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カンクヲンの靴屋


 カインクムは、フィルランカとエルメアーナをエスコートして、ミルミヨルの店の横の、カンクヲンの靴屋に入っていく。


 フィルランカが、最初に店に入った。


 その後を、少し隠れるようにしてエルメアーナが続く。


「いらっしゃい、フィルランカちゃん。 今日は、連れがいるのかい」


 少し隠れ気味にしているエルメアーナを見た、カンクヲンが、声をかけてきた。


「こんにちは、カンクヲンさん。 今日は、カインクムさんとエルメアーナも一緒なんです」


「おお、そうか。 カインクムさんにお礼を言おうと思っていたんだ。 ちょうどよかったよ」


 そう言うと、カインクムが、入口の扉を閉めながら、店に入ってきた。


「こんにちは、カンクヲンさん。 いつもうちのフィルランカがお世話になっております」


 そう言って、お辞儀をすると、カンクヲンは、慌てる。


「いやいや、お礼をするのは、こっちの方だよ。 フィルランカちゃんが、うちの店の靴を宣伝してくれたから、その後は、隣のミルミヨルの店の服とセットで買ってくれる、お客様が増えたんだよ」


「そうだったのですか。 フィルランカが、お店に貢献できていたのですね。 てっきり、迷惑をかけているのではないかと思ってたのですけど」


「いやいや、フィルランカちゃんのおかげで、ミルミヨルのところもだが、うちも商売繁盛だよ。 それに、ミルミヨルのところが、結構、新作を用意するから、その服に合わせて、こっちも、新しい靴のデザインを考えて、作ることになったりして、結構、楽しかったよ。 それに、新作の靴が、フィルランカちゃんのおかげで、受注が追いつかなかったりとか、こっちの生産体制が間に合わないほどだったんだよ。 おかげで、ほら、弟子だとか使用人とかが、増えたよ」


 そう言って、奥の方で靴を作っている職人が、4人いることに気がついた。


「今でも、新作をってお客様が訪ねて来ることも多いんだ。 おかげで、イスカミューレン商会の店とも取引が始まったんだ。 これも全て、フィルランカちゃんのおかげなんです」


「おお、こちらもイスカミューレン商会と、取引しているのですか」


 イスカミューレン商会と言えば、帝都で一番の商会で、その傘下の店舗は、帝都の大通りに面した建物で、ショッピングモールのようになっており、そこへ行けば、揃わない物はないと言われている。


 特に、貴族や皇族とのつながりもあり、そして、帝都の開発も手がける、巨大コングロマリットのようなのだ。


 そのイスカミューレン商会傘下の店舗から、発注を受けられるとなれば、一流の店と認められたと言っても過言ではないと、帝都内の個人商店の店主達は思っているのだ。


「そうですか、それは、凄いことですね」


「これも、全て、フィルランカちゃんが、店を訪ねてくれたところから始まっているんです。 あの時、ミルミヨルの服を着て、店に入ってきた時の事は、今でも思い出します。 カインクムさん、今まで、お礼にも行かずに、申し訳ありませんでした」


 そう言って、カンクヲンは、カインクムに頭を下げた。


 流石に、それには、カインクムも驚いた。


「あ、いや、私は、何もしてない。 何かしたのは、フィルランカだ。 お礼なら、フィルランカに、……、いや、もう、沢山、もらっているかもしれないですね」


 カインクムは、フィルランカの持つ靴の量を考えたら、かなり、この店にも、フィルランカは、よくしてもらっていると思ったようだ。


 カインクムとしたら、フィルランカに色々と提供してくれたお店に、お礼の意味を込めて、購入に来たのだ。


 ミルミヨルのところでも、感謝されてしまって、ここでも同じように感謝されて、戸惑っているのだ。


「ああ、それより、うちの娘達のお祝いに、靴を買ってあげようと思ってきたので、2人に似合う靴を身繕ってもらえないだろうか?」


(お祝い? この2人の?)


「ところで、お祝いとは?」


「ああ、フィルランカが、高等学校の入試に合格したので、そのお祝いです。 たまには、親代わりらしいことをしてあげようと思って、カンクヲンさんの店なら、いいものが用意できると思ったので、お邪魔させてもらいました」


「そうだったのですか」


 そうカインクムに言うと、カンクヲンは、フィルランカを見る。


「フィルランカちゃん。 合格おめでとう」


「あ、ありがとうございます」


 フィルランカは、少し顔を赤くして答えた。


「カインクムさん。 フィルランカちゃんには、いつも世話になっているのですから、店からプレゼントさせてもらいますよ」


 カインクムは、カンクヲンの申し出に、困った顔をする。


「すまないが、今日は、私に親らしいことをさせてもらえないだろうか?」


(そうだな。 高等学校の合格祝いなら、カインクムさんも、自分で何かをしてあげたいのか)


「わかりました。 じゃあ、カインクムさんに、私が靴を1足プレゼントさせてもらえないでしょうか?」


 カインクムは、自分に振られて、驚いている。


 そんなカインクムを畳み掛けるように、カンクヲンは、続ける。


「フィルランカちゃんに、カインクムさんの靴を選んでもらって、それを、私が、プレゼントするって言うのはいかがでしょうか?」


「いや、そんな」


 しかし、その話にフィルランカも乗ってきた。


「カンクヲンさん。 それ、私に半分、出させてください。 私もカインクムさんの靴は、少し、くたびれてきたと思ってたので、私にも半分出させて欲しいです。 それにこちらのお店にご縁ができたのは、カインクムさんが、私に色々な料理を食べろと言って渡してくれたお金が、こちらのお店に来るキッカケになってますから、私にもプレゼントする権利があると思います」


 フィルランカは、真剣な顔で、カンクヲンを見た。


「そ、そう、か、……、な」


 カンクヲンは、フィルランカの話が、微妙に納得できずにいるのだが、フィルランカの真剣さに負けてしまったようだ


「ああ、じゃあ、フィルランカちゃんとお店から、カインクムさんに靴をプレゼントしようか」


「ありがとうございます」


 フィルランカは、喜んでいた。


 そして、自分の靴を選ぶのを忘れて、カインクムの靴を選び始めていた。


 ただ、カンクヲンとしたら、そろそろ、フィルランカに新作をと思っていたらしく、新しい靴を用意していた。


 そして、エルメアーナの靴を選ぶことになったのだが、エルメアーナの靴が決まっても、フィルランカが選ぶカインクムの靴は、中々、決まらなかった。


 結局、男物の靴を全て、試させても決まらずにいたので、痺れを切らせたカインクムが、カンクヲンに頼んで、フィルランカに誘導してもらって決めることになった。


 フィルランカにしたら、初めて、カインクムに贈るものだったので、記念になるものと思ったようだ。


 その結果、中々決まらずにいたのだが、それを言葉にすることは無かった。


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