ジュエルイアンと偶然の出会い
新学期が始まり、フィルランカは、侯爵家の四女であるモカリナだけでなく、帝国を経済面で支える、イスカミューレン商会の末娘、第5夫人の娘であるスツ・メンレン・イルーミクとも面識を持つようになってしまった。
フィルランカ自身は、未だに孤児として市民登録されており、カインクムが、フィルランカの身元保証人となっているだけなので、名前しか持っていない。
これが、養女として戸籍に入れば、次女フィルランカとして、カインクムの性である、カランが、頭に付くのだが、フィルランカが、養女を断ったので、そのままの身分のまま、7年が過ぎていた。
ただ、フィルランカが、高等学校入学から、次席をキープしていることから、孤児フィルランカより、次席のフィルランカというイメージがついてしまっている。
入学当初の皇帝の落とし子という噂、侯爵家の四女であるナキツ・リルシェミ・モカリナと親交が深く、そして、学力でも次席を常にキープしていた事で、周りが一目置くようになっていたのだ。
フィルランカは、学校が遠いこともあり、食べ歩きは、週一の休みの日に行っていた。
その際は、必ず、エルメアーナも一緒に出歩いている。
年度末においては、ミルミヨルの店は、連日、お客が入っていたので、フィルランカとエルメアーナへの対応ができてなかったのだが、それは、下級生の入学式が終わっても、未だに忙しがっているミルミヨルなので、フィルランカとエルメアーナには、新しい服は手に入っていなかった。
余裕が出来たら、ミルミヨルの方から連絡すると言われていたのだ。
イルーミクから、リズディアと面識を持てるようにという話も、ここ1・2ヶ月は無理そうだと言われていたこともあり、フィルランカは、エルメアーナを誘って、第1区画の飲食店に行くことにした。
その店は、フィルランカが、第1区画で一番最初に入ったお店で、高等学校の合格発表の時に、カインクムとエルメアーナの3人で食事をしたお店である。
「フィルランカ、久しぶりに、このお店に来るな」
「ええ、そうね。 今まで、ミルミヨルさんの言いつけ通り、表にラウンジのあるお店を中心に使ってたけど、ミルミヨルさんから、新作は、まだ、来る予定もなさそうなので、今日は、ここのお店にしたのよ」
「ふーん」
そんな話をしつつ、店の中に、2人は入っていく。
すると、直ぐに従業員の男性が、フィルランカ達に挨拶をしてきた。
「いらっしゃいませ。 フィルランカ様。 今日は、お二人でご来店でしょうか?」
フィルランカが11歳当時から、時々、店に来店していたので、従業員もフィルランカの顔と名前を覚えている。
副支配人が気に入った少女ということもあるので、この店の従業員でフィルランカには、興味を持って接してくれる。
「ええ、今日は、エルメアーナと2人です」
「かしこまりました。 ただ、今日は、直ぐにお席をご用意できませんので、申し訳ございませんが、少しお待ちいただけないでしょうか?」
従業員は、少し恐縮した様子でフィルランカに伝えた。
「はい、問題ありません。 では、少し待たせてもらいます」
従業員にそう言うと、後ろのエルメアーナに向く。
「少し待つみたいだけど、構わないわよね」
「ああ、問題ない」
エルメアーナも納得した。
「ありがとうございます」
従業員とフィルランカの話が終わり、待合室の方にフィルランカと招こうとする。
「エルメアーナ。 それに、フィルランカか」
後ろから、男の人の声がしたので、2人は、その方向を向くと、そこには、ジュエルイアンがいた。
そして、いつものようにエルフの女性である、ヒュェルリーンと、知らない顔の男女がいた。
「どうしたんだ?」
ジュエルイアンとしたら、第1区画でも有名店で、フィルランカとエルメアーナに出会うとは思わなかったこともあり、思わず声をかけてしまったようだ。
「これは、ジュエルイアン様。 先日は、主人の店に、ご来店いただきありがとうございました。 今日は、エルメアーナと私で、こちらのお店に食事に来ました」
そのフィルランカの丁寧な応対に、ジュエルイアンは、驚いたような表情をする。
「そうだったのか」
そう言って、従業員の様子をジュエルイアンは、確認する。
フィルランカ達への態度が、一般客のものではなく、VIPとは言わないが、それに準ずる程度の対応をしているように見たようだ。
「なあ、この店には、よく来るのか?」
「はい、私が、第1区画で、初めて食事をさせていたいたお店です。 こちら副支配人様には、大変良くして頂いたので、こうやって、時々、お食事をさせていただいております」
フィルランカが、ジュエルイアンと応対をすると、その後ろで、エルメアーナが、控えるようにする。
このようなお店では、エルメアーナは、可能な限り、言葉を発しないようにして、態度を真似ているのだ。
「そうだったのか」
「フィルランカちゃんも、エルメアーナも、美味しい味をよく知っていると思ったら、こういう事だったのね」
隣に居たヒュェルリーンも、話に加わった。
「いえ、私たちは、それほどでもありません。 少しでも皆様の味覚に近付きたいと思って、こうやって、時々、食事をさせていただいております」
すると、後ろの女性が、声をかけてきた。
「ねえ、ヒュェルリーン。 それにジュエルイアン。 丁度いいわ。 そちらの、お2人も、ご一緒に食事を致しませんか?」
後ろに居た女性は、4人の中では、イニシアチブを持つような様子で、声をかけてきた。
「よろしいのですか?」
「ええ、構わなくてよ。 もう、お仕事の話は終わってますし、今日は、お二人が、私達の結婚を祝ってくれるって話だったじゃないの。 そこに、あなた方の知人が入るだけです。 それに、私は、フィルランカさんに興味があるのよ」
その女性に、そこまで言われると、ジュエルイアンもヒュェルリーンも何も言えないようだ。
「なあ、フィルランカ。 それに、エルメアーナ。 お前達も、俺達と一緒に食事をしないか?」
フィルランカは、ジュエルイアンの方に軽く会釈すると、エルメアーナを見ると、小声で聞く。
「ねえ。 どうしようか?」
「構わない。 ヒェルも一緒に食べられるとは思わなかった」
エルメアーナは、フィルランカとの会食に、ヒュェルリーンも入ったと思い、二つ返事で了承した。
すると、フィルランカは、ジュエルイアンの方を向く。
「ありがとうございます。 それでは、お言葉に甘えて、ご一緒させていただきます」
「ああ、ありがとう」
ジュエルイアンが返事をすると、フィルランカは、後ろにいる男女2人に挨拶をするため、奥の2人に視線を向けた。
それをジュエルイアンとヒュェルリーンも気がつき、フィルランカ達に挨拶できるように避けてくれた。




