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フィルランカを宥めるイルーミク


 イルーミクは、モカリナとフィルランカを、招いて、準備室の扉を開けると、そちらに、以前見たドレスが、マネキンに着せられていた。


「どうぞ、あれが、リズディアお姉様が、学生時代に作ったドレスよ」


 モカリナは、目を輝かせて、そのドレスを見ているが、フィルランカは、真剣な目でドレスを見ていた。


(私にも、エルメアーナのようにヒントを得る事ができるのかしら)


 フィランカは、以前、モカリナの家の中庭を見たエルメアーナが、それを見て剣のヒントなのか、アイデアなのかを得ていたので、自分にも何かあるのかと思っていた。


「すみません。 近くで、見てもよろしいですか?」


「ええ、構いませんけど、素手で触るのは、ご遠慮ください」


 フィルランカの申し出にイルーミクが答えると、フィルランカは、ドレスの周りに行くと、グルグルと回りつつ、上から下まで確認していくが、モカリナは、正面に立つと、その姿を上から下まで、見つめていた。


 フィルランカは、真剣に見ていたのだが、しばらくすると、ドレスを見るのをやめてしまった。


 そして、ガッカリした様子で、イルーミクの方に歩いてきた。


「フィルランカ、ドレスは、もういいの?」


 聞かれると、フィルランカは、ため息を吐いた。


「ダメだわ。 私には、料理のイメージが思い浮かばないわ。 エルメアーナが、モカリナの家の中庭を見て、剣のことについて、何か浮かんだみたいだけど、私には、何も浮かばなかったわ。 やっぱり、私には、全く違うものを見ても、そこからイメージを浮かべることはできないみたいだわ」


 それを聞いて、イルーミクは、何と応えて良いのかと思い、モカリナの方をみるが、モカリナは、一心不乱にドレスを見ているので、フィルランカに何かを言ってくれそうもなかった。


 ここは、ガッカリしているフィルランカに、自分が何かを言う必要があるのだと思ったようだが、どのような言葉をかけたら良いのか悩んだ様子になっていた。


「私は、美しいものを見ても、料理に結びつけることはできないみたいだわ。 私には、才能が無いのね」


 フィルランカは、独り言を言うが、イルーミクは、ハッキリ聞いてしまった。


「あのー、フィルランカ。 全く違うモノを見て、それを参考にするって、とても大変なことなのよ」


「そうですね。 でも、エルメアーナは、モカリナの家の中庭を見ただけで、剣に対する、新たなイメージを発見できていたのよ」


 フィルランカが、ガッカリしている。


「ねえ、その人は、モカリナの家の中庭を見て、剣のイメージをしてしまったのなら、その人は、天才では無いかしら。 そんな人と自分を同列に置いたら、やりきれないと思うわよ。 このドレスだって、私達には、同じモノを作ることだって難しいのよ」


「でも、うちのエルメアーナは、それが出来たのよ」


「あー、稀に居るのよ。 そういう人が、世の中には。 その人達と自分を同列に置くのは、やめた方がいいわ。 落ち込むだけよ」


 イルーミクは、仕方なさそうに、同じことを続けて言うしか無かった。


「そういうモノなのでしょうか」


「そうなのよ。 極めるというのは、それに、どれだけの時間を費やしたかなのよ。 あなたの家のエルメアーナが、どんな人なのかは分からないけど、あまり、気にしない方がいいと思うわ。 それに、あなたも、もう少し経験を積んだら、その域に達すると思うわ。 同じ家に、そんな天才的な人が居るなら、その人の見るものや考えるものを観察して、見ている部分を確認していったら、フィルランカも同じように考えられるようになると思うわ。 それも、ただ、漠然と見ているものを確認するのではなく、どの部分を確認するかを気にするのよ」


「そうね。 そうよね。 でも、エルメアーナが、同じ歳なのに、私には無いのかと思ってしまうのよね」


 イルーミクは、それを聞いて驚いた様子をする。


(えっ! 何? フィルランカとって、私達と年齢も、そんなに変わらないというの? そんな若さで、庭を見て、自分の仕事に結びつけるなんて、その人は、天才どころの話じゃないでしょ。 数千年に1人とか、神のような存在よ)


 イルーミクは、顔を引き攣らせていた。


「フィルランカは、良い人と住んでいるのね。 きっと、普通の人より、良い環境に居るわ。 きっと、その足りないと思う気持ちが、きっと、あなたを、そのエルメアーナという人と同じように、綺麗なもの、素敵なものを見たら、ヒントを得られるようになるわ」


 イルーミクは、信じられないと言った様子で答えた。


「そんなものなのでしょうか?」


 そんなイルーミクの事など関係ない様子で、フィルランカは、ガッカリした様子で、ボソリと言った。


「ええ、私からしたら、あなたの家の環境は、とても才能を伸ばすためには、良い環境だと思えるわ。 ……。 フィルランカ、あなたは、一緒に住んでいるエルメアーナを大事にして、よく見ることね。 きっと、これからのあなたの役に立つ人だと思うわ」


 そのイルーミクの話を聞いて、フィルランカは、考えるような表情を浮かべる。


「そうなのですね。 私は、とても良い環境に住んでいるのですね。 私は、もっと、エルメアーナの事を知るところから始めればいいのですね。 私は、エルメアーナの事をもっと知ることで、私にも新たな境地に建てる見込みがあるという事なのですね」


 フィルランカの様子が変わったことでイルーミクは、ホッとした様子になる。


「そうよ。 私達のような凡人には、天才のような行動はできないわ。 だから、そこから学ぶのよ。 天才的な才能でも、それが、万民が使えるようになったら、天才は天才ではなくなるわ。 天才は、一般的に教えることが苦手なのよ。 でも、その周りに居る万民は、それを羨ましく思い、天才の天才たる所以を見つけるものよ。 天才を見た、その周りの凡人が、天才に近づくための道を切り拓いてくれるわ。 フィルランカもきっと、できると思うわよ」


「ありがとうございます。 何だか、希望が持てました。 これからは、もっと、エルメアーナの様子を見る事が必要なのですね」


 イルーミクは、フィルランカの笑顔を見るのだが、イルーミクは、その笑顔を見て寒気を覚えたようだ。


(私、何だか、とんでもない事を伝えてしまったのではないのかしら? フィルランカは、一つ下だけど、学年次席よ。 今の、私の話から、何かを得たようね。 でも、本当に、末恐ろしい子ね。 ……)


 イルーミクは、モカリナを見ると、そこには、まだ、ドレスを見入っていた。


(モカリナは、このフィルランカの能力を見抜いていたのかしら。 侯爵家の四女と言っても、貴族は貴族よね。 それなのに、ただの帝国臣民? ……。 1年前にあった、皇帝陛下の落とし子って、……。 それは無いわ。 皇帝陛下の親友のお父様から、その噂は、否定されているのだから、絶対に無い話よね。 ……。 ああ、モカリナは、このフィルランカの才能を見出したみたいね)


 イルーミクは、フッと息を吐くと、吹っ切れたような表情をする。


「フィルランカは、まだまだ、これからなのよ」


 イルーミクは、ホッとした様子でフィルランカに笑顔を向けた。


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