エルメアーナの反応
フィルランカは、いつものように、カインクムとエルメアーナのために、夕飯を作っている。
フィルランカが、住むことになった頃は、カインクムもエルメアーナも、フィルランカの料理には、目もくれず、ただ、ひたすら、鍛治に打ち込んでいて、夕飯時になっても来ることは無かったのだが、いつの頃からか、フィルランカの料理が出来上がる頃には、2人とも、鍛治仕事をやめてリビングに戻ってくるようになっていた。
料理が出来上がるまで、時間がかかる時は、お茶を用意してあげると、そのお茶を飲みながら、料理のできるのを、2人は待ってくれるようになった。
(よかった。 いつも、不規則だったけど、最近は、毎日、決まった時間に、リビングに集まってくれるわ)
フィルランカは、そんな2人の生活習慣が、嬉しく思っていた。
そんなフィルランカに、エルメアーナは、料理の匂いを嗅いでいるようなのだが、いつもと、何か違うように思っているようだ。
「なあ、フィルランカ。 今日の料理は、なんだか、匂いがいつもと違うように思えるのだが、何かあったのか?」
エルメアーナは、料理をしながら、ちょっと嬉しくなる。
「えー、そうかなぁ」
フィルランカは、食べさせてから、驚かそうと思って、とぼけた返事をする。
「エルメアーナ、お前も、そう思ったのか」
フィルランカは、そのカインクムの言葉に、心の中で喜んでいる。
「やっぱり、父も感じたか。 どうも、いつもの匂いと違うような気がする。 この匂いは、コーンスープだと思うんだけど、なんだか、ちょっと違うような気がするんだ」
「ああ、そうなんだ。 でも、この匂い、どこかでかいだ覚えがあるような気がするんだ」
料理をしているフィルランカは、ちょっと、ドキッとしたようだ。
(カインクムさんは、仕事の付き合いとかで、食べる事もあるから、私の料理の違いがわかってくれるかもしれない)
フィルランカは、黙って、料理を続けるのだが、カインクムとエルメアーナの話を、黙って聞いている。
だが、フィルランカは、料理をしながら、2人の話を聞いて、顔を綻ばせたり、真剣に聞き入ったりしていた。
「へーっ! 父は、料理なら、何でも食べるのかと思ってた」
「お前、俺が、家畜か何かと間違えてないか? 俺は、組合の付き合いもあるから、時々、いい店に入っているんだ。 料理の味なら、お前より詳しいぞ」
それを聞いて、エルメアーナは、キョトンとした表情をカインクムに向ける。
「なんだ、父。 そういう時は、酒ばかり飲んでいるんじゃないのか? 会合の時とかは、いつも、酔っ払って帰ってくるじゃないか。 あれだけ、酔っ払っていて、味なんか覚えられるのか?」
カインクムが付き合いで、外食した際は、飲んで帰ってくるので、料理を食べているとは、思えなかったのだろう、エルメアーナは、その時のことをカインクムに指摘する。
「バカをいうな。 大体、酒は、二次会の席で飲むものだ。 料理を食べる時は、料理に集中している。 俺を、ドワーフの酒飲みと一緒にするな」
「そうなのか」
「そうなんだ。 大体、食事の席の時は、仕事の話もする。 だから、誰もが、そんなに大酒を飲むことはない。 飲み過ぎていて、仕事を忘れてしまったら、相手に迷惑もかかるだろう」
「ふーん」
エルメアーナは、疑う様な表情で、カインクムを見る。
エルメアーナとしては、家に帰ってきたあとのカインクムを見るだけなので、カインクムの会合とは、酒を飲むために行なっていると思っていたのだ。
その酒を飲む前に、飲食をしているとは、思えなかったのだ。
「まあ、2軒目の酒場に行くと、かなり飲むからない。 帰ってきた時は、いい気分になっている時が多いのは事実だ」
少し反省気味にエルメアーナに言い訳の様に答える。
そんなカインクムとエルメアーナの親子の会話とは思えないような話が終わると、フィルランカが、料理を運び始めた。
「そろそろ、料理もできましたから、おしゃべりは、終わりにして、食べましょう」
フィルランカが、カインクム達にそう言うと、エルメアーナが、テーブルから立ち上がった。
「フィルランカ、料理を運ぶのを手伝う」
「ありがとう。 お願いするわね」
「ああ、フィルランカは、料理が上手だからな。 私にはできない料理をたくさん作ってくれる」
そういうと、フィルランカの持ってきた料理を、テーブルに並べ始める。
最初に持ってきた料理を、テーブルに置くと、エルメアーナとフィルランカが、台所に行き、次の料理を2人で仲良く運んでくる。
カインクムは、2人が仲良く料理を運ぶ姿を見て、和んでいる。
(俺は、よい娘を2人も持てて、幸せ者だ)
2人が、料理を運び終わると、席について、料理を食べ始める。
カインクムは、フィルランカのコーンスープを一口飲んで、表情を変えた。
エルメアーナは、いつもの塩だけで味付けしたコーンスープと違うことに驚いたようだ。
「フィルランカ。 これは、何なんだ。 いつものスープと違うぞ」
フィルランカは、エルメアーナに言われて、笑顔を向ける。
「エルメアーナったら、食事中に大きな声は、良くないわよ」
フィルランカは、嬉しいのだが、それを押し殺して、エルメアーナに注意をする。
「だって、いつものと、全く違うんだ。 何でなんだ。 とても美味しいぞ」
そう言って、エルメアーナは、スープにスプーンを運ぶ速度が、早くなり、口の周りにスープが垂れていた。
「ちょっと、エルメアーナったら、口元にスープがついているわよ。 そんなに慌てて飲まなくても、まだ、おかわりだってあるから、ゆっくり、飲んでね」
エルメアーナは、フィルランカに指摘されて、舌を出して口の周りを舐めるように、グルッと回す。
それでも、とれなかったスープを、手の甲で拭って、その手の甲を舐めていた。
「もう、エルメアーナったら、下品!」
「ああ、すまない。 でも、エルメアーナのスープを、一滴でも残したくないんだ。 とても美味しい!」
その言葉に、フィルランカは、喜ぶのだが、エルメアーナの下品な食事のとり方を見て、微妙な表情をする。
「エルメアーナったらぁ。 でもね、おかわりは、まだ、有るから、ゆっくり、味わって飲んでよ。 それに、ゆっくり、飲んだ方が、美味しさは、もっと味わえるわよ」
「うん。 そうだな。 美味しいと、早く飲んでしまうけど、そうなったら、この味を、味わえる時間が短くなってしまうのか」
「そうよ」
「わかった。 美味しいと思える時間を長くするんだな」
そう言うと、エルメアーナは、ゆっくりと飲むようにした。
そんなエルメアーナの反応を、フィルランカは、嬉しく思いつつ、カインクムを見る。
ただ、カインクムは、スープを飲みつつ、難しい顔をしていた。




