ジュエルイアンの話を聞くカインクム
フィルランカ達が、リズディアとヒュェルリーンと談笑し始めたので、ジュエルイアンとカインクムは、少し離れた場所で、2人きりになった。
2人は、リズディアとヒュェルリーンを囲むように、フィルランカ、エルメアーナ、モカリナ、そして、イルーミクが、その話に入っている姿を微笑ましく見ていた。
「なあ、カインクム」
「なんだ?」
ジュエルイアンは、女子達の方から、視線を戻す事なく、カインクムに話し掛けたのだが、カインクムは、ジュエルイアンの方を向いて答えた。
「なあ、お前の所のフィルランカは、これから先、どうするつもりだ? 高等学校も飛び級で、更に成績も優秀だっと聞くぞ。 そんな才女をこれからどうするつもりだ」
それを聞いて、カインクムは、ジュエルイアンが、どんな答えを求めているのか、気になったようだ。
「このまま、帝国大学を卒業させて、お前の店で、店番をさせるつもりなのか?」
カインクムは、黙って聞いていた。
そして、その答えをカインクムは、みつけているようだった。
「帝国大学に入れる程の才女だ。 しかも、貴族の保護下に無いんだぞ。 イスカミューレン商会も、あわよくば、取り込みたいと思っている。 それをされたら、お前とエルメアーナが、どうなるのかと思うとな、完全に取り込まれないようにはしていたが、これから先は、帝国大学に入るのだから、学内での勧誘は多くなるだろうな。 そこまでは、俺の力じゃ関与できない。 自分の商会に、呼び込もうと思っている商人もだが、貴族にしても、荘園の運営のために、取り込みたいと思う連中もいるはずだ」
カインクムは、ジュエルイアンの話に納得した表情をした。
「その時は、その時だ。 俺としたら、フィルランカに、良い未来ができれば、それで良い。 だから、大学で誰かに認められて、その方向に進むのも手だと思っている」
カインクムは、建前のような話をしたので、それを聞いたジュエルイアンは、ニヤリとした。
「そうか。 だったら、帝国大学を卒業した後、俺は、ヒュェルリーンの下に付かせて、どこかの部門を任せるか、それとも、何処かの国の支店を任せるようにするが、それでも、構わないって事だな」
ジュエルイアンの話に、カインクムは、少し、引き攣った表情をした。
「ジュエルイアン。 お前、フィルランカを、お前の商会で採用したいのか?」
そのカインクムの質問に、ジュエルイアンは、笑顔になった。
「当たり前だ。 帝国大学だぞ。 大学の歴史は、他国より短いが、他国の大学と遜色ないレベルだぞ。 そこに入れただけでも、フィルランカは、優良物件に違いないからな。 今から、ちゃんと、目を付けているんだ。 まあ、俺としては、お前の手前、それ程、大っぴらな勧誘はするつもりは無かったが、……。 ほら、リズディア殿下は、モカリナと一緒に、フィルランカも自分の商会に取り込みたいと思っているぞ」
そう言って、リズディア達の方を指差した。
そこには、ヒュェルリーンと話をしつつ、フィルランカと、モカリナに手を回しているリズディアがいた。
高等学校時代から、時々、イルーミクを使って、接触を図っていたリズディアなのだ。
モカリナの件もあるが、あわよくば、フィルランカも取り込みたいと考えていたのだ。
イスカミューレン商会としたら、帝都で、名のあるカインクムとそ、その娘のエルメアーナの作る製品も目を見張るものがあると、噂になっているのだから、その2人を、ジュエルイアン商会の、ほぼ、傘下として、帝都で営業しているのは、焦ったい思いをしているのだ。
目の前に、豪華な料理を出されているのに、食べらずに見ているだけで、なおかつ、それをジュエルイアンと、ヒュェルリーンが食べようとしているようなものだ。
リズディアとしたら、なんとか、フィルランカと、あわよくば、エルメアーナとカインクムも自分の傘下に収めたいと思っているのだ。
今のところ、接触ができるようになり、仕事をお願いするような関係にはなっているが、それ以上の関係に発展させたいのだ。
リズディアは、そんなこともあり、ヒュェルリーンの前で、あからさまに、フィルランカにアピールしていたのだ。
カインクムとしたら、そんなものなのかと、ただ、ぼーっと、その様子を眺めていた。
「どうだ。 殿下の様子からしたら、あれは、他の貴族や商人達から、2人は、私が先に目をつけた。 だから、抜け駆けをするなら、私を敵に回すことになると、暗にアピールしているんだぜ」
ジュエルイアンの解説を聞いて、カインクムは、表情が真剣なものになった。
(それでも、構わないのか。 いずれにせよ、フィルランカが、どう考えるかだ。 イスカミューレン商会に入れるなら、……。 それに、リズディア様に、あれだけ、気に入られているなら、悪いようにされることはないだろう。 だったら、卒業後は、イスカミューレン商会にお世話になってもいいのかもしれないな)
カインクムは、フィルランカの周りに居る、モカリナとイルーミクを見た。
そして、娘のエルメアーナを見る。
(そうだな。 エルメアーナの将来となったら、フィルランカと2人で、俺の店を継いで、生きるというのも手だが、大手のイスカミューレンの傘下で、フィルランカとエルメアーナが、世話になることだって、良い方法だな)
カインクムは、黄昏たような表情で、2人の娘の将来について考えつつ、その様子を見ていた。
そんなカインクムに、ジュエルイアンは、意地悪そうな表情をして、チラリと視線を向けた。
「それに、フィルランカは、18歳になるんじゃないのか? お前との約束の期限は、2年後じゃないのか?」
そのジュエルイアンの言葉に、カインクムは、ギクリとした。
(あっ! やっぱり、こいつに、その話はするんじゃなかった)
カインクムは、後悔するような表情をした。
「フィルランカを、引き取るときの約束は、どうするんだ? お前は、10年後に今と同じ気持ちだったら、嫁に貰うと約束しているんだろ」
カインクムは、顔を少し赤くした。
「その約束を、フィルランカは、解消してほしいと言ってきたのか?」
カインクムは、その言葉が、心に刺さったようだ。
「高等学校時代なら、学校で、気になる男子だってできるはずだ。 だが、ヒュェルリーンの話だと、フィルランカに、そんな浮ついた話は、一切無かったと聞いている。 案外、フィルランカは、10歳の時の約束を、今でも大事にしているんじゃないのか?」
カインクムは、黙ったまま、ジュエルイアンの話を聞いていた。
「まっ、その話は、お前とフィルランカの問題だ。 俺は、なんも関与はしない。 ただ、殿下の様子を見ていると、フィルランカに虫が付く可能性は、限りなく低いだろうな」
ジュエルイアンは、フィルランカ達の周りを、遠巻きに見ている男女学生と、その親達と思われる人達を見た。
それは、リズディア達の輪の中には、入れそうも無いと、表情に出ているようだった。




