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スツ家の大浴場の前で 2


 モカリナは、リズディアが、フィルランカとエルメアーナに、浴室を使わせてくれるという事に感心していたのだが、リズディアの一言で、自分もリズディアと一緒に浴室に入ることに、やっと、気がついたようだ。


 ソワソワし始めたモカリナを、イルーミクが、見つめていた。


(ここの大浴場なら、6人だろうが、10人でも平気よね。 お兄様ったら、義姉様に見栄を張ったのかと思ったけど、家族にも使わせてくれるから、とてもありがたいわ。 それに、今日は、フィルランカとモカリナも一緒だから、とても楽しそうよね。 でも、モカリナったら、なんで、あんなに、ソワソワしているのかしら?)


 イルーミクは、不思議そうにモカリナを見る。


 そして、フィルランカとエルメアーナを見た。


(2人は、……。 多分、よく分かってないわね。 きっと、大きなタライを想像しているだろうけど、きっと、中に入って驚く事になるわね)


 イルーミクは、わずかに含むような笑いを浮かべるが、直ぐに、元の表情に戻った。


 そして、また、モカリナを見る。


 モカリナは、モジモジして、恥ずかしそうな表情を浮かべていた。


(そういえば、モカリナって、義姉様のファンだったわね。 それに、さっき、お兄様が、商会に誘って、義姉様の片腕としてとか言ってたから、……。 ひょっとして、モカリナったら、今、思いっきり、舞い上がっているのかも。 それに、義姉様と一緒にお風呂に入れるとなったら、かなり、嬉しいのかもしれないわね。 ……。 ああ、モカリナの表情は、そのせいなのね)


 イルーミクは、納得したような表情を浮かべた。




 スツ家の大浴場の入り口で、女子6人とメイド長が、それぞれの思いを巡らしていた。


「ここにいても、仕方がないわ。 せっかく、大浴場を用意してありますから、ここは、全員で使いましょう」


 リズディアが、誘うように言うと、フィルランカとエルメアーナが、困ったような表情を浮かべた。


 庶民の2人にしてみたら、浴室がどうなっているのか知るはずがないので、2人は、湯浴み用のタライから、自分達の想像の範囲内で考えていたのだ。


 10人程度が平気で入れる浴室など、考えられるわけが無いのだ。


「あのー、リズディア様。 入る順番を決めなくてよろしいのですか? それで、私とエルメアーナは、一番最後で構いませんから」


 フィルランカの言葉を聞いて、リズディアは、何を言っているのかと、不思議そうにする。


 フィルランカは、大きなタライをイメージしているのだが、リズディアは、10人でも余裕で入れる湯船に全員で浸かろうと考えていたのだ。


 2人の考える事が、全く、繋がる様子が無い。


「何を言っているの? 一緒に入るのよ」


 それを聞いて、フィルランカもエルメアーナも、不思議そうな表情をしていた。


(え? タライに6人って、どういう事なんだ! 私とフィルランカも、一緒に湯浴みをする事が有るけど、タライに入れるのは、1人だけだぞ。 それで、お互いに、背中を洗ったりするのに、リズディア様のところは、6人入っても大丈夫なのか?)


(タライに6人だと、座ることが出来ないわ。 一緒に入るって、タライに6人が立ったまま、入るのかしら?)


 モカリナは、顔を赤くして、ニヤニヤしたりと、フィルランカとエルメアーナの様子に気づいていない。


 それをイルーミクは、見ている。


(どうしよう。 きっと、フィルランカとエルメアーナは、浴室が理解できてないわ。 モカリナが、2人に説明してくれればいいのに、なんで、モカリナったら、2人の様子に気がつかないのよ)


