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フィルランカの思い人


 フィルランカは、焦っていた。


 自分の心の内が、見透かされていて、今、考えていた事を、周りが理解してしまったと思ったようだ。


(ど、どうしよう。 ば、バレてしまったというの? え、ええー、どうしよう。 い、今、エルメアーナにも見られていた。 エ、エルメアーナに、わ、私の気持ちがバレたら、わ、私達、今まで通りに暮らせるのかしら)


 フィルランカは、全く落ち着かないようだ。


(だ、だって、エルメアーナは、私とカインクムさんの約束を知らないのよ。 それを、エルメアーナに知られたら、どうなって、しまうの? ……。 そうよ、今まで、考えてなかった。 私とカインクムさんだけの話でいいの? エルメアーナは、カインクムさんの子供なのよ。 カインクムさんの考えだけで、済むのかしら? エルメアーナが、ダメと言ったら、カインクムさんは、どうするのかしら?)


 フィルランカは、チラリとエルメアーナを見る。


 エルメアーナは、心配そうにフィルランカを見ているのだが、フィルランカとしたら、その視線が、刺さるように見えたようだ。


 フィルランカは、視線が、少し合うと、直ぐに逸らしてしまっていた。


(ど、どう、どうしよう。 今まで、カインクムさんの事しか考えてなかったけど、うちには、エルメアーナも居るのよ。 エルメアーナが、どう思うかって事だって、大事な事じゃないの?)


 フィルランカが、アワアワしているので、周りは心配になったようだ。


「フィルランカ。 どうかしたのか?」


 エルメアーナが、フィルランカに尋ねた。


 フィルランカは、ビクリとすると、ゆっくりと、エルメアーナに顔を向けた。


「え、な、何? ど、どうも、しないわよ」


 フィルランカは、引き攣った表情で、エルメアーナに答えた。


 エルメアーナも、その先に居るイルーミクも、心配そうにフィルランカを見ていた。


「とても、大丈夫そうに見えないわよ。 何か、とんでもない事に出会ったみたいよ」


 イルーミクが、フィルランカを心配してくれた。


(大丈夫かしら、あんな、表情のフィルランカを見るのは、初めてよ。 本当に大丈夫なのかしら、使用人達が何か、粗相をしたんじゃないの?)


「い、いえ、な、何でもないの。 ほ、本当に、な、何も無い、から」


(な、何で、聞くのよ。 カインクムさんの事、考えていただけなんだから。 あ、エルメアーナの事もか。 だ、だから、聞かないでぇ〜!)


 すると、エルメアーナの反対側のヒュェルリーンが、フィルランカの肩に手を当てた。


 その瞬間、フィルランカは、ビクリとすると、隣から、ヒュェルリーンが、フィルランカ越しに声をかける。


「フィルランカちゃんは、大丈夫と言っているのだから、大丈夫なのよ。 だから、心配しないであげて」


 エルメアーナとイルーミクは、納得できないような表情のまま、ヒュェルリーンを見ていた。


「きっと、何かを思い出したのよ。 よくあるでしょ。 何かのタイミングで、忘れていた事を思い出したのよ。 記憶の繋がる瞬間、その記憶によっては、怖くなったり、怒りを覚えたり、恥ずかしくなったりと、色々、あるのよ。 だから、気にしないであげて」


(ヒュェルリーンさん。 ありがとう。 ちょっと、今は、エルメアーナの顔が、まともに見れそうもないの。 だから、何とか、誤魔化して、ください)


 フィルランカは、顔をヒュェルリーンの方に向けているだけで、エルメアーナとイルーミクの方を見ようとしない。


「まあ、こんな事も、人生にはあるものなの、とっても、稀な事かもしれないけど、何かのキッカケで、こんな事になる事もあるのよ。 後は、私が見ておくから、あなた達も食事を楽しんで。 きっと、直ぐに落ち着くと思うから、気にしないであげて」


(ありがとう、ヒュェルリーンさん)


 ヒュェルリーンの言葉に、エルメアーナとイルーミクは、納得したのか、納得してないのか、どっちともつかない表情をすると、2人は、お互いの顔を見た。


「うーん、ヒェルが、そう言うなら、そうなのだろうな」


「そうね。 私にも、そんな時が、あったかもしれないわね」


 エルメアーナは、渋々納得したような事を言ったが、イルーミクは、下手に深入りしてはいけないと思ったようだ。


(きっと、フィルランカは、何か、人には言えない事を思い出したのね。 まあ、それがどんな事なのか気になるところだけど、……)


