チェルエール
リズディアは、鍛冶屋の機械を見せたが、エルメアーナが、あまり、興味を示さなかったので、次の行動に移ることにした。
入り口から入って直ぐ南側の建物の中を覗いていたが、そこから、南へ移動した。
工房区は、西棟の通路より北側と、北棟の西側は、工業系の工房となっていた。
「エルメアーナちゃん。 これから行く所は、私とヒェルのお友達の工房なの。 フィルランカちゃん達の下校時間まで、もう少し付き合ってね」
「ああ、構わない」
エルメアーナは、特に問題が無い様子で答えた。
(2人の友達なら、……。 それにチェルエールと言う名前なら、女性だと思えるし、女性のところに行くなら、特に問題は無いだろうな)
ヒュェルリーンは、久しぶりに会える友人の事を思ってなのか、嬉しそうな表情をしていたので、エルメアーナは、警戒することなく、リズディアの後をヒュェルリーンと一緒に付いていく。
工房区の南棟の方に歩いていく。
リズディアは、南棟の一番西側の工房を目指していた。
その、一番西側の工房の扉を、リズディアは、開けると、その中に入っていく。
「チェル、入るわよ」
リズディアは、自分の家の兄弟の部屋に入るような感覚で、工房の中に入っていった。
「珍しい、お客様を連れてきたわよ」
そう言って、後ろから来ていたエルメアーナの手をとって、自分の前に寄せると、後ろから両手を回して、顔を寄せていた。
まるで、エルメアーナが、リズディアの言った、珍しいお客のように、思えるような対応をした。
店の中央にある作業台には、エルメアーナ達に背中を向けて、作業をしているロングスカートを履いた女性がいた。
その女性は、踏み台を使って、作業台に覆いかぶさるようにして裁断をしていたので、身長は、かなり、小さそうに見える。
そして、向こう側を向いていた、その女性は、面倒臭そうに答えた。
「何よ、リズ。 今、裁断中なのよ。 少し待ってよね」
リズディアの話を聞いても、作業を止めず、視線も向けることなく答えた。
チェルエールは、裁断が終わるまで、リズディアの相手どころか、視線も向けるつもりは無いようだ。
元皇女殿下のリズディアに対して、友人のような対応をとったので、それを見た、エルメアーナは、流石に少し驚いた表情をした。
裁断が、終わると、姿勢を戻し、一度、深呼吸をすると、リズディアに向いた。
「何よ。 突然来るなんて思ってなかったわよ。 皇女殿下」
チェルエールは、少し嫌味っぽく、リズディアに言うのだが、リズディアの前で、リズディアに抱かれているエルメアーナを見た。
「あら、このデザインは、ミルミヨルのデザインね」
ここの工房区は、昨年、ミルミヨルの注文の下請けで、どこの工房も大忙しになり、そして、その後も、輸出用、国内販売用と、大忙しだったこともあり、一目見て、ミルミヨルのデザインだと、直ぐに分かったのだ。
そのチェルエールの対応を見て、リズディアは、少し勝ち誇ったような表情をした。
「ふふーん。 これ、ミルミヨルの最初の1枚の一つよ。 量産品では無いのよ」
それを聞いて、チェルエールも思い当たることがあったようだ。
「ああ、ミルミヨルが、噂の少女に着せて宣伝したって、あの衣装なのか。 ……」
チェルエールの視線が、エルメアーナに釘付けになる。
「リズ、この娘が、食べ歩きの少女か? 17歳と聞いたぞ。 それに、今の時間は、高等学校に居るはずよね。 彼女は、飛び級を狙っているってはずだから、今は、授業中のはず。 この娘は、その妹か? 聞いていた話より、少し胸も小さく見える」
エルメアーナは、ムッとしていたが、リズディアは、しまったといった表情をしていた。
チェルエールは、リズディアの前に居るエルメアーナに視線を向け、特に、胸を凝視するようにしつつ、近づいてきた。
「あの服は、とても上手くできているから、胸のサイズは、2つ程度は大きくなるからな。 ただ、これは、少し、……」
チェルエールは、ベストの下に手を突っ込み、エルメアーナの胸の大きさを、ブラウスの上から確認し始めた。
びっくりしたエルメアーナは、慌ててその手を取り払おうとすると、リズディアが、エルメアーナの手を抑えた。
「どお、この大きさでもこれだけに見えるのよ」
リズディアが、デザインによって、かなり大きく見えるようになっている事を、チェルエールに確認させたのだ。
「うん、この娘は、胸の筋肉も多いのもあるけど、周りの脂肪を集めて、その上に、盛り上がるようにしているのね。 とても、上手なデザインになっているわ。 ああ、下着も上手く大きくするために使われているのね。 この世代特有の硬さから、擦れやすかったりして、刺激が強くなることもあるのを、その下着が、上手く、カバーしているわね」
エルメアーナは、今日、自分の胸を2人の女性に揉まれてしまった。
リズディアに続き、チェルエールにまで、しかも、チェルエールは、今、初めて出会った人で、避けようとしたら、リズディアに抑えられてしまって、逃げることも、チェルエールの手を胸から外すことは出来ずにいた。
ただ、何も言えずに、されるがままになってしまっていた。
(今日は、厄日だ)
リズディアに続き、チェルエールに触られて、またかと思ったようだ。
(だが、ちょっと、面白くないな)
エルメアーナは、目の前に居る、自分より10cm程、身長の小さいチェルエールの胸を睨むようにみた。
(だめだ、負けた。 この中では、胸の大きさが無いと、何も発言権は無いようだ)
リズディアも、チェルエールも、ヒュェルリーンとは言わないが、エルメアーナより大きいことは、一目でわかるのだ。
(ここで、一番小さいから、私は、発言権がないのか)
エルメアーナは、がっかりした様子で、チェルエールにされるがままになっていた。




