服を着た2人は、靴を履く
カンクヲンは、フィルランカ達のための靴を用意してくれていた。
それは、ミルミヨルの服のデザインを見て、カンクヲンが、その服に似合う靴を用意してくれたのだ。
「どうだい? フィルランカちゃん。 二つ用意したんだ」
一つは、普通の靴だったのだが、もう一つは、ブーツタイプだった。
靴の方は、革製のオックスフォードシューズで、踵は、5センチほど有った。
そして、ブーツタイプは、踵も同じ5センチ有り、クルブシのすぐ上までを覆うタイプだ。
どちらも、鳩目を紐で縛るようになっていた。
色は、どちらも茶色で革でワックスで綺麗に仕上げてあった。
「そろそろ、フィルランカちゃんも、この位の高さの踵でもいけるかと思って、用意したんだ。 高さもだけど、学校に通うなら、雨の日も通うことになるから、ブーツも用意したよ」
フィルランカは、カンクヲンの靴を見る。
「カンクヲンさん、ありがとうございます。 とても素敵です」
「これは、踵が高いな。 フィルランカは、こんな靴を履くのか?」
エルメアーナは、先日のカンクヲンの店では、一般的な靴を選んだので、踵の高いハイヒールやパンプスのようなものは、見てなかった。
見てなかったというより、興味が無かったと言った方がよかったのだろう、知らない事には興味がなかった。
鍛治には興味があった。
そしてフィルランカの着ていた服は、興味を示したが、靴までは気にしてなかったのだ。
「すごい、こんな靴が有ったのか」
「フィルランカちゃんは、随分前から、少し踵の高めの靴を履かせていたからな。 そろそろ、少し高くしてもいいかと思って、今までより少し高めにしたんだ。 エルメアーナちゃんは、今までの木靴に慣れているだろうから、この前に店に来た時は、少し、慣れるために少しだけ踵のある靴を選んだ。 もう少し、足が慣れてきたら、フィルランカちゃんと同じ位の高さにしようと思うんだ。 踵の高い靴は、木靴とは歩き方も変わるから、徐々に足を慣らしたら、この高さの靴にしようね」
「おお、私も、これと同じ靴が履けるのか。 うん。 分かった。 この前の靴だな」
そう言って、エルメアーナは、リビングを飛び出していった。
「ああ、ちょっと待って」
カンクヲンは、エルメアーナ用の靴を出して無かったので、それで、エルメアーナが、カインクムに買ってもらった靴を取りにいったのだ。
「ちゃんと、エルメアーナちゃん用の靴も用意してきたのに」
そう言って、フィルランカの靴の隣に、エルメアーナの靴を2足、並べて置いていく。
前から見たデザインは、ほとんど変わりはないのだが、踵の高さがフィルランカの物より、2・3センチ低めの靴が並べられた。
「ごめんなさね。 カンクヲンさん。 エルメアーナは、いつも、あんななのよ。 周りの事は気にせずに、気がついたら、変な事を言ったり、いなくなってたりなのよ」
フィルランカが、カンクヲンに詫びるようにいう。
「うーん、エルメアーナちゃんは、子供のような動きをするわね。 何だか、フィルランカちゃんの歳の離れた妹みたいだったわ」
「ええ、そうなんです。 本当に私から見ても何だか、孤児院の子供達と話しているみたいなんですよ」
フィルランカは、ミルミヨルの話に同意した。
(何も、お客様の前で、ドタバタとしなくてもいいのに)
フィルランカは、少し困ったような表情をしていると、リビングにエルメアーナが、先日の靴を手に持って入ってきた。
「この靴を履いたら、私もエルメアーナのような美人になれるのか?」
ドタバタとリビングに入ってきたかと思った瞬間に、エルメアーナは、声をかけてきた。
それをカンクヲンは、苦笑いをしながら聞く。
「エルメアーナちゃん。 その靴も良いと思うけど、フィルランカちゃんとお揃いの靴を用意しておいたんだよ。 少し、踵の高さは違うけど、エルメアーナちゃんが、大人の靴にも慣れるようにと思って、それに、2人でミルミヨルの服を着て、デザインの違う靴を履くより、足元まで同じにした方が、並んで歩いたら、綺麗に見えると思ったんだ」
「何、私も、綺麗になれるのか? ありがとう」
そう言って、カンクヲンの出した靴の前にしゃがみ込んで、フィルランカとエルメアーナの靴を見比べ出した。
