リズディアのお誘い 2
フィルランカと、エルメアーナは、今まで、他人の家に泊まった事が無いので、どうしようかとお互いを見つつ、どうやって、答えてよいのかと困った様子だ。
「フィルランカ。 頼む。 何とか言ってくれ」
「ちょっと、私に振らないでよ。 私だって、どうしたらいいのか、分からないわよ」
2人は、小声で、話している。
「ねえ、次のお休みは、前日から開けておいてね。 必ず来てもらいますから」
リズディアは、2人が断らない事を前提に話しているが、エルメアーナは、家以外で寝泊まりした事はなく、フィルランカにしても、孤児院とカインクムの家以外で寝た事は無い。
突然のリズディアの提案に驚いてしまったのだ。
フィルランカは、初めてのお泊まりのお誘いに驚きつつ、そんな事をしても良いのかと、後ろめたさを感じていたのだ。
それは、エルメアーナも一緒だった。
そんな中、フィルランカは、ふと、友人の顔が浮かんだ。
「あのー、リズディア様。 まだ、モカリナに話をしてないのですけど」
恐る恐る、フィルランカが言うのだが、リズディアの表情は、全く気にしてない様子だ。
「ああ、モカリナさんに、話してダメだったら、諦めるわ。 その時は、5人で楽しみましょう」
モカリナは、どうでもいいような発言をしてしまった。
(えっ! ちょっと、待ってよ。 モカリナとセッティングしなければ、絶対にモカリナが怒るわよ。 リズディア様が、何と言おうと、モカリナを連れていかなかったら意味がないわ。 ……。 困ったわ。 モカリナに、何も予定が無い事を祈るしかないのかしら)
フィルランカは、困ったような表情をしているが、モカリナの事を考えたら、エルメアーナの事も、自分の後ろめたさも忘れてしまったようだ。
リズディアとしたら、フィルランカ達が着ている服を確認できれば良いので、モカリナは、そのついでなのだ。
今、リズディアの頭の中には、大人向けの衣装のデザインをどうするかと、ここに居る女子4人で女子会をしたいだけなのだ。
ナキツ家の四女であるモカリナという名前は、聞いただけだったので、それまでなのだ。
話もした事のない、義妹のイルーミクに面会を頼まれている侯爵家の四女は、今は、どうでもいい。
ただ、フィルランカとしたら、ここで、リズディアと出会って、更に、次の面会の約束まで付けられたのだから、何としても、モカリナを連れてきたいと思っている。
(でも、来週なら、どうなのかしら? モカリナの予定なんて、知らないけど、リズディア様が誘ってくれたのなら、きっと、喜んで来てくれるわよね)
フィルランカは、モカリナが了承してくれるか、少し心配をしていたが、相手が、元皇女のリズディアなので、モカリナも了承してくれるのではないかという、希望的観測はあったようだ。
「す、すみ、すみま、せん。 わ、私も、一緒、なの、でしょう、か?」
フィルランカの横で、緊張しきったエルメアーナが、リズディアに話しかけた。
「何を言っているの? フィルランカさんとエルメアーナさんが、一緒じゃないと意味がないわ。 2人のうちのどちらかが、来れないなら、この話は無しね」
リズディアは、強い口調で答えた。
その様子を見て、ヒュェルリーンは、少し残念そうな表情をする。
「エルメアーナ。 リズが、あの口調の時は、断っちゃダメよ。 後で、酷い目にあうわよ」
それを聞いて、エルメアーナは、酷い目が何なのか気になった様子で、ヒュェルリーンを見た。
「ちょっと、ヒェル。 その言い方は、少し酷いわ。 私は、楽しい女子会を計画しているのよ。 だから、誰も外れてほしくないのよ。 食事も寝る所も、ちゃんと用意するから、お願い。 学生時代の時みたいに、楽しみましょうよ」
ヒュェルリーンは、その一言で、リズディアが、留学中に行った女子会を、帝都で行いたいのだと理解したようだ。
「もう、仕方がないわね」
リズディアは、羽根を伸ばすつもりだと分かったヒュェルリーンは、エルメアーナを見る。
「あまり、気にする事は無いわ。 リズは、あなた達と話がしたいのよ。 きっと、女子だけの時にしか話せない話をしたいだけなの。 悪いけど、少し付き合ってあげて」
ヒュェルリーンは、仕方ないような表情で伝えたのだが、リズディアは、それが気に入らなかったようだ。
「ヒェル、何だか、私がワガママを通しているみたいじゃないのよ」
「いえ、みたいじゃなくて、これは、あなたのワガママに付き合うだけなのよ」
ヒュェルリーンの返事に、リズディアは、少し拗ねたような表情をする。
「いいじゃないのよ。 あなただって楽しめるのだから、むしろ、ヒェルには感謝してほしいほどだわ。 こんなに若い子達とお話ができるのよ。 あなたの大好きな女の子たちが4人もいるのよ。 そんな事を言うなら、お話好きのヒェルは、呼ばないわよ」
そう言われて、ヒュェルリーンも、拗ねるような表情をした。
「もう、ヒェルの意地悪。 私が、この子達と話す事が楽しみだってわかっているくせに」
ヒュェルリーンは、若い世代の女子と話す事が楽しみなのだ。
空いた時間を埋めるには、人と話す事、特に、噂話などをする事が多いので、世代の違う人からの話は、ここでは喜ばれている。
それ以外となると、外でスポーツをする、室内でゲームをする程度の娯楽しか無いので、彼女達にしたら、話をするというのは、娯楽として大きな意味を持っているのだ。
特に、若い女子達の話は、バラエティーに富んでいるので、ヒュェルリーンには、楽しみの一つなのだ。
「だって、ヒェルが、意地悪を言うからでしょ。 だから、私も意地悪をしただけよ。 お互い様じゃないの」
リズディアは、ヒュェルリーンとの会話を思い出した。
その話を冷静に思い出すと、ヒュェルリーンの言うことにも納得できたようだ。
「分かったわ。 じゃあ、お互いに言い合ったところで、これで終わりね」
「そうね。 終わりね」
そう言うと、2人は、お互いに笑い合った。
(2人は、とても仲が良いのね)
(ヒェルは、本当に、リズディア様と仲が良いのだな。 さすが、私のヒェルだ)
フィルランカは、感心したような表情をするが、エルメアーナは、ホッコリした表情をしていた。
ただ、フィルランカには、一つ困った問題があった。
(ああ、でも、モカリナの事、どうしよう。 でも、この様子でリズディア様に相談しても、何か、アイデアをもらえそうも無いわ。 やっぱり、モカリナと相談して、予定を合わせてもらうしかないのかもしれないわね)
フィルランカは、次に学校でモカリナに、どう話そうかと思ったようだ。
(でも、モカリナの予定って、どうなんだろう。 ……。 いっその事、黙っていたら、……。 ああ、ダメよ、イルーミクから、話が漏れた時の事を考えたら……)
フィルランカは、青い顔をする。
(ああー、絶対、これ、後からバレたら、とんでもないことになるわ。 後でバレたら、モカリナは大激怒だわ)
フィルランカは、この世の終わりのような表情をしていた。




