リズディアとチェルエールの本気
チェルエールは、ヒュェルリーンの胸の位置を確認しつつ、何やら、ブツブツと呟いていた。
「リズ、その辺から、石板と、メジャーを取って!」
さっきまでのチェルエールとは全く異なっていた。
すると、チェルエールは、エルメアーナを見る。
「あなた。 リズから、石板をもらって、数字を書いておいて!」
「エッ!」
その言葉に、エルメアーナは、びっくりした。
今までの2人は、人の胸の大きさを楽しんでいただけで、自分の趣味の世界に入っていたようだったのだ。
しかし、今のチェルエールは、雰囲気が全く異なっていた。
「ぼさっとしてないで、直ぐに動く!」
「あ、ええ、はいー」
エルメアーナは、慌てて、リズディアの側に早足で動き出した。
(これ、絶対、まずいやつだ。 父が、本気の時と似ている)
エルメアーナも、自分が工房に入って鍛治仕事をしている時と同じ表情に変わった。
「リズディア様」
エルメアーナは、リズディアに声をかけるが、もう、さっきの恐るような表情は消えている。
「あ、ああ、ありがとう、じゃあ、記録をお願いね。 場所と寸法を書いてくれると助かるわ。 あ、それと場所は、記号になるから、言われた通りに書いておいてね」
「はい」
エルメアーナは、リズディアから、石板と白墨を渡してくれた。
「そうだ。 なるべく小さい字で書いてね。 結構、たくさん数字を書き込むことになるから、一応、気をつけてね」
そう言うと、リズディアは、メジャーを持って2人の方に行く。
エルメアーナは、リズディアからも、真剣さを感じたようだ。
そして、エルメアーナは、チェルエールを見ると、チェルエールも真剣な表情で、ヒュェルリーンの体を触っていた。
さっきまで、恥ずかしそうにしていたヒュェルリーンも、今では、チェルエールに、されるがままにされているが、くすぐったそうでもなく、恥ずかしそうでもない。
チェルエールが、真剣に向き合っていたことに、ヒュェルリーンにも、しっかり伝わったのか、今は、ただ、自分の体のサイズを測ってもらうことに抵抗することなく、されるがまま、言われるがままになっていた。
チェルエールは、何かを考えているようだった。
(ミルミヨルは、この子達の世代に特化しているのよ。 胸も硬めだけど、その周りの脂肪も引き締まり気味で、集めるにしても限界があるのよ。 だけど、私が、狙っている世代は、それより上だから、むしろ、この方法を使ったら、上の世代の方が、優位なのよ)
チェルエールは、ニヤリとしたようだ。
(きっと、ミルミヨルは、最初に食べ歩きの少女の噂を利用したから、その少女を中心にデザインしたのよ。 それが、幸か不幸か、10代に特化してしまった。 でも、このデザインの生きるのは、20代以上。 いえ、もっと上の世代を狙った方が、このデザインの効果は高いのよ)
チェルエールは、真剣にヒュェルリーンに対峙していた。
(きっと、これは、40代以上に高い効果が期待できるわ。 娘が大きくなってきて、自分の体型との違いを実感した貴族達が、昔を取り戻したいと思うはずよ。 その時に、この衣装が威力を発揮するわ。 ヒェルだと、ちょっと若い気がするけど、でも、これだけの大きさの胸を抑える衣装は、有効だわ)
チェルエールは、エルメアーナの胸をチラリと見た。
(噂の少女の胸が、どの程度の大きさなのかは、分からないけど、私やリズよりは、小さいはずよね)
チェルエールは、自分の胸を見た。
(難しい事を、ここまでにしたなら、このアイデアは、使わせてもらうわ)
チェルエールは、野心に満ちたような表情に変わってきたのだが、とても、楽しそうに見える。
ヒュェルリーンの周りを回るようにして、皮膚の下がどうなっているのか、触っているが、ヒュェルリーンは、さっきまでとは違って、体の力を抜いて、全部を曝け出すようにしていた。