エルメアーナは、ワクワクが、止まらないといった様子で、4足の靴を眺めている。
「どうだい、一般的な靴と、くるぶしを隠す程度だけど、ブーツタイプも用意してあるんだ。 自分の靴を履いてみないか?」
「いいのか。 だったら、これを履いてみる」
エルメアーナは、オックスフォードシューズを手に取ると、椅子に座って靴を履き始める。
「ちょっと、エルメアーナったらぁ。 ごめんなさい、カンクヲンさん」
エルメアーナの無邪気な姿を、フィルランカが謝った。
「いやいや、構わないよ。 エルメアーナちゃんのために作ってきた靴だから、私も早く、履いたところを見たいんだよ」
エルメアーナは、先日、カンクヲンに教わった、靴の履き方を、慣れない手つきでおこなっていた。
「じゃあ、私も履いてみますね」
「ああ、そうしてくれ。 履き心地とか確認してくれないか」
そう言うと、フィルランカは、ブーツの方をとって、椅子に座って履き替え始めた。
それをカンクヲンは、嬉しそうに眺めている。
「ねえ、なんで、茶色にしたの? 私は、てっきり、黒にするかと思ってたわ」
ミルミヨルが、カンクヲンに自分の意見を言った。
お互い、自分でデザインを考えることもあり、そして、服と靴は一体で、お互いにその良し悪しが出る。
服に似合う靴、靴にあった服、デザインは、お互いに引き立てたり、ダメにしたりする。
そのため、カンクヲンは、ミルミヨルの服のデザインを見て、靴を準備した。
2人は、店が隣ということもあったので、お互いにフィルランカを引き立てるために、自分の持てるアイデアを、知恵を絞っていた。
時々、つまると、お互いに相手の方のところで、進行状況を確認しつつ、自分のアイデアを絞っていたのだ。
なので、お互いのデザインは、分かっていたのだが、ミルミヨルは、靴の色までは把握してなかったのだ。
「ああ、黒なら、なんにでも合わせられると思ったんだがな、でも、一度革の色を活かした靴を履かせてみたいと思ったんだ。 きっと、フィルランカちゃんなら、使いこなすと思えたし、それに、エルメアーナちゃんと一緒なら、とても絵になると思ったんだ」
「ふーん」
そんなミルミヨルとカンクヲンの会話を気にすることなく、2人は、靴を履いていた。
フィルランカは、慣れた手つきでブーツを履くが、エルエメアーナは、鳩目の紐を結ぶのに手間取っていた。
お互いに靴を履くと、ミルミヨルとカンクヲンの前に立つ。
「ありがとうございます。 とてもいいものをありがとうございました」
フィルランカが、2人にお礼を言うと、エルメアーナも慌てて、頭を下げる。
「ありがとう。 大事に使う」
「違うわよ、エルメアーナ。 私たちはこれを宣伝するのよ。 だから、2人で、人目につくようにするのよ。 だから、私たちは、2人のためにしっかり宣伝するのよ」
「おお、そうだった。 うん、フィルランカと2人で、しっかり宣伝してくる」
そう言うと、エルメアーナは、何かを思い出すような表情をする。
「ああ、そうだ。 どうだ、この服は、ミルミヨルの店で買ったんだ。 それとこの靴は、カンクヲンの店のものだ。 この二つは、店が隣だから、一度に準備できるぞ」
ミルミヨルも、カンクヲンも、言葉遣いをもう少し気を遣ってもらいたいと思ったようだ。
「なあ、ミルミヨル。 きっと、フィルランカとセットなら、2人のギャップが面白いと思うかもしれないぞ」
「ええ、そ、そうかもしれないわね」
ミルミヨルは、顔を少し引き攣らせて答えた。
「言葉遣いは、私が、少しずつ、教えるようにします」
フィルランカが、2人に気をつかうように答えた。
ただ、エルメアーナは、そんな3人の思惑など知らないといった様子で、新しい服と靴が、嬉しいといった様子で、色々と、ポーズを取ったりしていた。
「エルメアーナは、分かっているのかしら」
フィルランカは、少し不安になった。
「フィルランカちゃんとセットだから、大丈夫だよ」
「ええ、フィルランカちゃんとなら、問題無いわ」
カンクヲンもミルミヨルも、エルメアーナの無邪気な行動について、あまり気にしてなかったようだ。
((フィルランカちゃんと一緒なら、この位平気だ。 きっと))
2人は、フィルランカの顔を見て、笑顔になった。
ただ、フィルランカは、その笑顔が少し怖いと感じたようだ。