 イルーミクは、少し不機嫌そうにしている。


「フィルランカ。 それに、エルメアーナ。 あなた達、2人は、お風呂に入った事はないでしょ」


 ヒュェルリーンが、2人に聞いた。


 それを聞いて、イルーミクは、ヒュェルリーンを見た。


「あのね。 お風呂は、湯浴み用のタライとは違うのよ。 もっと、大きいのよ」


「「大きい?」」


 フィルランカとエルメアーナは、不思議そうに、ヒュェルリーンを見た。


「そうね。 家の中に池を作って、そこにお湯を入れてあるのよ。 だから、湯の中に肩まで浸かれるのよ」


「家の中に池があるのか、ヒェル、それは本当なのか?」


「湯の中に肩まで浸かれるのですか」


 ヒュェルリーンの言葉に、エルメアーナとフィルランカが、反応した。


 2人は、目を輝かせていた。


 エルメアーナとしたら、家の中に池を作ってしまった事に驚いたのだ。


 以前も、モカリナの家の食器やら、部屋の壁や柱のデザインと、中庭については、庭師のベンガークに根掘り葉掘り聞くほど、興味を示していた。


 それが、部屋の中の池と聞いて、興味がそそられたようだ。


 そして、フィルランカとしたら、湯浴みをするタライといったら、タライの中に座った状態で、臍のあたりまでの湯で、その湯をタオルのような布で、背中や肩を擦る程度の事しかできないので、体全体を温められたらと、常に思っていたのだ。


 それが、できると聞いて、反応したのだ。


 その表情の変化に、ヒュェルリーンは、少し驚いたようだ。


「リズディア様、私達に、とても貴重なものを使わせてもらえるなんて、とても幸せです」


 フィルランカは、お礼を言うではなく、自分の気持ちをストレートに、リズディアに伝えてしまった。


「そう、じゃあ、全員でお風呂よ」


 そう言うと、リズディアは、フィルランカとエルメアーナの手をとって、大浴場の扉へ行くと、メイド長が、扉を開けて、入るのを手助けした。




 その様子を、残った、ヒュェルリーン、モカリナ、イルーミクが、呆気に取られてみていた。


 そして、モカリナは、心配そうな表情になり、扉の方を見る。


(あ、私、リズディア様に、置いて行かれてしまったわ)


「なんだか、義姉様の、新しい一面を見ましたわ」


 イルーミクが、ボソリと言ったのを、ヒュェルリーンは、その表情をみて、リズディアの表の顔しか知らないのだと理解したようだ。


「そうなの、留学していた時は、もっと、すごかったわよ。 私は、旦那経由での付き合いだったけど、義父様の家とかに、ジュエルイアンをダシにして、結構、使っていたわよ」


「あ、ヒュェルリーンさんは、その時からのお付き合いだったのですね」


「そう、帝国じゃあできない事をするとかで、結構、彼女のお転婆に付き合わされたわよ。 私は、学生じゃなかったから、学校内の事は分からないけど、よく、ジュエルイアンの家に、イルルミューランさんとか、チェルエールさんとかと、遊びに来ては、大はしゃぎしてたわ」


「そうだったのですか」


「ええ、男達は、2人で、何やら、話をしていたけど、リズは、私を連れて楽しんでいたわ。 義父様は、中庭にプールとかも作られていたから、暑い時は、それ目当てで、イルルミューランさんをダシにジュエルイアンに用事だと言って、女子は、プールで遊んでいたものよ」


「……」


(義姉様、留学中に何をしていたのかしら)


 イルーミクは、絶句していた。


「ねえ、あなた達は、お風呂に入らないの?」


 先に行った、リズディアが、扉から、顔だけを見せて、後から直ぐに来ない3人を呼びに来た。


「分かったわ。 直ぐに行くわ」


 ヒュェルリーンが、答えた。


「待たせると、また、リズが、イタズラ心を出すかもしれないから、さっさと、行きましょう」


 ヒュェルリーンは、2人に言うと、イルーミクが、動き出した。


 しかし、モカリナが、少し、固まったような表情をしていた。


「モカリナ様、行きましょう」


 そんなモカリナに、ヒュェルリーンは、声を掛けた。


「あ、はい」


 かろうじて、答える。


 すると、ヒュェルリーンは、モカリナに手のひらを差し出して、自分が導きますという仕草をする。


 それにつられて、モカリナは、ヒュェルリーンの差し出した手のひらに、自分の手を添えた。


 ヒュェルリーンは、モカリナを導くようにして、大浴場に入っていった。


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