学校の玄関の前
高等学校の玄関には、フィルランカとモカリナが、立っていた。
2人は、何かを待っているようだった。
すると、校門の方から、1人の女子学生が、2人に向かって歩いてくるが、その1人もフィルランカ達と同じように、不安そうな表情をしていた。
「義姉様、授業が終わる頃には、学校に来ると言っていたのだけど、まだ、来る気配が無いわ」
校門の方から歩いて来たのは、イルーミクだった。
(エルメアーナが、リズディア様に、何か粗相をしてないかしら)
フィルランカは、不安そうにしていたが、モカリナは、何だか嬉しそうである。
(リズディア様に会えるのよ。 私って、とっても、幸せな星の下に生まれたのね。 フィルランかと出会ってから、1年、成績も上がったわ。 いつも一緒に居たら、リズディア様の作った衣装を見ることができたのよ)
モカリナは、イルーミクに笑顔を向ける。
イルーミクは、またかといった様子で、モカリナの笑顔を見て、少しガッカリした表情をした。
(全くもう、モカリナったら、この1週間、このニヤケ顔が直らないんだから。 本当に、リズディア義姉様のことが好きなのね)
イルーミクは、モカリナに相談しても、結論が出るか心配になったようだ。
「ねえ、フィルランカ。 義姉様が、約束を破るなんて有り得ない事なのよ。 でも、ひょっとすると、何か急な案件が入ってしまったのかもしれないわ。 ここで待つより、先に家に向かいましょうか?」
「そうね。 ここは、イルーミクの判断に任せるわ」
2人は、モカリナの様子を見る。
モカリナは、ニヤケ顔が直らずにいる。
(迎えが来ないから、中止にしようと言ったら、モカリナが、どうなるのか分からないからね。 まあ、家に連れて行けば、体面は立つわ。 お仕事だったとしても、顔くらいなら合わせられるでしょうし)
イルーミクは、モカリナを見て、息を大きく吐いた。
(今日は、どうしちゃったのかしら、義姉様らしくないわね)
「イルーミク。 いつまで、ここに居ても仕方が無いわ」
「そうね。 移動しましょうか」
「じゃあ、乗合馬車の駅まで移動しましょう」
「ん? 乗合馬車?」
イルーミクは、フィルランカの言った乗合馬車が、よく分からなかったようだ。
「ああ、イルーミクは、使ったことがないのか。 私は、家の近くから、ここまで、乗合馬車を使っているのよ。 確か、アレの中には、皇城前を通る馬車もあったわ。 それを使って、皇城の入り口に行けば、イルーミクもモカリナも貴族だから、入れるでしょ」
「うーん。 まあ、そうね。 それで、私か、モカリナが、フィルランカの身元保証すれば、入れるわね」
(やっぱり、行くのよね。 私は、中止でもよかったのだけど。 ……。 でも、エルメアーナは、どうなっているのかしら?)
フィルランカは、嫌な表情をした。
(これ、実は、エルメアーナが、何かしたんじゃないのかしら。 いえ、これ、きっと、エルメアーナが何かを仕出かした。 どうしよう、元皇女殿下に何かをしてしまったぁ)
徐々に表情が悪くなり、青くなり出した。
(これ、バレたら、エルメアーナだけの話じゃないわよ。 カインクムさんだって、私だって、何か罪に問われてしまうわ。 どうしよう)
エルメアーナの表情が、どんどん悪くなっていくのを見て、イルーミクは、困ったと思った様子で、モカリナを見た。
ただ、モカリナは、ニヤニヤしていた。
(モカリナは、……。 この人の表情は、絶対、義姉様に会えるしかないわね。 これで、中止にしたら、モカリナは、ガッカリだけで終わるのかしら)
イルーミクは、どうしようか困っていると、校門に馬車が現れた。
校門に現れた馬車を最初に見つけたのは、モカリナだった。
モカリナのニヤニヤが、満面の笑みに変わる。
「ね、ねえ。 あの馬車は?」
モカリナは、そう言って、イルーミクの腕を取った。
それにつられて、イルーミクも校門の方を見る。
「あ、ああ、義姉様だわ」
イルーミクの答えに、モカリナは、舞い上がった。
「あ、あの、あああの馬車に、リ、リズディアぁ様が、い、いる、いるの、ね」
モカリナの答えに、イルーミクは、モカリナの様子を伺った。
(あら、モカリナったら、瞬きもせずに、馬車を見ているわ)
イルーミクは、残念そうにモカリナを見た。
モカリナは、顔を綻ばせて、校門に入ってきた馬車を、瞬きをするのも忘れた様子で見ていた。
馬車は、校門から石畳の通路を通り、玄関に横付けにされる。
モカリナは、その様子をジーッと見ているのだが、今にも涙が溢れんばかりに、目を潤ませていた。
玄関前に止まると御者が降りてきて、馬車の扉の前に踏み台を置くと、扉を開いた。
その扉から、エルフのヒュェルリーンが降りてくると、扉の前に立って、後から来る人の手を受け止めるように差し出す。
そのヒュェルリーンの手に添えるように置くと後から、リズディアが、馬車をゆっくり降りてきた。
「私のせいで遅れてしまいました。 お詫び申し上げますわ」
モカリナは、そのリズディアが、ヒュェルリーンに手を添えて、馬車を降りるところから、お詫びを入れる姿を瞬きをせずに見ていた。
そして、感極まって、涙を流していた。
「本当に、遅れてしまってごめんなさいね」
リズディアは、モカリナの涙を見て、もう一度謝った。
「いえ、めっそうもございません。 むしろ、ご褒美です」
「「「え?」」」
周りは、モカリナの返事に驚いて、全員がモカリナを見た。
「リズディア様に出会えて、お声を掛けて頂けるなんて、待っている時間は、その気持ちを高めるための時間です。 待つ時間が長ければ、それだけ、出会った時の感動は大きくなります」
周りは、モカリナが涙を流していた事に気がついたようだが、モカリナは、リズディアに出会えたことで、嬉しすぎて、頬をつたう涙に気付かないでいる。
「モカリナ、涙が、流れているわよ」
「え!」
フィルランカに言われて、モカリナは、慌てて、頬を触ると、濡れていることに気がつくと、慌てて、ポケットからハンカチを取り出して、涙を拭う。
「もう、モカリナったら、瞬きもせずにいたから、涙が出ても仕方がないわよ」
今まで、瞬きもせずにリズディアの馬車が校門から入ってくる所を見ていた事を、イルーミクに指摘された。
「だって、初めてリズディア様に出会えるのよ。 一瞬だって、勿体無いわ」
リズディアは、今のやりとりで、モカリナの涙の意味が理解できたようだ。
(だからといって、瞬きをしないのも、どうかと思うのだけど)
リズディアは、ありがたいようだが、少し困ったような表情でモカリナを見ていた。




