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上級生のクラス


 フィルランカとモカリナの学校生活は、今学年で、全部の単位を取るため、1学年の時に、優位になる単位から順番に取るようにしていた。


 それは、モカリナのアドバイスによって、1学年の時にモカリナの兄や姉の経験から、取得する単位について、優先順位を付けていた事で、2学年の時に時間割がダブらないようにしていた事が大きい。


 下手に取得したとすると、時間が余ってしまったり、重なってしまう事もあるので、2年で全ての単位を取得できず、足りない数単位だけ取得するために、来年度になってから、週に数日だけ学校に通う事になる。


 基本、2学年の単位は、3学年の補修授業を使うことで、取得するようにしたのだ。


 結果として、フィルランカとモカリナは、通常授業は、3学年の授業に入って、その授業が終わった後に、2学年の補修授業に入っている。


 結果として、同じ年に入学した同学年と教室が一緒になる事は、ほとんど無かった。


 フィルランカたちのクラスは、秀才が多いので、数名は、上級生のクラスで一緒になることもある。


 ただ、フィルランカについて、入学当時の噂が、真相が定かではないため、フィルランカとモカリナには、他の生徒達は、一線を敷いて付き合う程度だった。


 通常授業においては、フィルランカとモカリナは、上級生達と一緒に授業を受けるので、肩身の狭い思いをしていた。


 上級生の教室の隅で、ひっそりと、席に座っていると、そんな2人に声をかけてきた女子生徒がいた。


「あら、あなた達、2年生だったのではないの?」


 それは、先日、ドレスについて話をしてくれた女子生徒だった。


 フィルランカ達には、今まで、同級生達は、分からなかった事を聞く程度だった。


まして、このクラスは、上級生のクラスなので、2人は、今まで、別の授業でも、話しかけられることが無かったので、意外に思ったようだ。


そのため、直ぐに、答えられずに、その女児生徒の顔を見ていただけだった。


「ひょっとして、飛び級を狙っているの?」


 その女子生徒は、興味深そうに聞いてきてきた。


 2人が黙って聞いているので、その女子生徒は、自分が名乗っていなかった事を思い出したようだ。


「あ、ごめんなさい。 私は、スツ・メンレン・イルーミク。 イルーミクと呼んでください」


 そう言われて、モカリナの表情が変わると、立ち上がる。


「失礼しました。 私は、ナキツ・リルシェミ・モカリナと申します」


 そう言って、スカートを摘んで、貴族の令嬢がするお辞儀をした。


 その名前を聞いて、イルーミクも聞き覚えが有ったようだ。


「ナキツ侯爵家の方でしたか、大変、失礼しました。 私の家は、爵位が無い貴族の家です。 目下の者のする挨拶ではありませんでした。 お詫び申し上げます」


 フィルランカは、2人の挨拶に少し驚いているが、自分も慌てて、立ち上がると、挨拶をする。


「失礼しました、イルーミク様。 私は、フィルランカと言います。 鍛冶屋のカラン・レンリン・カインクムの家の者でございます」


 この3人の中で、フィルランカ以外が、貴族なので、少し困った様子をしつつ、挨拶をした。


「ああ、あなたが、フィルランカさんだったのね。 お噂は、色々、聞いてます。 私は、貴族と言っても、家には、爵位もありませんから、お気になさらずにしてください。 それに、私は、第5夫人の子供でしかも、兄弟姉妹の中では、一番の末っ子ですから、家が貴族というだけで、成人後は、貴族には残れないわ。 だから、何処かの貴族位を継ぐ御曹司にでも、見そめられない限りは、貴族には残れませんのよ」


 そう言って、フィルランカに笑顔を向けた。


(あら、モカリナも同じような事を言ってたわね。 貴族の子供でも、大変なのね)


