着替えた2人を見たカインクムの反応
一方、エルメアーナと、フィルランカは、カインクムのいる店の方に歩いて行く。
エルメアーナは、ワクワクしながら、フィルランカを引っ張っていくのだが、フィルランカは、恥ずかしそうに、顔を赤くして、少しうつむき加減で、フィルランカに引っ張らられていた。
店の扉を、エルメアーナが、力一杯開ける。
「父! フィルランカの服も可愛いが、私の服も可愛いだろう。 それに、こんな踵の高い靴を履いたのは初めてだが、どうだ? 私は、美人になったと言われたぞ。 父、どうだ」
エルメアーナは、支離滅裂でカインクムに話しかけた。
カインクムは、扉が開くと同時に、エルメアーナが捲し立てるように喋りだしたので、呆気に取られていた。
「なんだ、エルメアーナ。 馬子にも衣装だな。 可愛くなったじゃないか?」
エルメアーナは、不思議そうな顔をする。
「孫? 私は、父の娘だから、孫じゃないぞ。 ……。 まさか、実は、私は、父の娘ではなく、孫だったのか?」
エルメアーナの顔が、徐々に青くなっていく。
「違う、違う。 エルメアーナは、俺の子供だ。 だから、孫じゃない」
それを聞いて、エルメアーナの表情が、戻ってくる。
「そうなのか? 父」
「当たり前だ。 お前は、16歳で、俺は、40歳だ。 どうやったら、40歳の俺に16歳の孫がいると思えるんだ! 全く、世間知らずにも程があるぞ」
それを聞いていた、フィルランカも、今まで、恥ずかしそうにしていたが、落ちついたようだ。
2人の会話を聞いて、笑っていた。
「フィルランカ。 何がおかしいんだ?」
「だって、エルメアーナったら、孫と馬子を間違えるんだもん。 それに、カインクムさんと二人暮らしだったのだから、少し考えれば、孫娘だなんて思わないでしょ」
フィルランカに言われて、エルメアーナも納得したような表情をした。
「そうだな。 私が、孫なんてことはありえないのか」
「そうよ」
そう言われて、エルメアーナは、考え出す。
「フィルランカ、その、馬子にも衣装って、どういう意味なんだ?」
聞かれて、フィルランカは、困った表情をした。
フィルランカは、その意味をそのまま伝えてエルメアーナが、カインクムにくってかかる可能性があると思ったのだ。
店の中で、エルメアーナが暴れたらと思うと、その意味をそのまま伝えてはまずいと思ったようだ。
「うーん、意味ね。 意味は、……。 そう、いつも作業着を着て、仕事ばかりしている人でも、着るものを変えれば、ちゃんと綺麗に見えるってことよ。 エルメアーナは、いつも鍛冶場で、金槌を振るっているけど、ミルミヨルさんの服を着たら、とても綺麗になったでしょ。 そんな事を言っているのよ」
「そうなのか」
エルメアーナは、少し引っかかるような表情で、フィルランカの話を聞いていた。
「なあ、まごとは、どういう意味なんだ」
それを聞いて、フィルランカは、笑顔が固まってしまった。
(どうしよう。 それを説明してもいいのかしら。 カインクムさんたら、なんで、あんな表現をするのよ)
そんなフィルランカ達を見ていたカインクムは、これ以上、フィルランカに自分のフォローをさせるわけにいかないと思ったようだ。
「エルメアーナ。 とても綺麗になったよ。 いつもは、工房で作業をしているか、リビングで食事をしているかだったのだから、そんな綺麗な服を着てなかったじゃないか。 だから、見違えたよ。 自分の娘が、こんなに綺麗だったとは思わなかったよ」
カインクムの言葉を聞いて、エルメアーナは、舞い上がってしまったようだ。
先程の、カンクヲンといい、男性から綺麗と表現されたことが今まで無かったエルメアーナには、衝撃となって、頭の中で響き回っているようだ。
「うふふ。 キレイ。 美人。 へへ」
エルメアーナは、ニヤニヤとしながら、頬に手を当てて、体をモジモジさせ始めた。
それを見て、カインクムは、馬子について、忘れてくれたと思い、ホッとしたようだ。
「フィルランカ。 それが、ミルミヨルさんが、用意してくれた、学校に着ていく服か?」
「はい。 そうです」
「うん。 とてもいい。 とても素敵だ」
その一言が、フィルランカの心に刺さったようだ。
(ヤッタァー。 カインクムさんに、褒められた。 きゃーっ!)
フィルランカも、カインクムの一言で、顔を赤くした。
(カインクムさんは、私の事を思ってくれていた)
なんだか、カインクムは、自分の目の前にいる2人の娘が、とても可愛いと思った様子で、笑顔を2人に向ける。
「これで、フィルランカも高等学校に行ったら、どこかの貴族とはい言わないが、商人の息子から、求婚されるかもしれないな」
カインクムは、フィルランカの将来を考えたら、学校に通う商人の息子のような家に、玉の輿に入れるかと思ったようだ。
だが、その一言を聞いたフィルランカは、一気に表情を変える。
ジロリと、カインクムを睨むのだった。
カインクムとしたら、フィルランカの将来を考えての発言だったのだが、フィルランカには、とんでもない話だったのだ。
しかも、自分の思っている人に言われると、頭に血が上ったようだ。
「私は、求婚されるために進学したんじゃありません。 勉強するために高等学校に通うんです。 だから、そんな、うわついた気持ちではありません」
カインクムは、フィルランカの代わりように驚いた。
「あ、ああ、そうだな。 学校は、勉強するところだな」
カインクムは、驚いて、そう答えるしかできなかった。
カインクムには、フィルランカの心の内が、理解できなかった。
だが、この場の雰囲気を直す言葉は、知っている。
「でも、2人とも、とても美人で素敵な淑女になった。 本当にかわいいよ。 私は、こんなかわいい娘を持って幸せだ」
それを聞いて、フィルランカの気持ちも落ち着いたようだ。
怒った表情は消えて、カインクムの言葉を嬉しそうに聞いていた。




