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転移者の少女


 メイリルダは、少年の手を引いてギルドの医務室に入ると、そこには少し疲れ気味で椅子に持たれてボーッとしている医師長がいた。


「こんにちは、医師長。ご機嫌、……。お疲れのようですね」


 昨日、転移してきた少女の容体を気にして残っていたので、大して眠れていなかったようだ。


「ああ、二日続けて転移者なんて聞いた事が無かったし、昨日の少女は、大怪我して担ぎ込まれてくるわで、もう散々だったわ」


 さすがに昨日の少女の大怪我には、気を許すことができなかったようだ。


 だが、その様子から、少女は生きているとメイリルダは理解した。


 もし、死んでいたのなら医師にこんな様子はあり得ない。


 まだ、予断を許せない状況だからこそ、定期的に様子を見て安否を確認していたのだ。


「お疲れ様です」


 メイリルダは、それ以外の言葉が思い浮かばなかったようだ。


 その言葉を、引き攣った表情をして労った。


「ああ、なんで、今回に限って、なんで2日続けて転移者なんて現れるんだ! それに今回は、ジェスティエンの後だからって、警戒も厳重にさせられるわ、2人目は大怪我するわ、あー、こっちも医療だけじゃなくて、賊の警戒までさせられるわ、……。あー、やってらんない」


 本音が漏れていた事も疲れもあり、思いついた言葉を並べるように医師長は呟いていた。


 それをメイリルダは困った様子で聞いていた。


(まずいわ。これ、本格的に愚痴り出しているわ。早く退散しないと、永遠に聞かされそうだわ)


 メイリルダは不味いと思ったようだが、何とか自分に不要な火の粉がかからないようにしなければならない。


 何とか話をはぐらかそうと思案しているようだ。


「あ、あのー、昨日の少女を見舞いに来たのですけど。エリスリーンから指示されているので、行っても、いいですか?」


 最後の方は、不安そうに聞いていたので、医師長は面倒臭そうな表情をした。


「ああ、隣の病室に入れてある。だから、ここからも入れるから、そこの扉から行ける」


 医師長は、そう言って、入口とは反対側の窓際の扉を指差した。


「まだ、動けないと思うからベットの横で話でもしてあげてくれ」


 医師長の言葉を聞くと、メイリルダは、引き攣った笑顔を向けながら、少年を連れて隣の部屋に移動した。


(このまま、ここに居たら、ズーッと愚痴を聞かされそうだし、さっさと、少女の病室に移動した方が良さそうね)


 メイリルダは、少年を連れて病室に移動した。




 医師長は、メイリルダと少年が移動して扉を閉めるまで視線を向けていた。


(あー、楽な仕事は、きっと、担当になったメイリルダだけだろうな。他の連中は、私同様に残業と休日出勤の山になるのか)


 医師長は、かけていた椅子に、もっと、背中を預けるようにしたので、椅子に体重が掛かった音がした。


(こっちは、早めに少女をメイリルダに預けられるように、少しでも早く退院させることを考えないとな。そうでないと、こっちの身が持たない。それに、昨日、一昨日と転移者が出たとなったから、今日は地下遺跡へ行く冒険者が朝日が登る前から向かったって言ってたわ。この時間に怪我人が運び込まれてないという事は、魔物に襲われた冒険者は居ないと思うけど、……)


 医師は、少しやりきれないといった表情をした。


(数十人の冒険者が同じ場所に集まっているなら、剣が当たったとか視線が何とか言って難癖つけて喧嘩になるだろうし、それで怪我でもしたら、また、今日も大騒ぎになるかもしれないわ。……。予想が外れてくれることを願いたいね)


 医師は、やりきれないといった表情をして天井を見上げていた。




 メイリルダと少年は病室に入ると、少女はベットで寝ていたので、2人はベットの脇に行き少女の様子を覗き込んだ。


 少女は、目を閉じて寝ていた。


 すると、少年は掛け布団の中に手を入れると少女の手をとって両手で握った。


 メイリルダは、そんな少年の行動を、意外なものを見るように見つつ椅子を2脚用意していた。


 椅子を持ってくると、1つの椅子に少年を座らせ、その横に自分も椅子を置いて座った。


(不思議ね。何も教えてないのに、彼女の手を握ってあげるなんて、……。無意識に行っているにしても、無意識の病人には人の温もりを感じると、治りが早いことを知っているみたいだわ)


 メイリルダは、少年が握っている手を見た。


(魔法とは違うけど、手と手を繋ぐことで、何らかの力が流れると言うけど、本当かどうかは疑わしいわ。でも、転移者同士が手を握ったら効果がありそうだわ)


 そんな少年を見たメイリルダは、微笑ましく思いながら少女の容体を見た。


(あら、何だか、顔色が良くなったみたいだわ。……。そういえば、昨日も、そんなだったような気もするわね)


 メイリルダは、何かを思い出した様子で微笑んだ。


 すると、ベットに寝ていた少女が目を覚ました。


『おふぁやう』


 少女は言葉を発した。


 それをメイリルダは、理解できないが言葉を発した少女を覗き込んだ。


『おはよう。元気になった?』


 メイリルダは少女の言葉に答えた少年に驚いた。


(この2人、会話をしているわ! ……。あ、そういえば、ギルマスに2人は会話ができるって言われたっけ。忘れていたわ)


 そして、少しニヤけたような表情をした。


(いけない。私は少年と話ができなかったから、少女とも会話ができないかと思ったわ)


 メイリルダは、少年と少女が会話をしている様子を微笑ましく見ていた。


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