 イルーミクは、リズディアを見た。


(そうよね。 今日は、義姉様が、主催だから、私が、失礼な事をして、義姉様の、お顔を潰してしまうわけにはいかなわね)


 イルーミクは、納得するような表情をした。


 ヒュェルリーンは、イルーミクの様子を見て、ホッとしたようだ。




 ヒュェルリーンは、フィルランカに向く。


「フィルランカちゃん。 何を思ったのかは分からないけど、落ち着いた方がいいわ。 もう、誰も見ていないから、自分の都合で気持ちを落ち着かせて」


 フィルランカは、引き攣った笑いをヒュェルリーンに向けた。


「あ、ありがとう、ございます」


 ヒュェルリーンの配慮によって、フィルランカも少し落ち着いたようだ。


 フィルランカには、そんなヒュェルリーンが、眩しく見えたようなのか、ありがたそうにヒュェルリーンを見ていた。


「それじゃあ、ちゃんと、お料理をいただきましょう」


「え、ええ」


 フィルランカは、あっけに取られた表情で、ヒュェルリーンに言われるがまま、料理に手を付ける。


 ただ、フィルランカは、時々、ヒュェルリーンを気にするようにチラチラと見ていた。


 ヒュェルリーンは、何も考えるような表情も無く、出された料理を、美味しく食べていた。


 その、あまりに自然な振る舞いにフィルランカは、気になってしまったようだ。


「あのー、ヒュェルリーンさん」


 フィルランカは、ヒュェルリーンの、自然過ぎる振る舞いに、逆にプレッシャーを感じたのか、声をかけてしまったようだ。


「なあに? それと、今度から、エルメアーナと同じで、ヒェルと呼んでもらって構わないわ」


「あ、ありがとうございます」


 ヒュェルリーンの自然な答えに、フィルランカは、唖然として答えた。


「あのー、さっきまでの私の態度が、気にならないのですか?」


 ヒュェルリーンは、食事の手を止めると、フィルランカに笑顔を向けた。


「気になるわ。 とても」


 ヒュェルリーンは、目を細めるが、それは、いやらしいものを見るのではなく、慈愛に満ちた表情だった。


「でもね、それを、無理矢理聞くことはないわ。 必要になったら、あなたから話してくれるでしょうから、その時まで、待つ事にします。 それに、……」


「それに?」


 ヒュェルリーンが、一呼吸おくと、フィルランカが、おうむ返しをした。


 ヒュェルリーンは、それを待っていたかのように、さらに嬉しそうな表情を浮かべた。


「だって、思い人の事を考えていたのでしょ。 そんなの、簡単に、人に話せないでしょ」


 フィルランカは、固まったが、ヒュェルリーンは、気にする事なく話を続ける。


「それは、時期が来たら話す事でしょうから、それまでは、何も聞かないわ」


 その一言で、フィルランカは、安心したようだ。


「でも、それで、困った事が有ったら、相談に乗るわよ。 もうしばらく、私も帝都に居ると思うから、その間なら、いつでも、大丈夫よ」


 フィルランカは、救われたと思ったようだ。


「あ、ありがとうございます」


 ヒュェルリーンは、フィルランカが落ち着いたと感じたようだ。


 緊張が解けたのではないが、何か、2人の間の壁が一つ、無くなったと思ったように、表情を緩めた。


「あなたの思い人が、どんな人か、楽しみだわ」


 そのヒュェルリーンの言葉に、フィルランカは、また、顔を赤くしたのを、ヒュェルリーンは、面白そうに笑った。


「大丈夫よ。 相手が誰かなんて、聞かないから、安心して。 それと、この話は、私からする事は無いわ」


 そのヒュェルリーンの言葉に、フィルランカは、ホッとしたようだった。


(誰を思ってだかは、分からないけど、フィルランカちゃんも、好きな人もいるのね。 きっと、素敵な人でしょう。 相手が見れる時が楽しみだわ)


 ヒュェルリーンは、楽しそうな表情で、また、食事に手を伸ばした。


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