入学式のフュェルリーンとフィルランカ達
帝国大学の入学式は、滞りなく行われた。
来賓の代表として、リズディアとヒュェルリーンが、挨拶をした。
ただ、ヒュェルリーンが、呼ばれた時に、リズディアが、壇上で、あからさまにフォローする態度を見せたことで、会場は少し騒ついたが、それだけで終わった。
明らかに、ヒュェルリーンと親密な関係でありそうな態度を見て、周辺の貴族達から、変なヤジも出る事なく、ヒュェルリーンの挨拶も終わった。
これは、リズディアの兄であり、第1皇子であり、次期皇帝の指名を受けている、ツ・リンケン・クンエイから、リズディアが、依頼を受けていて、4年後に完成する、ギルド ツ・バール支部へ、帝国が、亜人奴隷制度を廃止するための手順を踏んでいる事を、内外にアピールする為に行っているのだ。
亜人奴隷制度を採用している国は、大陸内では、大ツ・バール帝国のみとなっており、今まで、ギルドの設立を拒んできたのだが、国として、ギルドとの友好を深めるために、支部の設立を認可して、そのため、新たに、帝都の南側に、今までない大規模開発を行って、誘致を促したのだ。
それには、帝都の西に開発中だった、第8区画を途中で止めて、新たに、ギルドと、所属する冒険者達、そして、帝国内に生息する上級の魔物の討伐を、冒険者に下請けに出す事で、帝国は、増え続ける軍事費の削減を狙ったのだ。
ただ、帝国領土内の魔物は、新人冒険者だけで狩れるような魔物では無いので、ギルドができたからといって、帝国臣民が、すぐにギルドへ冒険者登録しても、Fランクの冒険者なので、その冒険者が、簡単に倒せるものではない。
帝国は、ギルド ツ・バール支部を設立することで、上位の冒険者を呼び込む事を考えているのだ。
そして、帝国臣民の中で冒険者になりたい者が出たなら、帝国内で登録させ、他国で経験を重ねてから戻す事で、帝国内に上位の冒険者を呼び込もうとしているのだ。
帝国には、魔物の脅威と戦い続ける必要がある。
それは、帝国の東に、大規模な森が、南北に広く連なっているのだが、そこには、東の森の魔物という、今まで、1匹も討伐されてない魔物が存在する。
帝国は、独自の魔道具により、その東の森の魔物を退治するのではなく、森へ追い返しているだけなので、討伐というより、防衛が主な仕事となっている。
ただ、魔道具によって、東の森の魔物を森に追い返すにしても、その魔物の力は圧倒的なので、1匹を追い返すだけでも、被害を受けることが、よくあるのだ。
場合によっては、死者も出る。
そのような魔物の生息地を領土の東に抱え、なおかつ、領土内の魔物も、高ランクとなっており、各市町村でも、魔物の脅威から守るための大きな防壁があり、その中で暮らす事を余儀なくされている。
そして、農業用地においても、魔物除けの柵や、避難所が設置されており、常に、魔物から命を狙われる脅威が有るのだ。
それは、拡大し続ける、帝国の農地への対応、世界の穀物を支える帝国としては、常に農地の拡大と、その生産性についても、国として考える必要のある部分だと言える。
特に、農業生産のために亜人奴隷を推奨していたのだが、大陸全土で亜人奴隷を許可している国が、帝国だけになってしまったこと、そして、他国から亜人奴隷を集める事が難しくなってしまった事もあり、ギルドの召喚獣による、生産性の高さが、決め手となり、帝国もギルドの誘致を決定したのだ。
ただ、帝国暦85年に承認された亜人奴隷制度を、271年も続けていた事は、帝国臣民にとって、大きな偏見を生んでいたのだ。
それをギルドの召喚獣を使う農法によって、帝国内の農業改革と帝国臣民の意識改革を行おうと、その一環として、ヒュェルリーンに白羽の矢が立ち、帝国大学での来賓挨拶だったのだ。
ジュエルイアンは、南の王国の商人なのだが、その筆頭秘書官にエルフのヒュェルリーンを使っている。
そして、リズディアとも、帝国一の商会であるイスカミューレン商会とも、太いパイプを持っており、その関係で、第9区画の開発にも携わっており、帝国大学の研究開発に資金援助も行っている。
また、ジュエルイアンは、南の王国の商人であったので、ギルドも南の王国に本部を設置していることから、ギルドとの繋がりも強いのだ。
帝国ともギルドとも、大きなパイプを持っているジュエルイアンは、帝国からもギルドからも重宝な商人と言える。
その事もあって、帝都の第9区画の開発には、ジュエルイアン商会もイスカミューレン商会の下請けとして深く携わっている。
そのことが、次期皇帝であるクンエイの目にとまり、今後の政策のための布石としたのだ。
クンエイは、リズディアとの縁によって、ヒュェルリーンに、その一角を担わせた。
そのためには、皇城内、大学側、行政府、大物貴族と、様々な根回しを、帝国大学へフィルランカ達が入学する前に行っていたのだ。
ただ、それは水面下で行われていたので、今年、入学する学生達は知ることは無かった。
入学する側のフィルランカ達は、リズディアの挨拶には、とても嬉しく思っていたようだが、その後に出てきた、ヒュェルリーンを見て驚いていた。
そして、自分の知り合いが、挨拶に立った事を、嬉しいような、恥ずかしいような表情で、見ていたのだ。
しかし、それは、最初だけで、ヒュェルリーンの話を聞いて、ジュエルイアン商会についても、わずかばかりの知識を得たようだ。
フィルランカ、モカリナ、イルーミクは、今まで、エルフのヒュェルリーンと思って、軽い気持ちで付き合いをしていたのだが、ヒュェルリーンの話が終わる頃には、3人の表情が、硬化していた。
(((私達、リズディア様といい、ヒュェルリーンさんといい、とんでもない、立場の人達と接していたのね)))
ヒュェルリーンの所属する、ジュエルイアン商会は、大陸の全ての国に支店を持つ、大商会であり、規模からしたら、リズディアのイスカミューレン商会よりも大きいのだ。
そんな大商会の筆頭秘書官と、今まで、気軽に接していたのだ。
モカリナとしたら、入学式前に愛称呼びを了解してもらったのだが、本当に大丈夫なのかと心配になってしまい、イルーミクにしたら、家の商会と取引のある商会程度にしか聞いてなかった事もあり、そして、リズディアやイルルミューランともフレンドリーな感じで接しているので、相手の商会が、どの程度のものかは、知らなかったので、驚いたようだ。
ただ、フィルランカも、そんな大きな商会だと思ってなかったのだが、フィルランカの世界観からすると、立場が上だなとは思ったのだろうが、2人ほど驚いたようではない。
なんとなく、えらい人なのだと思った程度のようだった。




