モカリナとエルメアーナとフィルランカ
モカリナは、うっとりとリズディアを見ていただけで、挨拶することを忘れてしまっていた。
「モカリナ。 ご挨拶がまだよ」
「あ、ああ。 えっ! はい。 た、大変、失礼、致しました」
モカリナは、フィルランカに言われて慌ててしまい、あたふたと、リズディアにお詫びをする。
そして呼吸を整えて、自分を落ち着かせていた。
「この度は、お招きいただき、誠にありがとうございます。 心より、感謝いたします」
モカリナは、貴族の令嬢の表情に戻って感謝を述べる。
「私は、ナキツ・リルシェミ・モカリナと申します。 ナキツ家の四女です。 今は、リズディア様を目標として学業に精を出しております。 リズディア様は、私にとっての目標です。 リズディア様の歩んだ道は、私に目標を与えてくれました。 今の私は、リズディア様があってこそです」
すると、モカリナは、感激を隠せずにいる。
そして、モカリナはお辞儀をした。
「私に、目標を与えてくれた、リズディア様に出会えるなんて、もう、思い残すことはありません」
流石に、それには、リズディアも表情を硬らせた。
「あのー、それだと、今、死んでしまうみたいでは、……」
リズディアは、言葉が途中で止まってしまった。
それは、お辞儀をしているモカリナの手前の地面に、シミができてきたことに気がついたようだ。
モカリナは、感動して、また、涙を流してしまっていたのだ。
その様子を理解したリズディアは、ハンカチを取り出すと、モカリナの前にでる。
そして、モカリナの顔をリズディアは、持ち上げつつ、涙を拭ってあげる。
「ありがとう。 私の事を、そんなふうに思ってくれる人がいたとは思っていなかったわ。 こんなに思ってくれる人が、後輩に出てくれたのは、私にとっても、とても嬉しい事だわ。 私が意地を通した事に意味があったといえるわ。 あなたは、私の成功の手助けをしてくれているのよ」
リズディアの言葉に、モカリナの顔はグチャグチャになる。
モカリナは、何かを言おうとしているが、全く、言葉になっていない。
「あなたは、私の言った事を具現化してくれているのよ。 そして、今のあなたの頑張りを見た人が、今度は、あなたを目標にする人が、きっと現れるわ。 だから、頑張るのよ」
それを聞いて、モカリナは、返事をしたのだろうが、周りからは、声が聞こえた程度にしか聞こえなかった。
そんなモカリナをリズディアは、可愛いと思ったようだ。
イルーミクは、リズディアの様子を伺っているが、差し出がましいことはせず、ただ見守るだけだった。
フィルランカとヒュェルリーンは、リズディアとモカリナの様子を見ていた。
一時は、モカリナの発言が、少し、異常に聞こえていたので、リズディアに粗相をしないかとヒヤヒヤしたのだが、その後は、貴族らしい態度だったのでホッとした。
しかし、その後のモカリナの感動的な様子に、苦笑いをしていた。
ただ、ヒュェルリーンは、初対面のモカリナが、これ程までリズディアを慕っている事に驚いたようだ。
そんな様子の中、馬車からエルメアーナが降りてきた。
「おお、フィルランカ。 待たせたみたいだな」
エルメアーナが、場の雰囲気をわきまえない発言に、フィルランカは、ゾッとした様子でエルメアーナを見た。
「エルメアーナ。 何したのよ! あなた、リズディア様に何かしなかった! なんで、遅れたのよ。 あなたが、何かしたからじゃないの?」
フィルランカは、エルメアーナに迫った。
「エッ!」
エルメアーナは、フィルランカに聞かれた時の表情が、少し恐ろしいと思ったようだ。
「あ、ああ、リズディア様とチェルエールさんに、体をいっぱい、触られた」
(でも、全部脱がされて、全裸にさせられた事は、黙っておこう)
エルメアーナは、話しをしながら、顔を赤くして、恥ずかしそうにすると、言葉の後半は、声の大きさもトーンも下がっていた。
「それだけなの?」
フィルランカは、真剣な表情で、エルメアーナに迫るので、エルメアーナは、少しビビリ気味になっている。
「あ、ああ、リズディア様に、私の衣装を、全部、着て見せてあげた。 それと、衣装の話をした」
「それだけなの」
「あー、チェルエールさんの店では、リズディア様に押さえ付けられて、チェルエールさんに胸を揉まれた。 動くことができない状態で、揉まれると、ちょっと恥ずかしかった」
エルメアーナは、恥ずかしそうに答えた。
「フィルランカちゃん。 エルメアーナの言っている事は、本当のことよ。 遅れたのは、本当に、リズが悪かったのよ。 新しい衣装のデザインを考えていたのよ」
ヒュェルリーンがエルメアーナを弁護するのだが、ヒュェルリーンも、少し恥ずかしそうにしていた。
「そうだぞ、ヒェルの衣装をデザインしていたんだ。 それの資料として私の衣装を調べていただけだ」
フィルランカは、ヒュェルリーンの言葉で、エルメアーナの言葉に嘘は無さそうだと思ったようだ。
「ごめんね、フィルランカちゃん。 ちょっと、考え出してしまったら、止まらなくて、遅れてしまったのよ。 エルメアーナちゃんは、何も悪くないわ。 私が時間を忘れてしまったの。 だから、エルメアーナちゃんを責めないでください」
「はい、リズディア様が、そう仰るなら」
フィルランカは、少し呆気に取られた様子で答えた。
「それじゃあ、こんな所で立ち話もなんですから、移動しましょう。 家に帰って、ゆっくり話しましょう」
リズディアは、馬車に乗るように促した。
「そうね。 ここで、リズの毒牙に掛けられた大変ですから、さっさと移動しましょう」
ヒュェルリーンが、少し棘のある言い方をする。
「ヒェルったら、また、私が悪者のような言い方をするぅ」
リズディアが、拗ねたような返事をするのだが、ヒュェルリーンは、冷静そうだ。
「だって、モカリナさんも、ミルミヨルさんの衣装でしょ」
リズディアは、モカリナを抱き寄せていたのだが、その手は今にも全てを触り出したそうにしていた。
リズディアは、モカリナの衣装と体の線がどう変わってきたのか、気になって仕方がなかったようだ。




