帝国大学の入学式
フィルランカと、モカリナ、そして、イルーミクは、帝国大学へのし進学を決め、無事、入学した。
3人は、学部も同じになった事もあり、常に一緒に行動することとなる。
そして、高等学校時代からの付き合いとなり、かなり、交流も続いたので、お互いの家に、行き来も盛んだった。
フィルランカの住むカインクムの店に、2人が遊びにいく事もあり、モカリナもイルーミクも、エルメアーナと、カインクムとも面識を持ち、貴族と帝国臣民の身分差があるのだが、その身分差を、全く感じない付き合いをしていた。
カインクムの家に、モカリナとイルーミクが、家に遊びに来ると、フィルランカとエルメアーナが一緒になって、女子4人で、台所を占領して、自分達で持ち寄った材料で、お茶菓子を作り、お茶を楽しむようになっていた。
そして、カインクムも、誘われて、女子4人の中で、恥ずかしそうに、そして、美味しそうに食べていたのだ。
そんな事もあり、カインクムとしたら、2人を貴族のご令嬢としてではなく、フィルランカの友人のモカリナとイルーミクとなっていた。
帝国大学の入学式の時に、カインクムとエルメアーナが、フィルランカと一緒に来ると、モカリナもイルーミクも、カインクムに挨拶をするのだが、侯爵家のモカリナ、爵位の無い貴族ではあるが、イスカミューレン商会の、そして、元皇女だったリズディアの義妹であるイルーミクが、フィルランカ達を見ると、カインクムとエルメアーナにも、丁寧に挨拶をしたのだ。
そして、入学式に出席したリズディアも、カインクム達に、丁寧に挨拶をしたことを、周りの貴族達が見ていたことにより、カインクム達は何者なのかとなっていた。
カインクムにしても、何度か、リズディアと接していた事で、あまり、固くなったような表情もなく、対応できていたので、知らない者からしたら、皇族とも貴族とも、堂々と渡り合う知らない顔となってしまった。
入学式に出席した貴族達からは、リズディアの顔は知っていても、腕の良い鍛冶屋だったとしても、ただの、帝国臣民であるカインクムなど、顔を知るものは居ない。
大半の出席者の中で、カインクムを知るものが居ないので、リズディアの挨拶を受けた、あの人物は、誰だとなっていた。
しかし、誰もカインクムに、なんで、リズディアと親しくしている、その理由を聞く事は無く、遠巻きに、その様子を見ているだけだった。
カインクムと連れているエルメアーナと、入学式に出席するらしき、装いのフィルランカを見ると、フィルランカが、今度、入学した学生だと分かるのだが、その保護者であるカインクムの姿が、正装しているのだが、どうも、着慣れた様子がなく、久しぶりに一張羅を着たような、ぎこちなさが有ったので、明らかに場違いさを漂わせていたのだ。
ただ、エルメアーナは、フィルランカの食べ歩きに付き合うようになっていたので、それなりに、着こなしていたので、2人の娘と、その親であるカインクムのギャップが、周りには、妙に映ったようだ。
カインクムは、そんな周りの視線に晒される事が、痛いと感じていたようだ。
そんなカインクムに、近寄ってくる長身の男女がいた。
「よお、カインクム。 馬子にも衣装だな」
そんなカインクムに声を掛けるものがあった。
カインクムは、その声の方向を見ると、そこには、商人風の大男と、その大男より僅かに身長の低いエルフの女性が、並んで立っていた。
ただ、そのエルフの女性は、商人風の男より少し小さいが、明らかに周りの女子達から、頭1つは軽く抜け出す程の高身長だった。
「本来なら、フィルランカか、エルメアーナに言うのだろうけど、親のお前の方が、その言葉がお似合いだぞ」
商人風の大男は、笑いながら、カインクムにそう言うのだが、隣のエルフの女性は、申し訳なさそうに引き攣った笑いを浮かべていた。
「なんだ、ジュエルイアンか。 俺が、何を着ても構わないだろう。 それに、俺は、鍛冶屋だ。 着る物で勝負はしてない」
ムッとした様子で、カインクムは答えたのだが、不思議そうに話しかけてきたジュエルイアンを見ていた。
「それより、なんで、お前が、帝国大学の入学式に来ているんだ。 お前には、縁がないだろう」
ジュエルイアンは、南の王国の商人であって、帝国には、支店を持つ程度なのだ、どちらかというと、南の王国の王立大学に出席する方が、納得できるのだ。
カインクムは、帝国大学の入学式にジュエルイアンが、顔を出している事が気になったようだ。
それを聞いて、ジュエルイアンは、勝ち誇ったような表情をする。
「俺は、来賓なんだよ。 大学の研究費を援助しているから、呼ばれたんだ。 イルルミューラン夫婦も同じで来賓として、呼ばれているんだよ」
カインクムは、ジュエルイアンも、イルルミューランとリズディアも、大きな商会の経営者だったことを思い出したようだ。
ジュエルイアンもイスカミューレン商会のイルルミューランも、商人として成功しているので、その利益を使って、研究開発に力を入れている。
商会に人を雇って、研究するのも手であるが、研究機関としての大学に、研究費を渡すことで、研究を行なってもらう事もある。
その関係で、イルルミューランとリズディアは、イスカミューレン商会を代表して出席し、そして、ジュエルイアンも、第9区画の開発を請け負っているので、丁度、帝都に滞在している事で出席したのだ。
カインクムは、納得した表情をした。
「なるほど、そういう事なのか」
ジュエルイアンとカインクムが、話をしていると、エルメアーナとフィルランカは、ヒュェルリーンに話しかけていた。
この1年で、フィルランカもヒュェルリーンとも、親しく付き合うようになったので、入学式で顔を合わせた事が嬉しかったようだ。
ヒュェルリーンの顔を見ると、モカリナも、イルーミクも寄ってきた。
そして、リズディアもヒュェルリーンを見つけると、近寄ってくる。
エルフのヒュェルリーンにリズディアが、普通に接触していることを、周りの貴族達は、驚いた様子で見ている。
それは、帝国において、人属至上主義により、亜人奴隷を認めている唯一の国であっては、驚きを持って、見つめられていた。
それは、ギルドを誘致する事が決まって、長年に渡って認められていた奴隷制度の崩壊が近いことを物語っていた。




