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食堂


 エルメアーナの話がひと段落すると、モナリムのところに1人のメイドが現れて、何やら耳打ちをして戻っていった。


「モカリナ様、お食事の準備が整ったようです。 来賓用の部屋に用意しております」


「そう、食事は、私たちだけで行えますか」


「はい、そのようになっております」


 モカリナは、フィルランカとエルメアーナを食事に呼んだのだが、家族の誰も、帝国臣民であるモカリナの友人には、興味を示さなかったのだ。


 侯爵家となれば、皇族の血縁以外の貴族の中では最高位となり、そして、モカリナの家も、それなりの名家となるので、四女の友人の帝国臣民となれば、食事に同席することはない。


 モカリナとしても、フィルランカやエルメアーナに、最初から自分の家の式たりとかにとらわれた堅苦しい食事より、2人と親睦を深めるため、食事も、ざっくばらんに食べたかったので、その話を聞いてホッとしている。


「フィルランカ、エルメアーナ。 昼食にしましょう」


 そう言うと、モカリナは、立ち上がる。


 フィルランカも、モカリナに倣って、立ち上がるのだが、1人、エルメアーナだけが、不思議そうな顔をして、2人を見ていた。


「ん? なんで、2人は立つのだ?」


「これから、昼食を取るので、食堂に行きます」


「おお、そうだったのか。 こんなに広い家だと、食堂が別にあるのか」


 エルメアーナは、感心すると立ち上がった。


 ただ、フィルランカは、恥ずかしそうにしている。


「ごめんね、モカリナ。 後で、きちんと説明しておきます」


 モカリナとしても、エルメアーナの発言には少し驚いたようだが、調べてもらったエルメアーナの事を考えると、仕方のないことだと思ったようだ。


「いいのよ。 今日は、3人で食事を楽しもうと思っただけだから、何も気にせず、いつも通りで構わないわ」


 3人は、モカリナに続いて、部屋を出た。




 モナリムが、モカリナを先導する。


 部屋の扉を開くと、モカリナが、ムッとしたような表情をする。


「こちらでございます」


中に入ると、食堂とは言い難い場所だった。


そこは、とても広く、部屋の端の方にテーブルが用意されていた。


「ごめんなさいね。 ここは、晩餐会に使う部屋なの。 他の部屋は、家のものが使っているみたいなのよ」


「ええ、別に構わないわ」


「おおー、こんな広い部屋に入るのは、学校の講堂依頼だ。 すごいな、モカリナの家は!」


 エルメアーナは、部屋の大きさに感動した様子で、周りを見渡している。


「壁や柱の装飾も、それに、天井の装飾も絵もすごいぞ。 これが貴族の家なのか。 この装飾とかのデザインは、参考になるな。 今度、剣の鞘とか、鍔、柄尻とかの装飾に使えそうだ。 全く同じだと、まずいかもしれないけど、この部分的なところを真似てみたいぞ」


 エルメアーナは、大喜びで周囲を確認するように眺めていた。


「あ、ああ、フィルランカ」


「ごめん、モカリナ。 さっきもだけど、エルメアーナは、どうも、ああいったものが好きなのよ」


 モカリナも、自分の部屋での事を思い出して、仕方なさそうな顔をする。


「そうよね。 中庭にあれだけの反応をしたのなら、ここは、それ以上かもしれないわね。 舞踏会用の部屋だから、皇族の方も迎えることを考えているから、かなり凝った造りになっているのよ。 まあ、他の貴族への見栄もあるからね」


 モカリナは、そんなエルメアーナの様子を見て、先程の事がイメージとして残っていたのか、少しがっかりしたような表情で答えた。


 エルメアーナは、壁をつたうようにして歩き回っていた。


 そして、エルメアーナは、上から下まで、全てを目に焼き付けるように、時には、遠くから見て、そして、近付いて細かく確認するようにするなど、興味津々で部屋の中を見ている。


 そんなエルメアーナにフィルランカが近づいていくと、エルメアーナの手をとる。


「エルメアーナ、もう、そろそろ、その辺で終わらせない?」


「あああ、フィルランカ、この部屋もとても繊細だ。 遠くから見てもすごいけど、近くで見ると、とても細かな細工が施されていたんだ。 ほら、ここなんか、小さな溝が何本も彫られているだろ、それが、遠くから見ると、隣の溝の無い場所と、遠くから見ると、微妙に見え方が違うんだ。 この細工は剣にも防具にも使えそうな技術だと思わないか」


 エルメアーナは、壁の細工を嬉しそうにフィルランカに説明をする。


「もう、それよりも、食事なのよ。 あなたが、そうやって、席に着かなかったら、モカリナにもモカリナの家の人にも失礼でしょ」


 そう言って、エルメアーナを引っ張っていくので、エルメアーナは、少し名残惜しそうに、今、見ていた場所を見ている。


「ねえ、壁なら、食事の後でも確認できるでしょ。 こんな場所で食べさせてもらえるのだから、そっちも、期待できると思わない? 私が作る料理よりも美味しいと思わない?」


 エルメアーナは、名残惜しそうな表情から、ガラリと変わると、今度は、テーブルに行こうとするので、引っ張っていたフィルランカは、前につんのめりそうになるのを、慌てて立て直すと、今度は、エルメアーナに引っ張られるようになった。


「さあ、フィルランカ。 食事にしよう」


 エルメアーナの変わりようにフィルランカは、ヤレヤレ、またかと、思ったようだが、モカリナには、そのエルメアーナの変わりように、少し驚いたような様子で見ていた。


「モカリナ様、こんな、素敵な部屋で食事をさせてもらえるとは、とても光栄です。 食事の後に、また、鑑賞させてください」


「あ、ええ、そうですね。 ああ、それと、私達だけの時なら、様は、よして、モカリナで構わないわ」


「ありがとう、モカリナ。 私も、今まで、父とフィルランカ以外と、話をしたことが無かったので、その方がありがたい」


 その、エルメアーナの返事にフィルランカは、少し困ったような表情をするが、モカリナは、なるようになった様子で2人を見る。


「さあ、座りましょう」


 そう言って、テーブルに2人を招くと、モカリナもテーブルに座る。


 それを合図のように、扉が開いて、モナリムと数人が、ワゴンを押して、3人のテーブルに来るのだった。


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