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スツ家の屋敷


 馬車は、順調に走り、皇城の貴族街へ入る。


 馬車が大きく揺れるたびに、リズディアが、モカリナに寄りかかるようにして、あちこちを触っていた。


 リズディアは、モカリナの体が、ミルミヨルの衣装によって、どのように変化したのかが気になっていたようだが、モカリナは、憧れのリズディアに触れられて、とても嬉しいそうにしていた。


 そんなモカリナを、フィルランカは、良かったと思った様子で見ているのだが、隣のヒュェルリーンは、常に、リズディアの様子を伺っていた。


(リズったら、この馬車の中で、モカリナ様に何かしたいけど、理性が残っているみたいね。 流石に、隣に義妹のイルーミクさんも居るし、馬車の中で、騒ぎとなったら、御者さんにも、外に誰に聞かれるかもしれないから、それなりに、意識はしているようだけど、モカリナ様を確認したくて仕方がないみたいだわ)


 リズディアは、時々、ヒュェルリーンの視線を確認しているようだった。


(ヒェルったら、何だか、顔が怖いわ。 やっぱり、馬車の中ではダメよね。 まあ、座った状態と立った状態の筋肉の違いもあるから、ここで、ヒェルのご機嫌を損ねてしまうのも、この後の事もあるから、ここは、無理をする事はないわ)


 そんなリズディアは、モカリナに寄り添うように座っているので、隣に座るモカリナは、とても嬉しそうに顔が綻びつつ、リズディアに体を寄せられている事に満足そうである。


(あー、リズディア様が、私の横にいて、体が、ピッタリ付いているわ。 ああ、リズディア様の体温を感じる。 それに、リズディア様の匂いも、……。 私、こんなに、幸せでいいのかしら)


 そんな、モカリナの嬉しそうな様子を、フィルランカは、目の前で見ている。




 ただ、反対側に座っているエルメアーナは、少し緊張気味だった。


(前に座っている人、多分、フィルランカ達の友達だと、思う。 だけど、初対面なんだ。 そんな人と、向かいあわせで座るのは、少し、しんどいぞ)


 手前に座るイルーミクは、そんなエルメアーナが、一番多く、視線に入ってきているが、隣に座るリズディアの事が気になっている様子だ。


(義姉様、今日は、随分と、モカリナの方に寄っているわね。 それと、義姉様と対面に座っている、エルフの人は、確か、ジュエルイアンさんの奥様で、筆頭秘書だったはず。 名前は、ヒュェルリーンさんだったかしら。 人属とエルフ属じゃあ、子供は生まれないのに、なんで、結婚したのかしら)


 イルーミクは、時々、ヒュェルリーンを見ていた。


(でも、義姉様が、時々、ヒュェルリーンさんに、睨まれているような気がするわ。 それでも、義姉様が、何も言わないってことは、とても仲が良いみたいだわ。 ああ、そうよ、義姉様を“リズ”って呼んでいるのだから、ひょっとしたら、エルフの国の皇女だったのかしら?)


 イルーミクは、不思議そうにヒュェルリーンを見ると、その先のフィルランカを見た。


(フィルランカは、このエルフの人と、面識があるみたい。 ああ、私の前に居る、この子もなのかしら、……。 え、この子は、……、ああ、フィルランカの家の娘さんかしら。 何だか、とても緊張しているわ。 でも、義姉様は、何で、この2人も呼んだのかしら?)


