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リズディアとチェルエールを見るエルメアーナ


 リズディアとチェルエールは、ヒュェルリーンの採寸した石板を見つつ、また、新たな石板を持ってきて、そこにリズディアが考えている、コンセプトデザインを描いてチェルエールと話を始めていた。


 そんな2人の様子を、エルメアーナとヒュェルリーンは、ただ、みているだけとなっていた。


「エルメアーナ、ごめんね。 あの2人、完全に2人の世界に入ってしまっているわ」


 ヒュェルリーンは、エルメアーナに言い訳をするように言うが、エルメアーナは、チェルエールとリズディア達の様子を伺っていた。


 ヒュェルリーンは、何も返事が返ってこなかったので、気になってエルメアーナを見る。


「エルメアーナ?」


「あの2人の、衣装に掛ける思いは、本物なのだな」


 エルメアーナは、2人から視線を外さずに答えた。


「あれは、父にもあった。 鍛治を始めた頃には、理解できないような行動をとる事があった。 素材をうっとりと眺めていたり、完成した剣とか防具とかに頬ずりしてい事があった。 あれに似ている」


「あら、カインクムさんて、そんな事するんだ」


 ヒュェルリーンは、なんとも言えない表情をした。


(なんだか、聞いちゃいけない事を聞いてしまったかもしれない)


「あの2人は、真剣なのだ。 だから、表面の見えている事以外に、その中の筋肉もだが、きっと、骨格まで調べていたのだと思う」


 エルメアーナの話を聞いて、自分が触られまくっている時の事を思い出したのか、気持ち悪そうな表情をする。


「あれ、あの2人の真剣な態度だったの?」


「だって、ヒェル。 肋の位置を確認するとなったら、皮膚の上から、脂肪も含めて触ることになるだろう。 ほら」


「ヒエッ!」


 エルメアーナは答えつつ、脇腹の上の肋に指を当てて、肋に沿って指を動かしたので、ヒュェルリーンはは、変な声を出した。


 ヒュェルリーンは、触られたところを手で隠すようにして、一歩、エルメアーナから離れた。


「あの人達は、常に真剣なんだ。 いやらしそうな触り方だったが、あの人達にしてみたら、その人の持つ体の弾力とかも必要な要素だったみたいだ。 細部にわたって体の情報が欲しいと思うから、あの行動だったのかもしれない。 全ての情報が入ったから、今は、そのデータから、どうやって最高の衣装を引き出すかを考えている」


「ふーん」


 ヒュェルリーンは、真剣な表情で、2人を見ているエルメアーナを見る。


(天才は、天才を知るって言うけど、何かを極めた人は、別の業種のものでも、その気配は感じるようね。 カインクムさんが、エルメアーナの事を、ジュエルイアンに誉めていたと言ってたけど、カインクムさんから見ても、エルメアーナは、天才の部類のようね。 あのリズとチェルの才能に気付いたのだから)


「鍛治は、内部を弄ることはできないが、表面の状況で、内部がどうなっているのか、予測ができる。 あの人達が、触っていたのは、私が、剣の表面の紋様から、内部の様子を予測するのに似ていた。 見えないものを見える部分からの情報で、内部を予測していたのだな」


「そうなのね。 職人には職人にしか分からない何かがあるのね。 商人とは少し違う感覚のようね」


「きっと、ヒェルにも分かると思う」


「……。 そうなのかしら」


(あまり、あの行為について、私も知りたいとは思えないけど)


 ヒュェルリーンは、嫌そうな表情をして、自分の体を両腕で覆い隠すようにしていた。


「ヒェルは、あのジュエルイアンと一緒にいる。 それにリズディア様とも一緒にいる。 それに、あそこの、もう1人とも知り合いじゃないか。 ヒェルにも、きっと見えるようになる」


 その言葉にヒュェルリーンは、少し驚いたようだ。


(あら、私ったら、エルメアーナに諭されているわ。 ……。 もう、昔のエルメアーナとは、違うのかもね。 これからは、天才鍛冶屋のエルメアーナと思って、接していかないと、私だけ、取り残されそうだわ)


 ヒュェルリーンは、嬉しそうにエルメアーナを見る。


(きっと、エルメアーナは、今まで、鍛治から、鍛治以外の事まで感じていたのね。 子供だと思っていたけど、教えられる以上のものを鍛治から見出したみたようだわ)


 ヒュェルリーンは、エルメアーナの知らない部分を見つけたことが、とても嬉しかったようだ。




 チェルエールとリズディアは、嬉しそうに話をしていた。


「ヒェル。 あの2人、とてもいいな。 まるで、勉強の事を考えているフィルランカとモカリナのようだ。 とても、楽しそうだ」


「そうね。 あの2人は、昔から、衣装の事を考えると、時間も忘れて、ああやって、話し合っていたわ。 それで、約束を忘れてしまって、慌てて約束の場所に行くのよ」


 ヒュェルリーンは、昔を懐かしんでいた。


「それで、相手にとても怒られるのよ。 まあ、学生の時は、ジュエルイアンとイルルミューランとの約束だったから、イルルミューランは、仕方なさそうにしてたけど、ジュエルイアンは、本当に怒ってたわ。 あの人、結構、時間にうるさいのよ。 少しでも遅れると、リズにまで怒っていたわよ。 皇女殿下なんて関係無かったのよ」


 ヒュェルリーンの話を聞いて、エルメアーナは、何かを思い出すようにヒュェルリーンを見た。


「なあ、ヒェル。 私達、ここで、待っててもいいのか?」


「ああ、あの2人の様子を見ていると、まだ、しばらくかかりそうよ」


 エルメアーナは、何かを思い出そうとしているのだが、思い出せずにいるようだ。


「なあ、ヒェル。 私達は、リズディア様に誘われたんだよな」


「そうよ。 リズの家に、お泊まりに誘われたのよ。 だから、フィルランカと、モカ……」


 ヒュェルリーンの表情が変わる。


 すると、慌てて、リズディアの元に歩いていく。


「リズ! 今日は、学校に寄って、3人をピックアップするのよ。 あなたが誘ったフィルランカとモカリナをあなたの家にご招待するはずでしょ」


「あ!」


 リズディアも、忘れて、ヒュェルリーンの衣装についてチェルエールとの話に夢中になっていた。


 リズディアは、チェルエールに向く。


「ごめん、チェル。 この後、予定があったのよ。 後の事はお願い」


 リズディアは、焦った様子でチェルエールに言う。


「ああ、予定がああるなら、後は、こっちで見ておくわ」


 リズディアは、その返事を聞くと、チェルエールの工房の入り口に向かう。


「ごめん、チェル。 明日の夕方には、顔を出すわ」


 リズディアは、チェルエールにそう言うと、残りの2人を見る。


「何してるのよ。 さっさと、学校に行くわよ」


 その変わりようにエルメアーナは、唖然として、ヒュェルリーンを見ると、ヒュェルリーンは、ヤレヤレといった様子をする。


「行こう、エルメアーナ」


 そう言って、エルメアーナの手をとって、リズディアの後を追う。


「チェル。 また、顔を出すわ。 今度、ゆっくり話をしましょう」


 そう言って、チェルエールの工房を出ていった。


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