムさんのお店を、もっと大きくするように頑張ります」


「お、おお」


 カインクムは、フィルランカの答えにオドオドした様子で答えた。


 カインクムは、ジュエルイアンに言われた事が、気になって、フィルランカを直視できないのだが、それを何とか誤魔化そうとしているようだ。


 ただ、その様子をジュエルイアンは、面白そうに見ていたが、何も言う気は無いようだ。


 そんなジュエルイアンをヒュェルリーンが、あまり意地悪をするなといった表情で見ていたのだが、さらに、その様子をエルメアーナが見ていた。


 しかし、エルメアーナは、ヒュェルリーンが、何でそんな表情をしたのか理解できない様子で見ていたが、何も聞こうとしなかった。


 カインクムとジュエルイアン達は、フィルランカが、カインクムの家に入る経緯を知っており、入学式の前に、ジュエルイアンが、カインクムを冗談半分でフィルランカをどうするのかと話をした。


 その事を、ヒュェルリーンもジュエルイアンから、聞いていたので、これからのカインクムとフィルランカの関係がどうなるのか、気になるところだった。


 ただ、その経緯について、モカリナのナキツ家、リズディアとイルーミクのスツ家としては、知らなかったので、どちらの家も、カインクム、ジュエルイアン、ヒュェルリーンの様子を確認していたのだが、何で、そんな表情をしたのかは、誰も、分からなかったようだ。




 その後は、フィルランカ、モカリナ、イルーミクの入学を一緒に祝うために、第1区画のレストランに行くのだ。


 その様子を見た周囲の貴族からは、フィルランカの噂の信憑性が高いのではないかと、また、噂が広まることになっていた。


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