女達の戦いを防ぐ男達
フィルランカ、エルメアーナ、リズディア、そして、ヒュェルリーンの4人の中では、ヒュェルリーンが、一番大きなものを持っているので、フィルランカやエルメアーナのように、サイズを大きく見せる必要はないだろうと思っていたようだが、2人の衣装を見て、自分も欲しいと言ったヒュェルリーンに驚いていた。
(何で、あれだけ大きいのに、あれ以上、大きくしたいのかしら? 必要無いと思うけど)
フィルランカは、不思議そうな表情をしている。
「ヒェルは、それ以上、大きくしてどうするんだ。 その半分でも3分の1でも私に分けて欲しいくらいだ」
(ま、エルメアーナったら、ちょっとはしたないけど、でも、私が知りたいと思ったことを言ってくれたわ)
ヒュェルリーンは、少し恥ずかしそうにする。
「ええ、最近、少し、下がってきたように思えるのよ。 だから、ミルミヨルさんの服なら下から持ち上げてくれるかもって、思ったのよ」
その一言、リズディアが、イラッとした表情をする。
「あら、エルフの100歳なら、まだまだ、若いわよ」
リズディアは、34歳なので、エルフの100歳なら、人の26歳程度の、ヒュェルリーンは、明らかに若く見える。
長く若さを保っていられるヒュェルリーンを、リズディアは、少し羨ましいと思った様子で、嫌味を言ったのだ。
ただ、リズディアの一言に、ヒュェルリーンは、反応していた。
「あのー、リズ。 私は、まだ、99歳なのよ。 100歳ではないわ」
「あら、100歳の一つ手前の99歳だったのかしら」
リズディアは、サラッと返した。
(ちょっと、二桁と三桁なのよ、あなただって、29歳と30歳は違うって、騒いでいたでしょ)
ヒュェルリーンは、リズディアを睨むのだが、睨まれた方は、全く気にしてない様子で、近くに有ったグラスを口につけていた。
丸テーブルの正面に向かい合うように配置している、リズディアとヒュェルリーンなのだが、年齢の話が出て、雰囲気が悪くなってしまった。
フィルランカとエルメアーナは、どうしようかと思うが、それ以上の話はできないので、黙って、2人を見比べるだけだった。
フィルランカとエルメアーナが、困った表情をしていると、それが、イルルミューラン達にも伝わったようだ。
「ねえ、リズディア。 今のヒュェルリーンさんの話なんだけど、40代以上の女性達のために、彼女達の衣装を参考に作れないだろうか? 40代50代の人向けに開発したら、面白いかもしれないよ。 その世代の貴族の婦人方なら、体型を気にする人も多いと思うんだ。 何なら、20代後半から、50代までを見据えたデザインの開発をしても面白いかもしれないよ」
場の雰囲気を変えるために、イルルミューランは、仕事の話を振った。
それも、リズディアより上の世代向けと言い、リズディアの年齢を気遣った。
「そうね。 大きく見せるのではなく、形を整えるのね」
リズディアは、ヒュェルリーンの胸を見てから、自分の胸をみる。
(そうなのっよね。 最近、年齢と共に、徐々に形が変わってくるのよね。 昔ほど張りも無くなってきているから、面白い提案かもしれないわ)
リズディアが、何かを考えるような表情をしていると、そこに、ジュエルイアンが、ヒュェルリーンに話しかけてきた。
「お前の胸は大きすぎるからな。 重力に引かれてしまうのは仕方がないことだ」
その一言にヒュェルリーンは、イラッとしたようだが、ジュエルイアンは、そのまま、続けた。
「でも、ミルミヨルの店に、お前のサイズに合う服が有るのかな」
そう言うと視線を、フィルランカとエルメアーナに向けた。
先程の話で、ミルミヨルのデザインは、若い世代を集中的に狙ったようだと話をしているので、さすがに、10代で、ヒュェルリーンのような大きさを持つ少女は、少ないだろうと思ったようだ。
ジュエルイアンは、ヒュェルリーンが、ミルミヨルの店では、自分のサイズに合うものが無いかもしれないと思わせることに成功したと思ったようだ。
すると、畳み掛けるようにヒュェルリーンに話しかける。
「ここは、リズディアと協力して、20代後半から上の世代向けの服の開発を協力した方が良いと思うぞ」
ジュエルイアンとしても、ヒュェルリーンとリズディアの仲が悪いのは面白くないので、お互いに協力する方向に話を持っていった。
(なるほど、ミルミヨルが、10代の少女に特化しているのなら、こっちは、大人の女性向けを対象にして考えたら良いわけよね。 相手と同じものを作るとしても、対象年齢が違うなら、お互いに潰し合いになる事は無いわ)
ヒュェルリーンも夫のジュエルイアンに言われて、納得したような表情をした。
「そうよね」
ヒュェルリーンは、ジュエルイアンに言われて、フィルランカとエルメアーナの胸を見る。
エルメアーナより、フィルランカの方が、大きいが、それでも、ヒュェルリーンほどのサイズは無い。
(フィルランカさんの体型をモデルとしていたら、私のサイズは、無いかもしれないわね。 そうなると、リズディアの開発を手伝った方が、得策かもしれないわ)
お互いの夫からの一言で、リズディアとヒュェルリーンの気分は戻ったようだ。
その大人の会話を気にすることなく、エルメアーナは、自分の胸とヒュェルリーンの胸を見比べていた。
「ヒェルの大きさが有ったら、私は、それだけで満足だがな。 大きい人にも大きいなりの悩みがあるのだな」
エルメアーナが、ポロリと一言言うと、ヒュェルリーンは、困ったような表情をする。
胸の小さいエルメアーナからしたら、ヒュェルリーンの贅沢な悩みは、羨ましかったようだと、ヒュェルリーンは、気がついたようだ。
「ああ、ごめんなさい。 私の事ばかりだったわね。 でも、2人のお陰で、新しいビジネスのヒントが見えてきたのよ」
そう前置きをすると、エルメアーナに笑顔を向ける。
「エルメアーナ、私があなたと同じ年頃だから、……。 そうね、エルフの私なら50年前かな。 その頃なら、私もエルメアーナと同じ位しかなくて、大きくならないかと思っていたわ。 だから、エルメアーナも、これからなのよ。 きっと、10年後には、私と同じような悩みを抱えていると思うわ」
「そうなのか」
その一言で、エルメアーナの様子が一変した。
(((この子は、本当に、おだてると、すぐに上がるわね)))
3人は、その様子を見て、少し引き攣った笑いを浮かべていた。




