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スパイスの購入


 豆屋の店主は、声をかけても返事がないフィルランカが、心配になって、さっきより大きな声で、フィルランカに声をかける。


「フィルランカちゃん!」


 その声で、フィルランカは、自分がカウンターで、ブラックペッパーのガラス瓶を、夢中で眺めていたことで、豆屋の店主が呼びかけていたことに気が付かずにいたが、2度目の呼びかけで、自分を呼んでいることに気がついた。


「ああ、すみません。 思わず、見入ってしまいました」


「ああ、でも、何だか、恋人に料理を作ったときのことを考えていたようだったよ」


 豆屋の店主は、フィルランカが、自分の呼びかけにも気づかずに、ブラックペッパーのガラス瓶を見ていたのを見て、思わず口にしてしまった言葉なのだが、フィルランカには図星をつかれてしまったようだった。


(えっ! ええーっ! 私の思いが、この人に伝わっってしまったのかしら。 えっ! ええーっ! ど、どう、しましょう)


 その豆屋の店主の言葉に、フィルランカは、耳まで赤くしてしまった。


 フィルランカが思っている、カインクムのことを、見抜かれてしまったのかと思ったようだ。


 慌てて、フィルランカは、顔を両手で覆って、言い訳をした。


「そっ、そんなんじゃありません。 私は、2人のために、料理を作りたいと思っただけです」


 フィルランカの言った、2人とは、カインクムとエルメアーナのことなのだが、フィルランカの思いには、別の意味もあったのだ。


 そんなフィルランカの思いは、豆屋の店主には、分からなかった。


「そうなのかい。 それで、このブラックペッパーは、どうする」


 その言葉にフィルランカの顔が、真剣な表情に変わって、顔を、ブラックペッパーのガラス瓶の上に持っていき、豆屋の店主を見る。


「欲しいです。 これ、おいくらですか?」


 そのフィルランカの真剣な表情に、豆屋の店主は、驚いてしまった。


「あ、ああ、これは、このガラス瓶1つが、200グラムだから、これ1瓶で、中銀貨1枚になる」


 それを聞いて、フィルランカは、がっかりする。


 自分の買える価格を、遥かに上回っている。


 そのフィルランカの様子を見て、豆屋の店主は、自分の言った話の内容が足りなかったと思ったようだ。


「ああ、フィルランカちゃん。 その価格は、このガラス瓶全部の値段だからね。 でも、これを1瓶、丸々、買える人なんて、貴族か商人だけなんだよ」


 それを聞いて、フィルランカは、納得する。


(そうよね。 こんな高価なものを、買える人は限られているわね)


 フィルランカは、この第3区画の一般臣民が入るような店に何で、こんな高価なスパイスが、置いてあるのか気になったようだ。


 そんなフィルランカの様子を見つつ、豆屋の店主は、話を続ける。


「このスパイスだけど、バラうりもできるよ。 フィルランカちゃんが、一度に使う量なら、1グラムか2グラム程度だからな。 1グラムだと銅貨5枚になるよ」


 それを聞いて、フィルランカは、自分に買える金額だと分かった。


 すると、すぐに、ポケットの中の、皮袋の財布を握りしめる。


「わかりました。 それを2グラム、売ってください!」


 そう言って、財布の中から、中銅貨1枚を出すと、カウンターの上に音がするほどの勢いで、その中銅貨1枚を置いた。


 フィルランカは、自分の買える金額だと分かると、すぐに購入を決めてしまったのだ。




 フィルランカの表情と、カウンターに置いた中銅貨1枚の音を聞いて、その勢いに、豆屋の店主は驚いた。


 鬼気迫るような勢いに、驚いてしまった、豆屋の店主は、フィルランカの、その勢いに、のまれてしまったのだ。


「ま、まいど、ありがとう、ございます」


 気圧された様子で、豆屋の店主は、答えると、スプーンで3杯分を、小さな、木で出来た瓶ににつめると、フィルランカに渡す。


「スプーン3杯だから、3グラムは有る。 それと、この木の瓶は、おまけだ。 次に欲しい時は、この瓶を持ってきてくれ」


 それを聞いてフィルランカは喜んだ。


 1グラムもおまけしてもらって、なおかつ、入れ物まで、つけてもらったのだ。


「よろしいのですか?」


 豆屋の店主も、フィルランカが、花嫁修行のために、飲食店を食べ歩いている噂は聞いている。


 そして、そのために、第5区画の店で、着る物を用意して、髪までセットして、向かったことを聞いていた。


 最近では、第1区画の店に行っても、どの店からも入店を断られることなく、テーブルマナーもしっかりした少女という噂まで流れているのだ。


 豆屋の店主としても、そんなフィルランカを快く思っていたのだ。


「これは、フィルランカちゃんの、未来の旦那さんのためだからね。 フィルランカちゃんが、どんな人のお嫁さんになるのか、楽しみにしているよ」


 それを聞いて、フィルランカは、耳まで真っ赤にして俯いてしまった。


(私は、カインクムさんのお嫁さんになるのだから、そのために料理を覚えているのよ。 でも、そんな事、言えない)


 そのフィルランカの恥ずかしそうな態度を見て、豆屋の店主は、悪い事を言ってしまったと思ったようだ。


 店主は、言い訳するように、フィルランカに話しかける。


「ああ、フィルランカちゃんは、うちの店の豆もよく買ってくれるからな。 いつも贔屓にしてくれるから、そのお礼だよ。 スパイスは、フィルランカちゃんが、欲しがっているって聞いたから、仕入れておいたんだよ。 これからも、よろしく頼むよ」


 フィルランカは、少し気持ちも落ち着いたようだ。


「あ、ありがとうございます」


 フィルランカは、小さな声で、お礼を言って、深々と頭を下げた。


 そして、お店の豆も少し買った。


(スパイスは、高かったけど、中銅貨1枚と銅貨5枚分が、中銅貨1枚で買えたのは、ありがたかったわ。 これで、スパイスを使った料理も出せるわ)


 フィルランカは、値段は高いけど、購入することができたことで、カインクムに喜んでもらえると思い、ニコニコしながら家に帰っていった。


 フィルランカには、カインクムが、どんな様子で喜んでくれるのか気になってしまい、その様子を想像してしまうと、笑いが止まらなかったのだ。


 そんなフィルランカを、何人もの人が、目撃しており、その嬉しそうなフィルランカの理由が何なのかをめぐって、話のネタにされていた。


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