ジューネスティーン
少年が少女に付けた、シュレイノリア・ディール・フォーチュンという名前を気に入ってもらえてホッとしていると、その様子を見ていたシュレイノリアがムッとしたような表情をした。
「おい、私の名前が決まったんだ。今度は、お前の番だ。私の名前以上に、カッコイイ名前にするんだ!」
少年はシュレイノリアの名前が決まって一息ついたいたので、シュレイノリアは、まだ仕事は終わってないと少年に喝を入れられた。
「わかった。カッコイイ名前かぁ。人の名前とか参考にしてみるよ」
少年は何気に答えたが、それを気にするものは誰もいなかった。
転移してきて3ヶ月、転移前の記憶といっても、ほんの僅かな断片的な記憶しか持っていない。
しかも、この3ヶ月間は、接触する人も限定されているので、その中で、少年が名前を知る人間というのは僅かな人数しか居なく、そんな中、名前を名乗るとなったら数名程度になってしまうのだが少年は参考にすると答えた。
メイリルダとしたら、自分が命名する必要が無くなってホッとしていたので、それに気が付かず、少女は、その通りだと言わんばかりに納得したような表情をした。
もし、この場にギルドマスターであるエリスリーンか、カンの鋭い人が居たら気がついたはずであるが、少年の言った事に気付く人は居なかった。
少年は、前世の記憶を呼び出すための鍵を見つけたのかもしれないが、誰も気が付かないまま少年の言葉を聞いていた。
一方、少年はシュレイノリアに言われたことが、もっともだと思った表情をしているだけだった。
メイリルダは、2人を心地よく思いつつ見ていた。
(助かったわ。話ができるようになった程度で、こんなに良い名前を付けられるとは思わなかったわ。それに付けた名前を少女の方も気に入ったみたいだし良かったわ)
メイリルダの方は笑顔で2人を見ていた。
「ジェームズ、ジェームス、ディーノ、ディール、ディーン」
少年は、メイリルダの様子を気にする事なく、考えている名前を口に出していたが、黙り出して考え込んでしまった。
しかし、直ぐに納得したような表情をして少女とメイリルダを見た。
「うん、じゃあ、ファーストネームは、ジューネスティーンにする。それで、ミドルネームはと……」
また、考え始めた。
メイリルダとしたら、これで自分が名前を考える必要が無くなったとホッとしていた。
その様子に気がつく事なく、少年はミドルネームを考えていた。
「インフ、インフィーニュ、……、ティーノ。ミドルだとちょっと変かな?」
一瞬、固まったようになったが、直ぐに一つ頷くとメイリルダを見た。
「じゃあ、インフィーにする。だから、僕は、ジューネスティーン・インフィー・フォーチュンだ」
それを聞いて、メイリルダはホッとしたように大きく息を吐いた。
(よかった。私が名前を考える必要は無くなったわ。……。でも、少し長すぎないかしら?)
安心したのは束の間で、メイリルダは、何か引っ掛かったような表情をした。
「ねえ、その名前って、少し長くない? 2人とも、ちょっと長いような気がするんだけど」
それを聞いて、ジューネスティーン・インフィー・フォーチュンと名前が決まった少年は困ったような表情をしたのだが、シュレイノリアは気にするような気配は無かった。
「ふん、名前など、他人と区別できればそれで良い。それに、長い名前なら他に同じ名前は無いだろうし、それに呼ぶ時は短めの愛称で構わない。それより、私達の名前について文句を言う前にメイリルダという名前はどうかと思うぞ。そのリルの発音が難しいぞ。私達のような子供には特に難しい発音なんだ。その事を考えたら、私達の名前の方が言いやすいと思わないか」
それを聞いて、メイリルダは戸惑ったようだ。
自分では、自分の名前を口に出して言う事は殆ど無いので、気にしていなかったのだが、こうして、面と向かって言われてみると、その通りだと思ったようだ。
「だから、メイリルダのことは、これからはメイと呼ばせてほしい。それに私はシュレ、そっちは、ジュネスでいいだろう」
メイリルダの意見は、シュレイノリアによって一蹴されてしまい、ついでに3人の愛称も決められてしまった。
名前を何にするかは直ぐに決まったので、3人は食後にギルドに向かう事にした。
ギルドは、転移者の囲い込みを行なっている事もあり、言葉が喋れるようになった転移者は、直ぐにギルドへ登録を行うようにしていた。
ギルドは、国では無いが、大陸のほぼ全ての国に支部を持ち、その国の軍隊の手が回らない魔物の退治を受け持っている。
自国の国土に発生している魔物に対して、全てが自国の軍隊で対応するには軍人の数が足りず、必要な時だけ依頼を出して魔物討伐を行なってくれる冒険者は各国の財政を圧迫せずに済んでいる。
場合によっては、国からギルドへ依頼を行い、冒険者により魔物の討伐を行なって貰うこともある。
ギルドは、様々な依頼を仲介する事もあるが、冒険者が退治した魔物のコアを買い取り、そのコアの活用を独占することで事業として成り立っている。
魔物のコアの活用方法は、魔物のコアから魔物を召喚し、その魔物を労働力として提供する事によって、その労働対価をギルドは収入として得ている。
それにより、ギルドは、莫大な利益を得て転移者の保護も行なっている。
それは、転移者を取り込む事によって、冒険者の断片的な記憶から新たな発明品を開発させ、ギルドが生産と販売を行っている。
ジューネスティーンの前に現れたジェスティエンのように火薬と銃という、超絶な攻撃力を有する物を開発するものも居れば何も無い場合もある。
ギルドは、転移者の保護を行い、運が良ければ新たな発明品を世に送り出している。




