フィルランカの思いとエルメアーナの思い
ミルミヨルの店を出ると、今度は、隣のカンクヲンの店に、カインクムは、2人を連れていく。
それをエルメアーナも、楽しそうにしているので、フィルランカも、3人で買い物に出かけるのが、とても楽しいのだ。
(カインクムさんと娘のエルメアーナの2人と、私。 ……。 エルメアーナは、カインクムさんの娘だから構わないけど、私は? 私の立ち位置って、周りからどう見られているのかしら。 えっ! まさか、まさか、まさか、まさか、……。 ないわね)
フィルランカは、顔を赤くしながら、隣のカンクヲンの店に向かう。
フィルランカの無いは、カインクムの妻としての立ち位置なのだが、そんな事を考えているのは、この世にフィルランカ、ただ1人だけなのだ。
フィルランカに対する周りの見方は、カインクムとその娘たち、姉妹のために買い物をしているとしか見られてないが、フィルランカの妄想の中には、そうは映っていないのだ。
中の良い、エルメアーナの姉妹にしか、周りは思っていないのだが、フィルランカ1人だけは、違っているのだ。
そんなフィルランカの妄想が、頬を赤くすることで表に出ていたので、カインクムが不思議そうにフィルランカに尋ねた。
「フィルランカ? お前、顔が赤いぞ」
カンクヲンの店の前で、フィルランカの様子に気がついたカインクムが声をかけてきた。
「フィルランカ、お前、熱でもあるのか? 私が見てやる」
カインクムの話に、エルメアーナが、すぐに反応した。
そして、フィルランカのおでこに、自分のおでこをつける。
「うーん。 熱は無いようだ」
フィルランカは、カインクムの言葉に反応しようと思ったのだが、自分が答える前にエルメアーナが動いてしまった。
フィルランカは、エルメアーナの動きについていくことができずに、されるがままに、おでこをくっつけられてしまったのだ。
ただ、フィルランカは、エルメアーナ達、特に、カインクムに自分の心の内を、見透かされてしまったのではないかと慌てていた。
「べっ、べつ、別に、何でも、あっ、あり、ませ、ん。 3人で、買い物するのが、嬉しかった、だけ、です」
カインクムは、そんなフィルランカに笑顔を向ける。
「そうか、それは、よかった。 てっきり、こんなオヤジと一緒だと、嫌かと思ってたのだけどな」
フィルランカとしたら、カインクムと2人で手を繋いで歩いても構わないと思っているのだ。
ただ、恥ずかしくて、絶対に繋ぐことはできないだろうと思っているのだが、ここでカインクムの話を肯定したら、今後、エルメアーナが居ても、カインクムと一緒に外を歩くことはないと思ったのだろう、慌てて否定する。
「そんなことありません。 とても、楽しいです。 それにエルメアーナとも一緒に外に出られて、とても幸せなんです」
カインクムは、意外そうな顔をする。
「そうなのか。 周りの話を聞いていると、お前達位の歳ごろは、父親と一緒は嫌だと言うって聞いてたからな。 そう言ってくれると嬉しいよ」
カインクムは、少し照れたようにフィルランカに言った。
ただ、1人、エルメアーナは、フィルランカの話が気になったようだ。
(フィルランカは、私とも一緒に、外に出たかったのだろうか? 今までも、一緒に行きたいところもあったのだろうか? だったら、今まで、誘われても外に出なかった私は、フィルランカに悪いことをしていたのかもしれない)
エルメアーナは、少し寂しそうな顔をしていた。
「フィルランカ。 今まで、すまなかった」
フィルランカは、エルメアーナが、突然謝ってきたので、驚いた様子をする。
「どうしたの、突然。 それに、エルメアーナが、私に謝るような事は、何もないわよ」
「いや、今まで、誘ってくれたのに、私は、一度も外に出る事は無かった。 今まで断ってしまって、ごめん」
「いいのよ。 そんなこと、無理に外に出ることはないわ。 でも、今日は出てきてくれたわ。 だから、それで、今までのことは帳消しよ」
そう言って、エルメアーナに笑顔を向ける。
「でも、これからは、気の向いた時は、付き合ってね。 私も、エルメアーナと一緒の方が楽しいから」
エルメアーナは、少し目を潤ませながらフィルランカの話を聞いていた。
「ありがとう、フィルランカ。 これからは、いつでも誘ってくれ。 フィルランカと一緒なら、父が居なくても、外に出れると思う。 だから、これからは、一緒に行こう」
「ええ、一緒よ」
2人が、ほのぼのしているので、カンクヲンの店に入りそびれているカインクムは、やっと、話に決着がついたと思ったようだ。
「じゃあ、今度は、靴を買おう。 2人とも16歳だ。 もう、すぐに、サイズが合わなくなることもないだろうから、何でも好きな靴を選ぶといい」
そう言って、カンクヲンの店の扉を開ける。
そして2人の娘達を店の中に案内するのだった。
エルメアーナとフィルランカは、お互いの顔を見ると、スカートを少し摘んで、カインクムに会釈をすると、店の中に入っていった。




