フィルランカの制服、試着するエルメアーナ
フィルランカの入学式の3日前になると、ミルミヨルが、カインクムの家兼鍛冶屋を訪ねてきた。
ミルミヨルは、少し疲れ気味な顔で、大きな荷物を持ってきた。
両手に大きな、革製のアタッシュケースを持って、背中には、アタッシュケース型の鞄を背負っていた。
「約束の、学校に行く時用の、お洋服を持ってきました」
ミルミヨルは、カインクムの鍛冶屋に入ると同時に言ってきた。
「あ、ああ」
店番をしていたのは、カインクムだったのだが、ミルミヨルの疲れ気味な表情と、疲れ切ったような声に、カインクムは、それ以上声にできなかった。
「あのー、カインクムさん。 フィルランカちゃん達は?」
「ああ、奥に居る」
カインクムは、そう言って、店の奥にある扉を示す。
「すみません。 中に入ってもいいですか?」
ミルミヨルは、疲れた声で話しかけた。
「ああ、今、2人を呼ぶよ」
カインクムは、奥の扉の方に行き、扉を開ける。
「おーい。 フィルランカ。 エルメアーナ。 ミルミヨルさんが、来ているぞ。 こっちに来い」
「「はーい」」
カインクムの声に、2人の女子の返事が聞こえた。
すぐに、2人は、店に顔を出す。
「いらっしゃい。 ミルミヨルさん。 今日は、私の作った剣を買いにきたのか?」
エルメアーナが、とんでもないことをミルミヨルに言う。
「エルメアーナったら、ミルミヨルさんは、洋裁店をしているのよ。 冒険者じゃないのだから、剣は買わないわよ」
「おお、そうだった。 だったら、私の作った、このヤカンは、どうだ」
「ちょっとぉ、エルメアーナは、なんで自分の事しか話さないの? ごめんなさい、ミルミヨルさん。 エルメアーナは、いつもこんななのよ」
ミルミヨルは、少し引き攣った表情で、エルメアーナの話を聞いていた。
「それで、今日は、どのようなご用件で、ご来店ですか?」
フィルランカに言われて、やっとミルミヨルは、落ち着いたようだ。
「約束の服を持ってきたんだ。 2人に着てもらおうと思ったので、持ってきた」
フィルランカは、学校に行くための服をミルミヨルが、プレゼントしてくれると、合格発表の時に言っていたのを思い出した。
「本当ですか。 ありがとうございます。 ミルミヨルさん服なら、きっと素敵な服なんでしょうね」
「ああ、2人にと思って持ってきた」
そう言って、両手に皮で出来た大きなバックをあげて見せた。
それを見て、フィルランカは、カインクムに向く。
「奥で、ミルミヨルさんの服を見せてもらってきて、いいかしら」
ミルミヨルが、フィルランカが学校に通うための服を用意してくれることを聞いていたので、カインクムは、笑顔で答える。
「ああ、早速、見せてもらいなさい。 店は見てるから、奥で見せてもらうといい」
「父、ありがとう」
フィルランカが、答える前にエルメアーナが返事をすると、ミルミヨルの横に行くと、エルメアーナは、ミルミヨルの持つ大きなアタッシュケースを持ってあげた。
少し重そうに持つので、それを見たフィルランカが、もう一つのアタッシュケースを持ってあげた。
「ありがとうございます。 ミルミヨルさん。 奥で、見せてください」
フィルランカは、ミルミヨルに嬉しそうな顔で声を掛けた。
「ああ、じゃあ、上がらせてもらうよ」
そう言って、フィルランカとエルメアーナに連れられて、店の奥へ移動していく。
3人は、リビングに移動すると、テーブルの上に二つのアタッシュケースを置く。
ミルミヨルは、背負っていたアタッシュケースを下ろすと、テーブルの脇に置くと、テーブルの上のアタッシュケースの一つを開ける。
その中には、フィルランカ用の服が入っていた。
それをミルミヨルが、ハンガー毎、持ち上げて、帽子立てにかける。
「どお? 自信作なのよ。 きっと、綺麗に見えると思うわよ」
それは、ワンピースと、胸を覆う程度のベストから袖が出ているものだった。
ワンピースは、胸まわりは緩く、下にブラウスをつけているが、ウエストは、細く見せるために軽く閉められるようになっていた。