(あの子より、ヒェルが、そして、私とリズ。 年齢的な違いは、10代から30代のサンプルは取れる。 後は、40代以上となるわ。 そのデータは、後回しにして、今は、ヒェルの体に集中ね。 この胸が、10代と同じように、上を向いた感じに出来たら、きっと、それは、この後に考える40代にも適用できるはずよ)
チェルエールは、楽しそうだ。
そのチェルエールに、リズディアが、入ってくるが、リズディアも、さっきのような悪戯っぽい表情は全く無く、むしろ、チェルエールの真剣さが乗り移ったようだ。
「チェル。 準備は出来たわよ」
「ありがとう。 じゃあ、始めるわよ。 私が位置を決めているから、その状態のサイズを測るわよ」
「分かったわ」
2人は、息ピッタリになって、ヒュェルリーンの採寸を始めた。
その様子にエルメアーナは、ただ、必死について行くだけだった。
(なんだ、この2人、本気になった時、仕事のモードに切り替わった時って、こんななのか。 こっちは、言われた事を書くだけだが、気を抜いたら、聞きそびれそうだ)
どちらかというと、少しでも気を抜いたら、置いて行かれそうなほど、2人の真剣さがヒシヒシと伝わっているようだ。
エルメアーナの表情にも、必死さが出ていた。
一通りの採寸が終わると、チェルエールもリズディアも、エルメアーナも、かなり、疲れた様子だった。
ヒュェルリーンは、ただ、立っていて、言われた通りに体を動かしただけだったが、周りの緊張感から、ヒュェルリーンも疲れたようだ。
「あー、疲れたぁー!」
「でも、かなり、いいデータが取れたみたいね」
「うん。 あ、そこの彼女、書いた石板を見せて」
チェルエールは、エルメアーナに言うと、エルメアーナは、素直に石板を渡そうと、石板を出すと、チェルエールは、そのエルメアーナの腕を握った。
そして、エルメアーナに笑顔を向けたが、エルメアーナは、また、自分の胸を触られた時の事を思い出した様子で、緊張したようだ。
「ありがとうね。 あなたのおかげで、ヒェルの衣装のイメージが湧いたわ。 とても素敵なヒェルの衣装を期待しててね」
そう言うと、エルメアーナの石板を受け取ると、チェルエールは、石板に何かを書き足し始めた。
(あー、そうなのか。 この人達は、遊ぶ時は、徹底的に遊び、真剣な時は、徹底的に真剣になる。 メリハリをつけているのか)
エルメアーナは、チェルエールを目で追いかけていた。
そんなチェルエールの横にリズディアが、並んで、チェルエールの持っている石板を覗き込み、何やら2人で話し始めた。
それをエルメアーナは、ボーッと見ていると、ヒュェルリーンが、寄ってきた。
「あの2人は、ふざけ出すと、どうしようもないくらい酷いけど、真剣になったら、集中して、周りが見えなくなるのよ」
「ああ、真剣な2人を見たら、その前の行動が信じられなかった」
「アレが無ければ、私もだけど、他の友人達も2人に協力するのだけどね」
「あれは、ちょっと、くすぐったい、……。 それよりも恥ずかしかった」
「そうね。 女同士でも、あれは少しやりすぎよね。 でも、あの2人、純粋に、良い衣装を作ろうとしているのよ。 それが分かるから、私は我慢しちゃうんだ」
「ああ、目的に対してブレてない。 あれは、そんな感じだ。 最初のお触りも、あれは、皮膚の下を確認していた。 流石に、体の中の筋肉を触られるときは、とてもくすぐったかったし、恥ずかしかった」
「あれも無かったらよかったのにね」
「ああ、でも、楽しみだ。 あの2人が、ヒェルのためにどんな衣装を作るのか、見てみたい」
ヒュェルリーンは、エルメアーナを宥めて、2人に対する誤解を解こうと思っていたのだが、その必要は無かったと思ったようだ。
そして、2人が話をしている姿を見るのだった。




