ミルミヨルの考え
カインクムは、フィルランカと、エルメアーナに、それぞれ、ミルミヨルの店の服を買ってあげることになった。
ミルミヨルが、2人の服を選ぶのを手伝いに行く。
2人が、服を選んでいるのだが、そんなかで、フィルランカは、少し、申し訳ないような表情をしていた。
「ねえ、エルメアーナ。 これ一つでいいの?」
「うん。 私は、今までも、フィルランカの服を着せてもらえた。 これからも、フィルランカの服を貸して欲しい」
フィルランカは、エルメアーナが、少ししか服を持っていない、しかも、質素なものだけなのだ。
しかし、フィルランカは、ミルミヨルから宣伝のためにもらった服が、多くあったのだ。
それが、フィルランカには、申し訳なく思えていたのだ。
だが、今日、ここで、エルメアーナが服を買って外に出るようになったら、一緒に遊びに行けるなら、もっと、楽しいと思えたようだ。
「うん、いいんだけど、……。 エルメアーナは、家から出ないから、……。 これからは、一緒に、外に遊びに行きましょうよ」
「……。 そうだな」
エルメアーナは、少し、嫌そうな顔をする。
「そうだな。 フィルランカと一緒なら、いいかもしれない。 今日も、父が一緒だったから、出れたと思う。 今度は、フィルランカと一緒に出かけてみることにするよ」
エルメアーナには、何か思うところがあったようだ。
「フィルランカ、第3区画を出るときは、一緒に歩いてくれるか?」
「ええ、もちろんよ」
「第3区画を出るまで、私の歩く道順でかまわないか?」
「大丈夫よ」
そう言うと、フィルランカは、エルメアーナを抱きしめる。
エルメアーナは、一瞬、ビクッとするが、抱きしめてきたのが、フィルランカだと思うと、安心した。
「また、一緒に、この店に来ましょう。 そして、一緒に、食事をして、買い物して、色々と楽しみましょう」
「うん」
エルメアーナには、フィルランカの優しさが、心に染みたようだ。
2人の様子を見ていたミルミヨルは、本当に仲の良い姉妹のように思えた。
(本当に、仲が良さそうな2人なのね。 だったら、そうよね)
「2人とも、ちょっといいかな。 フィルランカちゃんの寸法は、分かっているけど、そっちの、あなたは、えーっと」
ミルミヨルは、エルメアーナの名前を聞いてなかったことに気がついた。
「エルメアーナ。 エルメアーナと言います」
「ありがとう、私は、ミルミヨルと言うのよ。 フィルランカちゃんの服は、私の店のものなのよ。 ねえ、エルメアーナちゃん。 あなたも、これからフィルランカちゃんと一緒に、遊びに出るのかなぁ」
エルメアーナは、少し困ったような表情をする。
「えっ、わた、私は、……。 多分、フィルランカと、一緒なら、出れる。 と、思う」
ミルミヨルは、エルメアーナをじっくり見て、それから、フィルランカをみる。
(フィルランカちゃんも、可愛かったけど、このカインクムさんの娘さんも、とても可愛いわね。 この2人が一緒に歩いていたら、……。 2人が、並んで、街を歩いて、お店に入る)
ミルミヨルは、2人が、この第5区画や第1区画を歩いている姿を想像している。
「うん。 やっぱり、いいわ」
(フィルランカちゃんの噂は、帝都の中では、ほとんど知られている。 それで、今は、16歳になって、とても綺麗になったわ。 それにこのエルメアーナちゃんも可愛いわ。 この時期の女の子は、化粧しなくても、肌もツヤツヤで、とても綺麗なのよね。 素肌が綺麗だから、すっぴんでも、本当に映えるのよね)
ミルミヨルは、2人を見て考えているのだが、思っていることが顔に出ているのだ。
フィルランカは、いつものことだと思ったようだが、エルメアーナは、少し引き気味である。
慣れてないミルミヨルの態度を見て、エルメアーナは、困ったような顔をしている。
「エルメアーナ、この人、何か考えているときは、いつもこんな感じなの。 あまり気にすることはないわよ。 その後、とても素敵な服を用意してくれるのよ」
フィルランカは、エルメアーナの耳元で囁く。
「そうなのか。 でも、ちょっと怖い」
2人が、内緒話をしていると、ミルミヨルは、閃いた様子で2人を見る。
「フィルランカちゃん。 学校に行くときに使う服を、私が作ることになったわ。 入学式の前日までに、家に持って行くわね。 今度は、カインクムさんにも許可をもらっているから、安心して」
「あ、ありがとうございます」
フィルランカは、ミルミヨルの笑顔が、その下に何か含んでいると思ったようだ。
それだけではないと思い、その後に何を言われるのだろうかと、フィルランカは、考えていた。
ミルミヨルは、2人に笑顔を向けている。
フィルランカは、付き合いが長い分、ミルミヨルが、何かを考えているだろうことはわかるのだ。
ただ、救いなのは、フィルランカが、嫌がるような事はしないことが救いだった。
時々、とても派手なものを用意されたりすることもある。
さすがに肌を晒すような、恥ずかしい服を着させられることはなかった。




