イルーミクの妄想と憂鬱
リズディアの常識に合わせていた、5人の女子だったのだが、ヒュェルリーンの抗議で後から、下着を着けることになった。
そして、次のイベントに移動を開始したのだが、イルーミクが、1人だけ不満そうな表情を浮かべていた。
(お兄様と義姉様が、仲が良いのは、喜ばしいことなのよ。 喜ばしいことなのよ。 ……。 でも、今の話って何なの? 義姉様ったら、何だかお兄様を誘惑しているみたいな態度をとっているの? 何だか、とても卑猥な事を、2人だけの時は行っているみたいじゃない。 ……。 ま、まあ、お兄様達は、ご夫婦なのだから、そういったシチュエーションも大事なのでしょうけど)
イルーミクは、1人で何かを考えている事が、表情からうかがえる。
ただ、その表情には、微妙な恥じらいのような仕草が見えていた。
(そうよ。 ご夫婦なのだから、2人だけの時は、色々、するのでしょうね。 ……。 ご夫婦なのだから、それは、仕方がない事、……。 いえ、ご夫婦なら、当たり前の事なのだから、私が、それを邪魔しちゃいけない事であって、干渉してもいけない事なのよ。 ……。 だって、私は、妹なのよ。 お兄様とは、血のつながった兄妹なのよ。 お母様が違うと言っても、お父様は、一緒なの)
イルーミクは、イルルミューランとリズディアの結婚以降、イスカミューレン商会の事もあり、忙しくしていたので、これ程、ゆっくりとリズディアと接していた事は無かった。
それが、今、リズディアとヒュェルリーンのやり取りを聞いて、自分の知らない話を聞いてしまった事と、リズディアの言葉と思えない事が出てきたことで、戸惑っているようだ。
(そ、それに、イヨリオン殿下のお母様は、確か、帝国臣民の出で、美人だということから、陛下のお手つきになってしまって、イヨリオン殿下をご出産したはずよ。 でも、陛下のメイドとして、ス、スカートの下に、下着は着けないって、どういうことなのよ。 な、なんで、下着を着けない必要があるのよ)
イルーミクは、顔を赤くしてしまっていた。
(え、最初から、そういう事が、目的なのかしら。 陛下のお世話をするメイドは、そうじゃなければいけないの!)
イルーミクは、アワアワし始めた。
焦った表情をしている。
(お、おち、落ち着くのよ。 皇帝陛下と、お兄様は、立場も違うのだから、……。 でも、リズディア様は、皇族だったから、そんな、お父様である皇帝陛下の事情も知っているって事なのよね。 ……。 そう、周りが、皇帝陛下の、お情けを欲しいと思う女性達が多い中で、そんな周りの誘惑から、自分をアピールする必要があるのね。 だから、リズディア様も、周りから、その人達の影響を受けていたって事なのね)
モカリナは、諦めた表情をしたのだが、すぐに、何かに気が付いた表情になった。
(お兄様は、義姉様に、何だか、手玉にとられているみたい。 そういえば、皇帝陛下は、正室の他に、10人の側室がいらっしゃるのよね。 側室の方々は、子供を作ることで、存在意義があるのだから、皇帝陛下に、寝室に来てくださるように、色々と、考えていらっしゃるのね。 それを、時々、リズディア様が、話を伺っていたのかしら)
イルーミクは、リズディアを見た。
(そうよね。 沢山のご婦人の中から、ご自分の順番を待つなんて、寂しい事なのかもしれないわね。 そうなると、抜け駆けをするために、色々と、試行錯誤して、自分の寝所へ来てもらう回数を増やす事を考えていたのでしょうから、それを、リズディア様が、聞いていたのでしょうね)
イルーミクは、少し残念そうな表情をしたのだが、何か思い当たったといった表情をした。
(それを、義姉様は、お兄様に実践しているという事なのかしら)
イルーミクは、やり切れないといった表情で、天井を見た。
(何だか、百戦錬磨の猛将と、初陣の兵士が、対戦しているみたい。 お兄様に勝ち目は、無さそうね)
イルーミクは、諦めたような表情をした。
「ねえ、イルーミク。 何かあったの?」
イルーミクは、表情はそのままで、声の方向に顔を向けた。
そこには、不思議そうに見ているフィルランカとエルメアーナがいた。
エルメアーナは、今日、初めて顔を合わせた、イルーミクには、何も言えないので、黙ったまま、イルーミクを見て、フィルランカとの話を聞くようにしていた。
「イルーミクたら、何を考えていたのか分からなかったけど、何だか、表情がとても豊かだったわよ」
そのフィルランカの一言で、今まで、自分の考えていたことが、表情に出ていたのだと理解した。
そして、一気に恥ずかしくなったようだが、フィルランカは、そんな事を気にすることなく、別の方を見た。
「でも、モカリナのように表情から、何を考えているかは、分からなかったわ」
そう言うと、フィルランカの視線の先にモカリナが居ることに気が付いた。
そこには、リズディアの後ろで、嬉しそうにしているモカリナがいた。
モカリナは、時々、鼻をクンクンさせたりしながら、ヒュェルリーンと一緒に歩きながら、話をしているリズディアの後ろを歩いていた。
顔は、のぼせた事で、赤いのか、自分がリズディアの近くにいられる幸せ感から、嬉しくて、顔を赤くしているのか、見ている側からは理解できないが、侯爵家の令嬢とは思えないような表情をしていた。
「だから、私たち、ちょっと、モカリナの近くには行けないでいたのよ」
そんな、モカリナの様子を見たイルーミクは、更に憂鬱になったようだ。
(義姉様にも困ったけど、モカリナにも困ったわね。 侯爵家の令嬢の表情じゃないわよ。 流石に、あれは、何とかしないとまずいわね)
モカリナの様子を見て、イルーミクは、困っていた。
(流石に、あのモカリナの表情を、うちの使用人達全員に見せるわけにはいかないわね。 変に、モカリナの様子が、外に伝わってしまったら、良くないわね。 それが、義姉様絡みだと、義姉様にもスツ家もだけど、モカリナのナキツ家にも、良い事ではないわね)
イルーミクは、考えていた。
それをフィルランカとエルメアーナは、見ていた。
「なあ、フィルランカ。 なんで、あんなに考えているんだ?」
エルメアーナは、不思議そうに、小さな声で尋ねた。
「分からないわよ。 あれは、きっと、貴族としての考えが何かあるのよ」
「ふーん」
フィルランカもエルメアーナも、その中に入ろうとはせず、ただ、見守るだけだった。




