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ティナミムの美容室と2人の髪の毛


 フィルランカとエルメアーナの髪の毛を、ティナミムの店で見てもらおうとカインクムは、連れてきた。


 カインクムは、待合席の方に通されると、フィルランカとエルメアーナは、カット用の椅子に通された。


 すると、エルメアーナには、何も聞かずに、そのまま、立ち上がらされると、洗髪用の椅子の方に連れて行かれた。


 後ろに寝るように座ると、そのまま、店員がシャンプーを始めた。


 エルメアーナは、顔にタオルをかけられて、そのままの状態で、髪の毛を洗われているのだが、体から力が抜けたように椅子に寝ていた。


 ただ、店員は、かなり時間をかけて、エルメアーナの髪の毛を洗っていたのだ。


 エルメアーナもフィルランカ同様に、肩甲骨の下まで、髪の毛を伸ばしていたので、その髪の毛の量も多かったので、洗う方もかなり手間がかかったようだ。


 カインクムは、フィルランカが鍛治仕事で金槌を使っているので、髪の毛に小さな金属の火花もあたることもあると思い、エルメアーナの髪の毛を洗っている店員に声をかける。


「すまないな。 エルメアーナは、うちの鍛冶屋を手伝ってくれているから、金槌で叩いた火花が髪の毛にも当たっていると思うんだ。 かなり火で痛んでいると思うから、適当に済ませてくれ、それと、鍛冶屋には、長すぎる髪の毛なので、短めに切ってやってくれ」


 カインクムにしたら、エルメアーナのフォローをしたつもりなのだろうが、エルメアーナには癇に障った。


「父! お前は、私の髪の毛をなんだと思っているんだ!」


 髪の毛を洗われつつ、店員が答える前に、エルメアーナは、椅子に寝かされたまま、怒鳴りつけた。


「ああ、鍛治仕事に、その髪の毛の長さは、邪魔だろう。 なんなら、頭を剃って貰った方が、いいんじゃないか? 俺が、修行中は、そんな長い髪をしていたら、兄弟子に無理矢理切られたぞ」


「それは、父の話だ。 私は、フィルランカのように長い髪の毛にしたいんだ」


 それについて、カインクムが、反論しようとすると、エルメアーナの髪の毛を洗っている店員が、カインクムを制するように、視線を送ると、エルメアーナに話しかける。


「お客様」


 エルメアーナは、父親のカインクムではなく、店員から声をかけられたので、今にも飛び出しそうだった体の力が抜けたようだ。


「ん?」


「お客様の髪の毛は、少し痛み気味です。 鍛治仕事をしていたのなら、仕方がないと思いますけど、次からは、作業の時に帽子をかぶって、髪の毛をその中に入れてしまうことをお勧めします」


「そうなのか?」


「はい、髪の毛は、熱に弱いですから、鍛治の時の火花が当たると、直ぐに焼けてしまいます」


「ああ、そういえば、時々、髪の毛の焼ける匂いがしてた」


 店員は、エルメアーナの反応に、少し嫌そうな表情をしたのだが、エルメアーナの顔には、タオルがかかっていたので、店員の表情は、エルメアーナには知られてない。


「そうか、帽子か。 今度は、帽子をかぶって作業をすることにしよう」


「そうしてください。 綺麗にしても、火花で傷ませてしまうと、髪の毛もかわいそうですから」


「おお、そうする」


 店員は、困ったような笑顔をして、エルメアーナの洗髪を続けていた。




 エルメアーナの髪の毛を洗い始め、フィルランカの髪の毛に、ハサミを入れ始めると、奥からティナミムが、店に現れた。


「いらっしゃい、フィルランカちゃん。 それと、カインクムさんも、ご来店ありがとうございます」


 そう言って、カインクムにお辞儀をするので、カインクムも慌てて、立ち上がってお辞儀をした。


「いえ、いつも、フィルランカが、お世話になりっぱなしだったのに、ご挨拶が遅れてしまい、申し訳なかった。 今日は、2人の髪の毛を、お願いしたいと思って連れてきたので、よろしくお願いします」


