リズディアとモカリナの為のフィルランカ
リズディアの事が、とても尊いと思っているモカリナが、目の前にリズディアのドレスを見て、本音が漏れてしまったのを、フィルランカとイルーミクに見られて恥ずかしそうにしていたのだが、引きずらずに、開き直った様子のモカリナなのだが、その様変わりが、フィルランカとイルーミクには、少し怖いと思えたようだ。
(1年付き合っていたけど、あんな、モカリナは、初めて見たわ)
(さっきまでの様子、……。 しかし、この様変わりは、何なの? まあ、貴族でしかも侯爵家ともなったら、気持ちの切り替えも上手くできるのかしら。 爵位のある家の人は、違うわぁ。 侯爵家なら、恥ずかしい事が有っても、誤魔化し方も心得ているのね)
2人は、恐ろしいものを見たような表情で、モカリナを見ているのだが、モカリナは、そんな2人を不思議そうに見ている。
「ん? どうしたの?」
「「……」」
「何だか、私の目標が、ハッキリと見えたって感じよね。 ふふーん。 とても、す・て・き」
モカリナは、リズディアのドレスを見たことで、自分の気持ちがハッキリしたので、これからは、その目的を達成するための、進む道を見出せたと思ったようだ。
だが、そのモカリナの表情を見ている2人は、見てはいけないものを見てしまったと思ったようだ。
2人は、モカリナに何と言って、話しかけたら良いのかと、困った様子で、窓際に立っていた。
すると、モカリナは、イルーミクを見る。
「ねえ、イルーミク。 いえ、イルーミク様」
モカリナは、イルーミクに迫る。
「へ、は、はい。 何でしょう」
イルーミクは、モカリナに見られるのだが、そのモカリナの目に恐怖を感じたようだ。
すると、モカリナは、顔を赤くすると、モジモジする。
「あのォ、イルーミクはぁ、スツ家のぉ、ご令嬢じゃないですかぁ。 だからぁ、今度ぉ、リズディア様とぉ、……」
モカリナは、何年も会えなかった恋人を見るような目でイルーミクを見ると、小さな声で話を続ける。
「会う機会を作って欲しいのです」
そう言うと、恥ずかしそうに顔を覆った。
(何なのよ。 本当にモカリナは、リズディアお姉様が、好きなのね、……)
(私は、ここまでは、できないわ。 モカリナは、恥ずかしいとは思わないのかしら?)
モカリナは、2人の思いなど気にせず、イルーミクに迫るように、虚な目で見ている。
「ねぇ、イルーミク。 リズディア様と会う機会を作ってもらえますよね」
イルーミクは、モカリナの表情から、絶対に断れないと思うのだが、その思いの強さに恐怖を覚えてしまったので、答えられずにいる。
「ねぇ、私の、お願いを聞いてくださらないの?」
その声は、フィルランカには、普通に聞こえたようだが、イルーミクには、とても恐ろしく思えたようだ。
「は、はい。 可能な限り早い段階で、モカリナ様をリズディアお姉様と会う機会を作らせてもらいます」
イルーミクは、恐怖に打ち拉がれた様子で答えた。
すると、モカリナは、顔を綻ばせた。
「本当ですか」
「はい、私が、責任を持って、セッティングさせていただきます」
モカリナは、反ベソ状態になると、イルーミクに抱きついた。
「うーん。 イルーミク、ありがとう。 私、本当に、リズディア様と会えるのね」
しかし、イルーミクは、今にも意識が飛びそうな程、怯えていた。
(あ、あ、あ。 私、こんな約束して、大丈夫なのかしら。 お姉様なら、仕方無さそうに了解してくれると思うけど、お父様と夫であるイルルミューラン兄様に、何と言われるのかしら、それに他の兄様や姉様も、こんな申し出が有ったとしても、全て断っていたのよ。 私が、第5夫人の子供の私の頼みが通ってしまったら、これが通ってしまったら、お母様から、どれだけ叱られてしまうか。 絶対に他の夫人達への配慮があるから、きっと、お母様からお叱りを受けてしまうわ)
イルーミクは、困った表情をしていると、ふと、隣に居るフィルランカが目に入った。
(……。 フィルランカ……。 うん、そうだわ、フィルランカよね)
イルーミクは、フィルランカを、ジーッと見ていた。
その視線に、フィルランカも気が付いたので、イルーミクを見る。
すると、イルーミクは、ニターッと笑い出した。
「フィルランカ」
イルーミクは、一言、名前を呼ぶと、今度は、フィルランカが、ビクリとした。
「あのー、イルーミクさん。 私が、何か?」
流石に、イルーミクの変な笑顔を見て、自分の名前を呼ばれると、何やら、嫌な予感しかしなかったようだ。
「モカリナ。 あなた、リズディアお姉様に会えるわよ」
イルーミクは、フィルランカの顔を見つつ、モカリナに話しかけた。
さっき、モカリナは、約束をしてもらったので、何だという顔で、抱きついていたイルーミクから、少し離れる。
そして、イルーミクを見るのだが、そのイルーミクは、フィルランカの顔をジーッと見つめていた。
フィルランカには、イルーミクの様子が、少し怖くなったらしく、一歩後ろに下がった。
「モカリナ。 リズディアお姉様が、第一皇子のツ・リンケン・クンエイ殿下と一緒に、奨学金制度を作ったのは知っているわね」
「ええ」
「リズディアお姉様は、学力があっても、経済的な理由で、学校に通えない女子を中心に、奨学金を与えるようにしているのよ」
「そうよね」
イルーミクは、モカリナと話をしているのだが、その間もフィルランカから、目を離さない。
「リズディアお姉様は、低い身分でも、頑張ろうとしている女子を応援するのが好きなのよ」
「そうよね。 奨学金制度を実施するにあたり、リズディア様の宣言書の話は、とても感動したわ。 この人が帝国の女子に未来を与えてくださる人だと思いましたもの」
モカリナの答えにイルーミクは、満足した表情を浮かべるのだが、それでも、視線は、フィルランカから離す事は無い。
「ねえ、孤児だった娘が、引き取られた家から、学校に通わされている話を、リズディアお姉様が聞いたら、どう思うかしら」
「それは、きっと、リズディア様も喜ぶはずよ。 恵まれない女子に陽の目を見させたいと言って、……」
モカリナが、そこまで言うと、イルーミクを見て、その視線の方向に目を向けると、そこには、フィルランカがいる。
モカリナもフィルランカを見ると、イルーミク同様に、ニターッと笑いを浮かべた。
「そうよね。 フィルランカが居るのよね」
「そうでしょ。 フィルランカなのよ」
2人の言葉の中にフィルランカと出てきたので、フィルランカは、怖いと思ったようだ。
「そうね。 リズディア様は、きっと、興味を示すと思いますわ」
「そうでしょ」
イルーミクは、リズディアにモカリナを会わせるための道具としてのフィルランカの生い立ちがとても有効だと気がつき、モカリナも、イルーミクの思惑に気がついたようだ。
兄嫁であるリズディアではあるが、元皇族である。
そんな人に、自分の知人だからといって、簡単に会わせる訳にはいかないのだ。
しかし、フィルランカの事をネタにしたら、リズディアも会って話をしてみたいと思う可能性があるだろうと、2人は考えたのだ。
そんな中、フィルランカだけが、2人の表情が怖いと思って見ていた。




