表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

672/1356

リズディアと置いていかれるエルメアーナ


 リズディアとエルメアーナのテーブルに来た男は、丁寧にお辞儀をすると、リズディアに話しかけてきた。


「これは、リズディア様、今日は、可愛いお嬢様を連れているのですね。 おや、これは、高等学校で流行っている服ですね」


「あら、ヲクモン。 あなたも、こちらに来ていたのね」


 リズディアに話しかけたのは、この建物の中で、ブティックを営んでいる、ジャツ・インカン・ヲクモンだった。


「ええ、丁度、昼時ですから、こちらで簡単に済ませようと思ったところです」


「あら、忙しそうなのね」


「ええ、お陰様で、仕事が終わらずに困ってます」


 その表情には、困ったというより、むしろ、嬉しそうな表情があった。


「商人は、少し忙しい位でないとね」


「そうですね」


 ヲクモンは、リズディアと話がひと段落すると、エルメアーナを見る。


「昨年は、そちらの衣装のおかげで、大忙しでした。 今年も、高等学校に入学した生徒から、注文もいただきました。 ただ、ミルミヨルのところほど、私の店は、受注できてなかったですけど。 でも、そのデザインは、今年も学生たちには、人気ですね」


 ヲクモンは、嬉しそうな表情をした。


(あら、その様子だと、思った以上に注文が取れたみたいね。 きっと、儲けられたみたいだわ)


 その様子をリズディアは、黙って聞いている。


「今年も、私のところにも、何着か、注文がありましたけど、去年、沢山作っていたので、職人も、色々、工夫しておいてくれたので、治具も残っていましたし、デザインが同じですと、量産効果もあったものだから、去年よりも多く作れました」


(今年も売れると思って、色々、残しておいたのね。 さすが、ヲクモンね。 先の事もよく見えていたようだわ)


 リズディアは、面白そうな表情をしていた。


「では、まだ、このデザインは、流行るのかしら?」


 リズディアは、エルメアーナの衣装を見た。


「去年のような事は無いと思いますが、このデザインは、定着しそうですね。 学生には、好評です。 高等学校だけじゃなくて、帝国大学でも、その下の学校でも、欲しがる人は、いました」


 ヲクモンは、去年から、今までの事を思い出していたようだ。


「流行るというよりは、欲しいと思う女性は、多いと思いますから、増えもせず減ることもなく、安定的な需要があると思います」


「そう、それはよかったわ」


 リズディアは、何か含むような表情で答えた。


 それを見て、ヲクモンは、潮時だと思ったようだ。


「それでは、私は、この辺で」


 そう言って、ヲクモンは、立ち去ろうとすると、リズディアは、ふと思いついたような表情をする。


「ああ、もう少し構想がまとまったら、お話に行きますので、その時は、お時間を作ってもらえませんか」


 ヲクモンは、今の話を聞いて、一瞬、表情を鋭くしたが、すぐに笑顔に戻る。


「その時は、全力で当たらせてもらいます」


「よろしく頼むわ」


 ヲクモンは、お辞儀をすると、その場を離れていった。




 ヲクモンと入れ替わるように、大きなトレーを持ったヒュェルリーンが、テーブルに来た。


 ヒュェルリーンは、離れていくヲクモンが嬉しそうにしているのを見逃さなかった。


「はい、買ってきたわよ。 本当に、リズは、人使いがあらいからぁ」


 ヒュェルリーンは、少し不満そうに言って、トレーをテーブルに置くと、買ってきたものを皿ごと配り始めた。


「今のは、ヲクモンさんですよね」


「ええ、考えるのは私の仕事かもしれませんけど、実際に売るのは、彼にお願いする事になるわ」


(なるほど、もう、作るだけじゃなくて、販売ルートまで、考えていたのね。 ただの、縫製士なら、作ることしか考えないだろうけど、リズは、販売の事もしっかり考えて進めているわね)


 ヒュェルリーンは、ヲクモンとリズディアを比べて見ると、何か思うような表情をする。


「あら、売るのはって事は、作るのは誰かに頼むの?」


「ええ、ここの工房区に信頼のおける私の友人が居るので、サンプルの作成は、そっちに頼むわ」


 それを聞いて、ヒュェルリーンは、何か思い当たったようだ。


「そう言えば、留学中に、仲の良かった人がいたわね。 趣味の衣装作りを一緒にしていた人」


 リズディアは、やっぱりといった表情をする。


「そう、チェルエールよ。 彼女、ここの工房区に店を持っているのよ」


「ああ、そうだったの。 アツ家の騒動の後、あなたが保護していたのね」


 ヒュェルリーンは、過去に有った出来事を思い出していたようだ。


「保護したのは、うちの旦那よ。 義父様に口を聞いてくれて、工房区に小さいけど、店を用意してくれたのよ。 1人なら生きていけるわ」


 ヒュェルリーンは、納得したような表情をし、そして安心していた。


「うちの旦那が、心配していたけど、あなたが、後ろ盾になったら、安心ね」


 リズディアも、その時の事を思い出した様子で、少し渋い顔をする。


「そうね、家長の父親、隠居の祖父母、母親、それに兄達まで、絡んでいて、チェルエールは、まだ、学生だったから、加担してなかったから良かったけど、あれだけの騒動だったから、心配してたのよ」


「大丈夫よ。 ちゃんと元気にしているわ。 ああ、そうね。 今度、ヒェルも一緒にお店に行きましょうよ。 きっと、チェルエールも喜ぶわ」


「ええ、こっちにいる間に、会いたいわ」


「わかったわ。 ちゃんと会わせてあげるから、安心して」


 リズディアとヒュェルリーンは、エルメアーナの分からない話をしていたが、渡されたお皿の料理を、美味しそうに食べていた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