エルメアーナの髪型
ティナミムは、フィルランカの方の従業員のところに行くと、一言二言、指示を出した。
フィルランカの髪の毛は、いつも見ているので、おおよそのことは、ミルミヨルも分かっているので、フィルランカを見て、少し指示を出すだけで、あとは、従業員に任せたようだ。
そして、エルメアーナの髪の毛を見に行く。
エルメアーナの後ろに立つと、髪の毛を触ったり、指を髪の毛の中に入れて、何かを確認していた。
そして、串を取り出して、軽くすいてみる。
ただ、エルメアーナの鍛治仕事で痛んだ髪の毛は、かなりひどい様子だった。
「えーっと、お名前は?」
「ああ、エルメアーナだ」
「そう、エルメアーナちゃんね」
ティナミムは、名前を確認すると、話を続ける。
「あのね、エルメアーナちゃん。 今の髪の毛は、所々、火で炙られたようになっているのよ。 これだと、ボサボサになったままだから、綺麗にセットできないのよ。 だから、今回は、少し短くして、もう一度、綺麗に伸ばしてみない?」
エルメアーナは、少し悲しそうな表情をした。
そんなエルメアーナの表情を、隣にいるフィルランカは、心配そうに、鏡越しに見ていた。
「私の髪の毛は、そんなにひどいのか」
ティナミムは、答えに詰まった。
10代半ばの少女の髪の毛とはとても思えないほど、痛んでいるのだ。
それは、鍛治仕事で、髪の毛に火花が飛んでいても気にせずに行っていたのだろうから、仕方のないことなのだが、ティナミムは、そのまま、直接的な話をする気にはなれなかった。
デリケートな年頃の少女なのだから、その辺りを上手に言わないと、今後は、顔も見せてくれない可能性もあるので、言葉を選んでしまうのだ。
「うーん、フィルランカちゃんと同じで、エルメアーナちゃんも、かなり、髪の毛は多い人だから、すぐに伸びてくると思うわ。 それに短い髪の毛なら、手入れも簡単になるわ」
エルメアーナは、悩むような表情をしている。
「でも、私は、フィルランカと同じように、長くしておきたいのだ」
その言葉は、少し寂しそうに聞こえた。
「そうなの」
ティナミムは、エルメアーナの髪の毛を櫛ですきながら、エルメアーナの表情をみる。
そして、フィルランカをみる。
(お互いに、同じ歳なのかしら、女の子同士だから、お互いに対抗意識もあるのかもしれないわね)
ティナミムは、仕方なさそうな顔をする。
「わかったわ、エルメアーナちゃん。 なるべく、長く残すようにするわね」
「本当か。 私も、フィルランカのように長い髪の毛のままでいられるのか」
そう言うと、エルメアーナは、嬉しそうに、ティナミムに話しかけた。
(同じ歳なら、知らず知らずのうちに、対抗意識が芽生えているのかもしれないわね。 この喜びようは、きっと、フィルランカちゃんを意識しているのね)
ティナミムは、櫛でエルメアーナの髪の毛をすきつつ、ハサミを用意した。
「じゃあ、痛んだところから先は、切ってしまうわね。 それで、あとは、綺麗に整えてあげるわ」
「ありがとう」
エルメアーナは、ティナミムに嬉しそうに答えた。
ティナミムは、エルメアーナの髪の毛にハサミを入れながら、出来上がりをイメージしている。
(後ろの髪の毛は、全部が全部、痛んでいるわけではないわね。 奥の方は、それほどでもないから、表側を短くして、奥の髪は残すようにして、そうね、首元の髪の毛を長くして、上から下がっている髪の毛は短くして、きっと、これなら、半分位は、長い髪が後ろに流せると思うわ)
ティナミムは、エルメアーナの髪の毛を痛んだ部分から先をどんどん切っていく。
だが、全部の髪の毛を切る必要は無いようだ。
髪の毛に火花が当たったのは、表の髪の毛だけなので、奥の方の髪の毛には、それほど影響がなかったようなので、表面の髪の毛を切ることで、痛んだ部分は、あらかた、切ることができた。
「どお? フィルランカちゃんとは、少し違うけど、長い髪の毛も残っているわよ。 痛んだところは、切ったけど、その短くした方は、首元で切り揃えて、痛んでなかった半分の髪の毛は、背中に垂らして、先を切り揃えたのよ」
前から見ると、短い髪の毛に見えるのだが、後ろは、半分の髪の毛が長く伸びている。
「ほら、前から見た感じと、後ろから見た感じが全然違うでしょ」
そう言って、後ろに鏡を置いて、エルメアーナに後ろ髪の方を鏡で見えるようにする。
「うん。 カットしているときは、とても不安だったけど、後ろは長く、髪の毛が残っているのだな。 なんだか、いつもの私じゃ無いみたいだ」
今まで、ただ、伸ばしていただけで、手入れも大したことはせず、しかも、鍛治仕事で痛んでいたので、ほとんどボサボサの髪の毛だったのだが、ミルミヨルに痛んだところをカットしてもらって、整えてもらうと、全く、イメージが変わってしまった。
「エルメアーナ、なんだか、とても綺麗になったわ。 髪の毛が、綺麗になったら、とても素敵よ」
「そうか、フィルランカ。 私は、素敵になったのか」
エルメアーナは、とても嬉しそうに話しつつ、自分の髪の毛を、鏡越しに眺めていた。
「ティナミムさん、すごいわ。 エルメアーナが、とても綺麗になったわ。 それに、このカットは、とても素敵。 きっと、この髪の毛を見たら、同じようにしてほしいって言う人が多いと思うわ」
「そお、フィルランカちゃんにも、いい評価をもらえたなら、この方法もいいのかもしれないわね」
(痛んだところをカットして、短くしたところと、長いところを、それぞれで、切り揃えただけなのだけど、フィルランカちゃんにも好評よね。 この2人が、一緒に歩いていたら、周りは、どっちを選ぶのかしら。 ちょっと楽しみよね)
「ねえ、エルメアーナちゃん。 あなたも、フィルランカちゃんと一緒に、食事に行くの?」
「……。 今までは、出たことが無かった」
エルメアーナは、少し寂しそうに答えた。
(あっ、聞いちゃいけなかったのかしら)
ティナミムは、まずいことを聞いてしまったと思ったようだ。
「でも、これからは、フィルランカが、一緒に外に出てくれると言った。 だから、これからは、時々、仕事の合間とかに、フィルランカと一緒に外に出ようと思う」
「そう。 それはよかったわ」
隣にいたフィルランカもエルメアーナが、外に出ると言っていたので、少し嬉しそうだ。
(これからは、エルメアーナも一緒に、外に出れそうね。 きっと、楽しい話ができると思うわ)
ティナミムは、一瞬、地雷を踏んだと思ったのだが、エルメアーナは、大丈夫そうな話をしてくれたことで、ホッとした。
そして、フィルランカは、エルメアーナが、外にでてくれると言ったことが嬉しそうだった。
フィルランカは、今の話をカインクムが、聞いてどんな顔をしているのかと思い、カインクムを見ると、カインクムは、寝ていた。
流石に、女子の美容室に付き合う男子には、その程度しか自分の時間を持て余してしまうのだ。
フィルランカは、残念そうにしているが、すぐに、今日の夕食の時の話題にしてしまおうと考えたようだ。
フィルランカは、3人の楽しい夕食を思うのだった。