「いえ、お礼を言わなければならなかったのは、こちらの方です。 フィルランカちゃんが、うちで髪の毛をセットしてくれたと言ってくれたので、そのおかげで、私の店にも、フィルランカちゃんの髪の毛にしてほしいとかって、たくさんのお客様が、見えてくれたのですよ」


 そう言って、ティナミムは、深々とお礼をする。


「本来なら、私の方から、カインクムさんのお店に出向いて、お礼をするべきだったのに、お店に出向いてもらい、申し訳ありませんでした」


「いやいや、フィルランカが、そちらのお店のためになったのなら、それに越したことはありません。 いつも、フィルランカは、こちらのお店で、髪の毛をカットしてもらったり、セットしてもらったと言ってたので、お礼を言いたかったのは、私の方です。 本当に、フィルランカが可愛くしてもらえて、私も鼻が高かったですよ」


 カインクムの可愛くと言った言葉に、フィルランカは、顔を赤くしていた。


(カインクムさん、私のこと、可愛いと思っていてくれたんだ)


 その表情が、あまりに、激しく変わったので、フィルランカの髪の毛にハサミを入れていた店員の手が、一瞬止まった。


(あら、お父さんに、可愛いって言われて、こうも嬉しそうにした娘さんは、初めてみたわ。 まるで、恋人に言われたみたいな反応ね)


 店員は、少し不思議そうにフィルランカの表情を見たのだが、直ぐに作業を始めた。


 そんなフィルランカの表情の変化を気にすることなく、ティナミムとカインクムの話は、続いていた。


「そう言ってもらえると、私の方も、助かります。 でも、フィルランカちゃんの髪の毛をセットしたことで、いい宣伝をさせてもらえましたから、こうやって、人も雇うこともできるようになったのですよ。 ですから、フィルランカちゃんには、本当に感謝しているんですよ」


 カインクムは、この店も今までの2店と同じ事を言うのだと思ったようだ。


「フィルランカが、こちらのお店にも、役立ってくれたのですね。 それは、本当によかった」


「ところで、今日は、3人揃って、いかがしたのでしょうか?」


「ああ、フィルランカの合格発表に全員で来たので、後は、買い物やら、食事やらの家族サービスです」


 合格発表と聞いて、ティナミムは、時期的なものから、高等学校の合格発表のことを思い出したようだ。


「そうでしたか。 それで、フィルランカちゃんの合格発表って、第1区画の高等学校ですか? それで、フィルランカちゃんが、合格したってことですね」


 ティナミムは、カインクムに歩み寄って、話しかけた。


「はい、合格したと聞いてます」


「おめでとうございます。 カインクムさん」


 カインクムが、お礼を言う前にティナミムは、フィルランカの方を向いてしまった。


「それに、フィルランカちゃん、頑張って勉強したのね。 おめでとう」


「……。 ありがとうございます」


 フィルランカは、少し間をおいて答えたのだが、カインクムは、お礼を言う隙を与えてもらえなかったので、お礼を言うタイミングを無くしている。


「それで、今日は、ミルミヨルの店もカンクヲンさんの店もいってきたのですか?」


「ええ、先程、伺いました」


 それを聞いて、ティナミムが、少し考える様子をする。


「そうでしたか、だったら、うちの店で少し長くなっても構わないですか?」


 カインクムは、ティナミムに言われて、少し困った様子をする。


 カインクムとしたら、女性用の美容室に来て、2人の髪の毛をセットしてもらっている間、どうやって時間を潰せば良いのかと思ったようだ。


「ああ、この後は、特に決まった用事は無いので、後は、2人の都合に合わせようと思ってます」


 2人とは、当然、エルメアーナとフィルランカのことなので、2人が何かリクエストしてくれば、それに付き合おうと思っていたのだ。


「でしたら、うちの店で、少し、時間をかけてもよろしいですか? フィルランカちゃんもですけど、もう1人の娘さんの髪の毛も、少し綺麗にさせてください」


「あ、はい。 わかりました」


 ティナミムは、カインクムの了解を取ったので、早速、エルメアーナの髪の毛を見に行った。


 今の髪の毛を見て、どんな感じに仕上げようかと考えるつもりなのだ。


 カインクムは、時間がかかりそうだと思ったようだが、2人のためだと思うと、そのまま、待つことにしたようだ。


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