 フィルランカは、イルーミクの話を聞いて、何と答えてよいのか困ったようだが、笑顔を向けるだけにした。


 ただ、モカリナは、真剣な表情をしていた。


「あのー、イルーミク様」


「モカリナ様、私の家は、爵位もありませんから、呼び捨てで構いませんわ」


「でしたら、私も、侯爵家とはいえ、四女ですから、成人後は、家を出ることになるので、私の事も呼び捨てで構いませんわ」


 2人はお互いに思惑があるようだ。


 イルーミクとしたら、侯爵家の人と親密な関係になっていた方が良いと思ったのだろうが、モカリナには、別の思惑があったようだ。


 そんな2人の貴族としてのやり取りを、微妙な様子でフィルランカが黙って見ていた。


「それでは、イルーミク。 あなたは、イスカミューレン商会の方ですか?」


「はい、父も兄もイスカミューレン商会の者です」


 それを聞いて、モカリナの表情が変わった。


「では、お兄様は、イルルミューラン様ですよね」


「え、ええ」


 イルーミクが肯定すると、モカリナの表情が変わる。


その変わりように、イルーミクは、少し驚いたようだ。


「でしたら、リズディア様とお兄様の結婚式は、いかがだったのですか? とても、素敵な結婚式だったのではなかったのではないですか? ああー、リズディア様の晴れ姿を一眼見たかったのですけど、私には叶わなかったので、少しでいいので、教えていただけないでしょうか?」


 モカリナは、目を潤ませて、イルーミクに聞いてきたので、その勢いに、少し引き気味になる。


「どんな、様子だったのでしょうか?」


 モカリナは、詰め寄ると、イルーミクは、困った様子になる。


「あ、ああー。 あのー」


 モカリナは、うんうんと頷くと、次の言葉を待っていた。


「すみません、モカリナ様」


「いえ、モカリナと、呼んでください」


 イルーミクは、モカリナの様子に戸惑いを覚えていた。


「ああ、ごめんなさい。 モカリナ。 私は、イルルミューラン兄様とは、腹違いの子供なのです。 歳も13歳も離れてますから、それほど、面識は無かったのです。 仲が悪いわけではありませんが、父上も、皇帝陛下と同様に好色家ですので、奥様の他に、私の母以外に4人の奥様が居ます。 私は、一番最後の第5夫人の子供ですので、どちらかというと、肩身の狭い方なのですよ。 それにリズディアお姉様は、第1皇女殿下でしたから、無闇にお話ができずにいるんです」


「でも、結婚式には出席なさったのではないですか?」


「私は、スツ家の披露宴に出ただけです。 皇室での披露宴には出席しませんでしたから、その時は、普通のドレスでのお食事だけでしたわ」


「そうだったのですか」


 モカリナは、少し残念そうにしている。


「でも、お姉様は、家に来たら、直ぐにお店の方で、お仕事を手伝っていますわ。 さすがは、才女と言われた人ですから、店の者達の話では、直ぐに仕事を覚えて、兄様を助けていると聞きました」


「リズディア様は、イスカミューレン商会のお仕事をされているのですね」


 モカリナは、イルーミクの手を取ると、リズディアの話を聞きたそうに、イルーミクの目を見ていた。


「あ、あの」


 イルーミクは、戸惑った。


「モカリナ」


 そう言うと、モカリナに握られた手を見る。


「希望が出てきました。 もう、リズディア様と一緒にお仕事をすることはできないと思いましたけど、イスカミューレン商会に入ったら、私も、リズディア様と一緒に働けるかもしれないのですね」


「え、ええ。 まあ、そうです、ね」


 その答えを聞いて、モカリナは、目を潤ませる。


「リズディア様。 ああ、これは運命ですわ。 私にリズディア様との縁を結ぶために、私は、イルーミクと出会えたのですね。 ああー、こんな事があるとは思いませんでした」


 イルーミクは、困った様子で、モカリナを見るが、これは、絶対に逃げ出せないと思ったのだろう、どうしようかと、フィルランカを見た。


 ただ、フィルランカとしても、この2人の中に入れそうもないと思ったようなので、何も言えず、ただ、引き攣ったような笑顔を向けるだけだった。


 困っていると、教壇側の扉から教師が入ってきた。


「すみません。 私も、席につきますので、お話は、授業の後に行いましょう」


 そう言って、イルーミクは、2人から離れて、別の席に行って座り、授業の準備を始めていた。


 フィルランカは、隣のモカリナを見ると、ニヤニヤとしつつ、授業を受ける準備をしていた。


 フィルランカには、2人のやり取りに、ほとんど入ることができなかった。


(でも、リズディア様といったら、私にとっては、高貴な方なので、お目にかかることなんて無いでしょうから、今日は、授業が終わったら、モカリナに捕まる事もなく帰れるのかな)


 フィルランカは、一瞬、物思いに耽ったかと思うと、直ぐに、授業に集中し始めた。


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