イルーミクの憂鬱
モカリナに迫られ、リズディアと会えるようにすると約束してしまったイルーミクは、困った表情で登校した。
(ああ、ダメだった。 モカリナになんて言おう)
教室に入ると、モカリナにどうやって話をしようかと思い、席に座るとため息を吐いた。
(そうよね。 リズディアお姉様とお兄様は、去年結婚したといっても、少し前なのよ。 それに皇族だった、リズディアお姉様なのだし、お兄様は、イスカミューレン商会を引き継ぐことになっているのだから、付き合いも多いわ。 そんな中、私が頼んだからと言って、はい、そうですかって、引き受けてはくれないわよね)
イルーミクは、困った表情をする。
(リズディアお姉様、商会の仕事を把握する事もあるから、昼間は、商会とそこに所属するお店やら、工房やら、全部回っているみたいだし、夜は夜で、お兄様と一緒に、貴族やら商会関係者と会食ですものね。 昨日、私と会えたのだって、奇跡に近かったのよ。 そんな人に、フィルランカの生い立ちとかを話しても、直ぐに会ってくれるわけないわよね)
イルーミクは、この後、どうやって、モカリナに話をしようかと悩んでいた。
(でも、一応、約束は取れたわ)
イルーミクは、微妙な表情をした。
「「おはようございます」」
イルーミクは、後ろから挨拶された声を聞いて、聞き覚えのある声だと、直ぐにわかった。
(あー、この声、モカリナとフィルランカだわ)
イルーミクは、暗い表情で、声の方向を見る。
「お、おはよう、ござい、ます」
「あのー、せっかくですので、私達もご一緒させてもらえますか?」
「あ、ええ、どうぞ」
そう言うと、椅子を滑るようにして奥の方に移動して、反対側まで移動すると、モカリナが真ん中に入るようにし、その後に、フィルランカが続いて、机には、イルーミク、モカリナ、フィルランカが、座った。
(あーっ、やばい。 どうしよう)
イルーミクは、緊張気味にしている。
「ねえ、リズディア様は、何か、言っていた?」
モカリナが、リズディアと会うことができるのか、聞いてきたので、イルーミクは、困った顔で、その話を聞いていた。
「ああ、やっぱり、ダメだったのね」
モカリナが、その様子を見て、上手くセッティングができなかったと思ったのだろう、失敗だった事をモカリナから言った。
「えっ!」
イルーミクは、ダメだったと言った際にモカリナが、どんな対応をするのか気になっていたのだが、あっさりと引き下がったようなので、唖然としてしまった。
そのイルーミクの様子を見たモカリナは、イルーミクを見る。
「あのー、一晩寝て、考えてみたら、私達が、そう簡単にリズディア様と、お会いするなんて無理な話だと理解したのよ。 何かあった時、まあ、リズディア様に時間が取れるようなら、その時にでも、会わせていただければ、それで構わないわ」
イルーミクは、気が抜けた様子で、モカリナを見ていた。
「ごめんね。 昨日、リズディアお姉様と、話す機会があったので、聞いてみたのだけど、しばらくは、無理そうなのよ。 だから、時間が取れるようになるまで、もう少し待って欲しいって言われたのよ」
「ふーん。 えっ! リズディア様にお話していただけたのですか?」
「ええ、とても興味深そうだったわ。 だから、ちゃんと時間を取りたいって言ってたわよ」
イルーミクは、気の抜けた様子で答えた。
モカリナにダメだったと言ったら、悲しむだけでなく、罵声が飛んでこないかと思っていたので、落ち着いた様子だったので、イルーミクは、ホッとしたようだ。
「じゃあ、直ぐには無理でも、リズディア様の都合が付けば、お会いすることができるのかしら」
「ええ、かなり先になりそうだと言ってたけど、必ず時間は取ると言ってたわ」
すると、モカリナは、不安そうな顔をする。
「ああ、その時、モカリナとフィルランカは、セットだからね。 侯爵家の四女で、学年5位まで成績を上げていると言ったら、モカリナにも興味を持っていたわよ」
それを聞いて、モカリナが顔を赤くして、目を潤ませた。
「そ、それは、本当の事なのですか?」
「ええ、今、フィルランカと2人で飛び級で、帝国大学への推薦入学枠を狙っていると言ったら、とても興味を示していたわ。 お姉様は、帝国の婦女子にもキャリアを持つ人が現れた方が良いと、常々、仰ってたから、きっと、2人に興味を持ったみたいよ。 あー、そうなると、案外、早い段階で、時間を取ってくれるかもしれないわね」
モカリナは、それを聞いて、イルーミクの手を取った。
そして、目には今にも溢れそうなほどの涙を溜めていた。
「ありがとう、イルーミク。 本当に感謝しているわ」
その表情をイルーミクは、ビックリした様子で見た。
「いくら、イルーミクの頼みだと言っても、そんな簡単にリズディア様が、会ってくれるなんて思わなかったわ。 しかも、私にも興味を持ってもらえたのね」
モカリナは、とても嬉しそうだった。
「そ、そう、よ」
イルーミクは、モカリナの様子を見て驚いていた。
(どうして、モカリナは、こうなの。 自分の好きな事には、貴族を忘れているわよね。 年相応の反応になるみたい)
イルーミクは、先が思いやられそうだと思ったようだ。
しかし、その先に居るフィルランカをチラ見した。
(モカリナは、こんなだけど、フィルランカは、特に気にしてないみたいね。 まあ、リズディアお姉様に会いたがっているのはモカリナだからなのよね)
イルーミクは、フィルランカを見て少し落ち着いたようだ。




