フィルランカの思い
紺の服を着たフィルランカは、エルメアーナより少し高さのある靴を履いていることもあり、同じデザインのエンジ色の服を着たエルメアーナと並ばせると、フィルランカの方が、少しお姉さんのように見えた。
そんな印象を、ミルミヨルとカンクヲンは、お互いに思ったようだが、その思いは口にすることはない。
特に、この世代の見た目に関する年齢については、人それぞれ、高い方が良かったり、低い方が良かったりと、まちまちなのだ。
2人が、30歳を過ぎたなら、若く見えるように言ったのだが、多感な年頃の年齢ということもあって、年齢的な話を、ミルミヨルもカンクヲンも一切しないのだ。
「なあ、2人とも、着替えも終わって、靴も履いたのなら、店にいるカインクムさんに、その姿を見せてあげたらどうだ? フィルランカちゃんは、今まで、ミルミヨルに着せ替え人形のようにされていたけど、エルメアーナちゃんも、フィルランカちゃんと並んで立っても見落としりしない程の美人さんだ。 せっかくだから、カインクムさんに自慢の娘の晴れ姿を見せてあげた方がいいんじゃないか?」
カンクヲンの言葉に、珍しく、エルメアーナの顔が赤くなった。
「私は、美人なのか?」
カンクヲンの美人さんという言葉に、エルメアーナが、反応していた。
エルメアーナとしたら、長年、カインクムの工房に入り浸って、学校にも行かなかったのだ。
周りから、自分の容姿について、言われるようなことは、ほとんど無かったのだ。
今まで、自分にかけられた言葉の中に、自分が美人などという言葉は無かったので、聞き慣れない言葉に、どう答えていいのか分からないでいるようだ。
「ええ、エルメアーナちゃんは、フィルランカちゃんにも負けないくらい、美人よ。 どっちが上とかではなくて、違ったタイプなのよ」
そう言って、ミルミヨルは、少し考える。
「そうよ、フィルランカちゃんは、おっとりとして、お淑やかな感じだけど、エルメアーナちゃんは、元気はつらつって感じ、健康的な美人さんよ。 そんな、違ったタイプの美人が2人で歩いてたり、ベンチに座っていたらと思ったら、とても絵になるわ」
「おお、そうなのか」
同性のミルミヨルに言われて、エルメアーナは、その気になったようだ。
「フィルランカ。 このまま、店に行って、この姿を、父に見せよう。 父に感想を聞かせてもらおう」
エルメアーナは、ワクワクしながら、フィルランカに言うのだが、言われたフィルランカは、顔を赤くして、恥ずかしそうにしている。
「どうした? フィルランカ、顔が赤いぞ」
不思議そうに、エルメアーナが、フィルランカに聞く。
「うん」
フィルランカは、一言だけ答える。
(えっ! これを、カインクムさんに見せるの? なんだか、恥ずかしいわ)
フィルランカは、いつもの服もなのだが、キレイな服を着て、カインクムの反応を聞くのが嬉しいのだが、恥ずかしくもあるのだ。
子供の頃、孤児院との話で、10年後にお嫁さんにしてもらえると約束をもらった相手に、着ている服の評価をされるのが、嬉しくもあるのだが、恥ずかしくもあるのだ。
フィルランカは、エルメアーナに言われて恥ずかしそうにする。
ただ、エルメアーナには、そのフィルランカの女としての反応が、理解できないといった感じで、不思議そうにフィルランカを見るのだが、気にする事なく、次の行動に移る。
エルメアーナは、フィルランカに組んでいた腕をグイと引っ張って、リビングから店の方に行く。
その姿を、ミルミヨルとカンクヲンは、見送ると、お互いの顔を見る。
「面白い組み合わせになったな」
「カンクヲンさんの、靴のおかげよ。 あれで、姉妹としての立ち位置が確立したから、きっと、フィルランカちゃんが、上手く引っ張ってくれると思うわ」
「そうだな」
2人は、少し心配そうに思っていたようだが、フィルランカが上手くエスコートしてくれるだろうと思ったようだ。
特に、ミルミヨルとしたら、学校に着て行く服を、色違いで用意したので、デザインを同じで色を変えるだけで、個性を上手く表現させたつもりなのだ、
「なあ、ミルミヨル。 あの服だけど、紺とエンジの2色だけなのか?」
「ええ、そうよ」
「あのデザインなら、もっと明るい色を用意したらどうなんだ?」
「フィルランカちゃんが、学校に通うためにと思ったから、あの色かなと思ったのよ」
「ああ、フィルランカちゃんになら、あの色がいいと思うが、あのデザインを学生のために使うだけで終わらせるのは、もったいなくないか?」
ミルミヨルは、少し考える様子をする。
「明るい色だったら、20代の女性にも似合うと思うんだがな」
「そうね。 色のバリエーションを用意するのね。 うん」
ミルミヨルは、自分のデザインを頭の中で色々とイメージを始めたようだ。
「面白いわね。 帰ったら、ちょっと考えてみるわ」
そう言うと、持ってきた荷物を片付け始める。
それを見た、カンクヲンも自分の荷物を片付け始めた。




