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モカリナの百面相(?)


 フィルランカは、リズディアの作ったドレスを見て、一喜一憂していたのだが、モカリナは、リズディアのドレスを正面に据えて見ているだけだった。


 一心不乱に、ただ、そのドレスを見る。


 首元の辺りから、視線を徐々に下げ、胸元、ウエスト、腰回り、そして、ドレスの裾を見る。


 下までいくと、今度は、下からゆっくりと視線を上げていく。


 ただ見ているだけなのだが、それを何度も繰り返している。


(あー、これが、リズディア様の作ったドレスなの。 高等学校時代ということは、リズディア様は、今、34歳だから、16年前、……。 卒業の歳に作ったのなら、そうかも、……。 リズディア様って、とても、頭が良かった人だわ。 いつ頃から、常に首席を取っていたと聞いた事があるわ。 じゃあ、リズディア様も、ここの学校は、飛び級で卒業している可能性があるのね)


 モカリナは、視線は、リズディアのドレスに釘付けになり、ひたすら、見ているのだが、表情は、常に変わっていた。


(そうよ、そうよね。 リズディア様なら、飛び級で卒業しているはずなら、17・8年前なののよね。 ……。 あら、それって、私の今の年齢よね。 ……。 えーっ! 私と同じ歳の時には、学年首席で、なおかつ、こんなドレスを作ってしまっていたの? えっ! えっ! えっ!)


 モカリナは、険しい表情をし始めていた。


(私は、学年9位で入学して、進級の時に、やっと、5位になったのよ。 それだって、フィルランカに教えてもらったり、家庭教師に教えてもらったりと、必死になって勉強しているのよ。 でも、リズディア様は、首席だったのよ。 首席であって、さらに、こんなドレスまで作ってしまったというの? リズディア様って、どれだけ天才なのよ)


 今度は、驚いたような表情をしていた。


(そういえば、リズディア様って、身分の低い夫人の子供の家庭教師をしていたと聞いたことがあるわ。 ……。 そうよ。 たしか、ツ・リンウイ・イヨリオン殿下だったはず。 イヨリオン殿下のお母様は、身分の低い宮廷に仕えていた女性だったはず、その女性をお手付きにしてしまった子供が、ツ・リンウイ・イヨリオン殿下だったはずよね)


 モカリナは、考え込んだような表情をする。


(そうよ。 そのイヨリオン殿下の家庭教師もしていたのよ。 そのイヨリオン殿下は、皇位継承権は、返上されているけど、リズディア様に、勉強を教えてもらった事で、一気に学力を伸ばして、今では、帝国大学で教鞭を握っているはずだわ。 リズディア様が、一言、イヨリオン殿下を、そこまで成績を伸ばしたのよ。 そうよ、それまでは、落第スレスレだったイヨリオン殿下だったはずなのに、あっという間にリズディア様が、成績を伸ばしたと聞いたわ。 さすが、皇族一の才女と言われたリズディア様)


 今度は、顔を少し赤くしていた。


(ああーっ。 リズディア様が、私のお姉様だったら、きっと、私もリズディア様の元で、成績を伸ばせたのかもしれないわ。 とてもお綺麗で、頭も良い。 それだけではなくて、こんなドレスまで作ってしまうなんて、リズディア様の能力は、本当に底が見えない程なのね。 ああーっ、何と、尊い人なのかしら)


 そして、顔も綻んでいた。


(でも、国政からは離れてしまったのだけど、イスカミューレン商会でも、お仕事をされているのよね。 今までの行政局でのお仕事をされていたのだから、私も帝国大学を卒業して、行政局へということも考えたけど、あそこは、貴族位を継ぐ子息以外は、狭き門だったから、リズディア様と一緒に仕事が出来るとは思えなかったので、諦めていたけど、イスカミューレン商会で、仕事をなされているのなら、私にもお近づきになれるチャンスはあるわ)


 モカリナの表情が希望に満ちた顔になる。


(そうなのよ。 イスカミューレン商会の、今の当主である、スツ・メンヲン・イスカミューレン様は、爵位の無い貴族なのよ。 そうなると、爵位のある貴族の就職先としては、敬遠されるわ。 自分の子供を、爵位の無い貴族の家に就職させるなんて貴族は、どこにも居ないわ。 身分の違いから、爵位持ちの貴族の就職先から、排除されているのよ)


 すると、モカリナは、ニヤニヤし始めた。


(私は、侯爵家と言えど、四女なのよ。 お父様は、嫁ぎ先とかの話もくれませんし、四女ともなったら、爵位持ちの家に嫁げるとは思えないのよ。 だから、私は、このまま、帝国大学に進んで、卒業後に、お父様と身の振り方を相談して、イスカミューレン商会に入れてもらうのよ。 私を使って侯爵家と血縁関係を結んだとしても、四女では魅力が無いわ。 相手は、ただ、侯爵家から嫁をもらっただけとなる。 ただ、それだけだと、私を使って婚姻関係を結ぶメリットが無いのよ)


 その表情は、ニヤニヤではなく、少し目が座り出していた。


(私に婚姻関係のメリットを見出せないのなら、貴族からしたら、無意味な女なのよ。 そうなったら、お父様も、きっと、私の希望通りにイスカミューレン商会に就職する事を許してくれるわ。 そうよ。 その時、お父様に口添えしてもらって、上手くしたら、リズディア様の下で働かせてもらえるかもしれないのよ。 そうなったら、私は、毎日、リズディア様を愛でていられるのよ)


 その顔は、恋する乙女の表情に変わった。


(あー、リズディア様。 リズディア様が、旦那様を持ったとしても、子供を持たれたとしても、あの麗しいお姿を愛でられるなら、私は、……、私は)


「ねえ、リズディア?」


 リズディアは、後ろから、フィルランカの声を聞いた。


 その瞬間、ビクリとして、背筋を伸ばした。


 リズディアは、自分が今まで考えていたことを振り返ると、恥ずかしさが込み上げてきた。


 そして、顔を赤くすると、両手で頬を覆うようにして、声の方向に顔を向ける。


 そこには、不思議そうな表情をしたフィルランカと、イルーミクが、モカリナを見ていた。


 モカリナは、2人と視線を合わせると、今度は、ドレスの方を向くのだが、ドレスではなく、その足元を恥ずかしそうにして見ていた。


「どうしたの?」


「モカリナの表情、色々と変わっていたわよ」


 不思議そうに、フィルランカと、イルーミクが、声をかけたことで、モカリナは、自分の表情を見られてしまったと思い、恥ずかしそうに、顔を手で覆うと、その場にしゃがみ込んでしまった。


「み、み、みりゅにゃーっ!」


 ただ、一言だけ、モカリナは、言った。


 フィルランカとイルーミクは、お互いの顔を見て、モカリナが、ドレスを見て百面相をした理由が、全くわからずにいた。


 ただ、2人は、これ以上モカリナに話しかけたらと思うと不安になった様子で、徐々に、モカリナから離れるように後ずさっていた。




 窓際にまで、2人は、たどり着くと、お互いにモカリナに話しかけるように、表情とジェスチャーをするのだが、その都度、嫌だと断っていた。


 そんな2人が、静かにしていると、モカリナは、突然立ち上がる。


「はーっ。 あー、リズディア様、やっぱり、尊いわ。 ドレスを見ただけでも、尊すぎよ」


 モカリナは、ドレスから、リズディアを褒め称えた。


 そうすることで、自分の事を無かったことにしようとしたのだ。


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