 イルーミクは、目の前で、かしこまっているエルメアーナを見る。


(きっと、この義姉様の馬車に乗せたということは、義姉様のお客人として考えるのが筋よね)


 イルーミクは、ヒュェルリーンとエルメアーナと、可能な限り視線を合わせないようにしていたが、ただ、エルメアーナは、あまり顔を上げてこないので、視線が合うことは無いが、ヒュェルリーンは、時々、イルーミクの視線を感じて、意識をしているような表情をしていた。


 イルーミクとしたら、義姉とはいえ、元皇女殿下であるリズディアに恥をかかせるわけにはいかないのだ。


 身分の違いが有ろうと、リズディアのメンツを潰す事は出来ないので、客人待遇で初めて見る、ヒュェルリーンと、エルメアーナに対応する必要があるのだ。


(ああ、そう言えば、フィルランカも貴族じゃなかったわね。 前の、彼女は、フィルランカと同じように対応できるようにして、このエルフの人は、義姉様と同等に扱った方がいいわね)


 イルーミクは、ヒュェルリーンとエルメアーナを値踏みしていたのだ。




 馬車は、何のトラブルもなく進み、第1区画から、皇城の貴族街へと入って行った。


 皇城の門番達も、リズディアの馬車は、知っており、その御者の顔も弁えているので、止められる事もなく皇城へ入る事を許されていた。


 その馬車は、皇城の門を過ぎると、直ぐに東へ、城壁と並行に走っている通りを走り出した。


 馬車は、そのまま、走ると、東の城壁に近づいていく。


 馬車の目的地は、東の隅の一角に向かっていた。


 リズディアと、イルーミクのスツ家は、貴族街の南東の一番隅の一角だったのだ。


 貴族街は、皇城に続く南大通りに面した区画程、爵位の高い貴族が屋敷を構えており、その大通りから離れるにしたがって、貴族の身分も下がってくる。


 スツ家は、爵位の無い貴族なので、大通りから一番離れた場所に割り当てられていた。


 しかし、近年の貴族の粛清が、現在の皇帝である、ツ・リンクン・エイクオンによって執り行われて、取り潰された貴族の家も多く有ったこと、そして、リズディアが嫁いだという事もあり、爵位の無い貴族のスツ家は、爵位の無い他の貴族より、大きな敷地と屋敷を構えていた。


 ただ、実情は、隣の敷地と屋敷を、そのまま、貰い受けて、改築して、二つの屋敷をつなぎ合わせたらしく、建物自体のバランスに違和感があり、デザインも左右で違っている。


 それをつなぎ合わせるように中央に、1階高い建物があった。


 馬車は、中央の建物の玄関に横付けされる。


 ドアが開くと、イルーミクが、先に降りると、入り口に手を差し出した。


「義姉様、お手を」


 イルーミクは、リズディアを下ろそうとする。


「いいえ、ここは、お客様から先よ」


 そう言うと、エルメアーナを先に馬車から降りるようにと、視線を送る。


「エルメアーナさん、お先にどうぞ」


「はい」


 エルメアーナは、緊張気味にリズディアに言われるがまま、馬車を降りる。


 馬車の入り口に立つと、イルーミクが、エルメアーナが降りるのに手を貸そうとした。


 流石にエルメアーナは、貴族のイルーミクが、自分に手を差し出すとは思わなかったので、驚いたようだ。


「どうぞ」


「いや、でも」


「お客人の手を添えるのは、家人としての役目です。 義姉様のお客人ですので、当然のことです」


 そう言って、イルーミクからエルメアーナの手を取って、馬車を降りるのを助けてくれた。


 イルーミクは、エルメアーナが馬車を降りるのを助ける。


「あ、ありがとう、ございます」


 エルメアーナは、恐縮した様子でイルーミクにお礼を言った。


(ま、何だか、とても、恥ずかしそうにしているわ。 ちょっと、可愛いかも)


 イルーミクは、笑顔を向けた。


「どういたしまして」


 答えると、イルーミクは、次のヒュェルリーン、フィルランカ、モカリナと馬車を降りるのを手助けするように手を差し出していた。


 最後にリズディアが、馬車を降りてくるので、その手を取って、降りるのを手助けする。


「ありがとう」


 リズディアは、嬉しそうにイルーミクにお礼を言った。


(イルーミクは、私の考えが分かったみたいね)


 リズディアは、満足そうにしつつ、全員の表情を確認した。


「では、お茶でもいただいて、少し休みましょう」


 そう言うと、リズディアは、5人を引き連れて、屋敷の中に入っていくのだった。


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