ベストは、肋骨を隠す程度の長さしかないので、フィルランカのウエストをくびれさせ、そして、胸まわりは、ベストで覆うようなデザインになっていた。
白のブラウスは、生地を余らせるように作ってあるので、ベストを脱いでも、胸まわりが余裕を持つようなデザインとなっていた。
スカートの丈は、長く、膝を隠して、脛の半分を覆う程度だった。
(よかったわ。 膝が出る長さだと、流石に学校に着ていくわけにはいかなかったけど、この長さなら、安心ね)
フィルランカは、ホッとした様子をする。
「すごいです。 ミルミヨルさん。 とても素敵です」
「そうでしょう。 これと色違いを、エルメアーナちゃんように作ってあるのよ」
「おお、私にもあるのか。 しかも、同じデザインなのか」
ミルミヨルの言葉にエルメアーナが反応した。
「ちょっと待ってね」
そう言うと、ミルミヨルは、もう一つのアタッシュケースから、エルメアーナ用の色違いの服を出して、横に飾った。
「おおーぉ」
エルメアーナが興奮気味に声をあげて、自分用だと言われた服を凝視していた。
「なんだ。 フィルランカとお揃いじゃないか。 これ、すごくいい。 これ、着てもいいか?」
エルメアーナは、ミルミヨルに聞く。
「もちろんよ。 今日は、2人のために持ってきたのだから、着てもらわないと、こっちが困るわ」
「そうか、だったら、今すぐに着る」
そう言って、エルメアーナは、慌てて自分の服を脱いで、放り投げていく。
それをフィルランカが拾っていると、エルメアーナは、下着一枚になってから、自分用だと言われたエンジ色の服を、ハンガーから外して、そのまま、ブラウスを着ると、その上にワンピースを着る。
ブラウスを綺麗にワンピースの中に入れると、お腹の部分にある紐を、絞るようにする。
時々、脇腹の方の脂肪を上に上げるように、手で絞りながら、鳩尾から臍にかけて、体を絞る紐でウエストを締め付けるのだ。
エルメアーナも、ミルミヨルの店に行った後は、フィルランカと一緒になって、コルセットをつけたり外したりをして練習していたので、上手にワンピースのウエストを絞っていく。
ワンピースを着ると、早速、フィルランカとミルミヨルに見ろと言うように立つ。
「どうだ。 私もドレスを着るのにも慣れてきたのだ。 上手く切れただろ」
2人は、少し苦笑いをしながら、エルメアーナをみる。
「ええ、エルメアーナちゃんが、こんなに早く1人でドレスアップできるとは思わなかったけど、でも、その格好で、カインクムさんの前に出ない方がいいと思うわね」
エルメアーナは、ミルミヨルの言っていることがよく分からない様子で、フィルランカを見る。
「フィルランカ、この格好で、父の前に出てはまずいのか?」
フィルランカも聞かれて困ったような顔を向ける。
「だって、エルメアーナの胸だけど、透けて見えているわよ」
「ん? 何が?」
「何がって、……。 ねえ」
そう言って、ミルミヨルが、フィルランカを見る。
フィルランカは、仕方なさそうにエルメアーナの前に行く。
少し恥ずかしそうな顔をするのだが、黙って自分の両手を胸の前に上げると、両手の人差し指を立てると、エルメアーナの胸に、チョンと当てる。
「ヒュミュァ!」
エルメアーナは、フィルランカの指が、自分の胸の頂点を突いてきたので、びっくりして、おかしな声をあげた。
「だって、服の上から、ピンク色のものが、飛び出ているのよ。 男の人には、目の毒よ」
エルメアーナは、胸を抱えながら、赤い顔をして、フィルランカを見ていた。
フィルランカも、恥ずかしそうに、エルメアーナから目を逸らして、頬を染めていた。
「エルメアーナちゃんも、お年頃なのだから、下着は、下だけじゃなくて、上もつけるのよ」
ミルミヨルは、そう言って、アタッシュケースの中から、エルメアーナ用の下着の上を手に持って見せた。
ミルミヨルも、フィルランカが、エルメアーナの胸の先端を、指で突っつくとは思ってなかったので、少し恥ずかしそうにしていた。
その後は、エルメアーナの着替えを、もう一度やり直してから、フィルランカも着替えた。
ミルミヨルは、2人の衣装を確認するのだった。




