宣伝の便乗
今のフィルランカの答えと、ティナミムの、やりとりを聞いて、ミルミヨルは、フィルランカの顔を上から覗き込む様にする。
「フィルランカちゃん。 お金は、カインクムさんから、もらったのよね」
「はい、いつも食事を作ってくれるから。 毎月、いただいているんです」
その話を聞いていた、ティナミムは、何か、心当たりが有ったようだ。
「ミルミヨル。 その子、第3区画のお店を食べ歩いているって言ったな」
ミルミヨルは、ニヤリと笑うと、満面の笑顔を作った。
「ええ、言ったわよ」
「カインクムって、第3区画の、鍛冶屋のカインクムの事だよね」
「そうよ」
ミルミヨルは、面白がっているのだ。
「カインクム。 食べ歩きの少女。 フィルランカ。 ……」
そう呟くと、フィルランカの顔をジーッと見る。
「ミルミヨル。 お前、ひょっとして、噂の食べ歩き少女を、うちの店に連れてきたのか?」
ミルミヨルは、満面の笑みのまま、ティナミムを見る。
「御名答!」
それを聞いて、更にティナミムは、考え込んでいた。
「ミルミヨル、お前、フィルランカを使って、宣伝しようとしてないか?」
「ええ、この服は、私が無償提供してます。 それに、カンクヲンさんも、便乗してます」
ミルミヨルが、満面の笑みを讃えて見て、尚且つ、カンクヲンも便乗していると言った事で、ミルミヨルの考えていることが分かった様だ。
「なる程、今の話に、私にも一枚噛ませたいんだな」
「はい、おっしゃる通りです」
ティナミムは、全てが理解できた様子で、右手を額に当てていた。
「なるほど、そういう事だったのか」
「ええ、フィルランカちゃんなら、とても有名ですから、丁度いいかと思ったんです」
ミルミヨルは、笑いを堪えている。
「全くぅ、だったら、最初から、そう言えばいいだろ」
少し膨れた様子で、ミルミヨルに言う。
「フィルランカちゃん。 私は、ティナミム。 髪の毛のセットは、ティナミムさんのお店でセットしてもらったって言える?」
「はい、髪の毛のセットは、ティナミムさんのお店でセットしてもらいました」
ティナミムは、笑顔になって、フィルランカに歩み寄った。
「そう、ちゃんと言えるなら、私があなたの髪を綺麗にセットしてあげる。 誰かに聞かれたら、必ずそう言うのよ」
「はい」
フィルランカは、また、驚いていた。
服と靴だけでなく、髪の毛まで、なんとかなってしまいそうなので、驚いているのだ。
「じゃあ、あの椅子に座ってくれるかな」
ティナミムが、壁際の椅子を指差す。
フィルランカは、困った様な表情だが、言われて、頷くと、ティナミムが、フィルランカの手を取って、椅子の方に促すと、フィルランカは、それに釣られて椅子の方に歩いていく。
ティナミムは、フィルランカを椅子に座らせると、フィルランカの髪の毛を触りだす。
「うーん。 毛先が痛んでいるわね。 フィルランカちゃん、髪の毛のブラシは持っている?」
ティナミムに話しかけられると、フィルランカは、首を横に振って、持ってない事を伝えた。
「わかったわ。 とりあえず、髪の毛を少し切って、揃えてあげるわね。 それと後で髪の毛のブラッシングを教えてあげる」
そう言うと、ティナミムは、ハサミとクシで、フィルランカの髪の痛んだところを切り始めた。
クシが通る様になると、先を整える。
「前髪は、短くして、眉毛が隠れる程度にしてあげる。 簡単に終わらすなら、横に真っ直ぐ切るのだけど、可愛く見せたいから、弓形にするわね」
ティナミムは、そう言うと、フィルランカの、長く伸ばしていた前髪を前に垂らすと、その髪を切っていった。
前髪をキメると、後ろの髪をとかしながら、眺めている。
「うん。 縦ロールとか、手の込んだ髪にしたいけど、それだと、毎日の手入れが大変になってしまうわね」
フィルランカに話しかけているのか、自分に言い聞かせているのか、微妙な話し方をティナミムが声に出したので、フィルランカは、どう答えて良いのかと困った様子をしている。
「そうね。 毎日の手入れは、ブラシだけの方がいいわね」
そう言うと、肩甲骨の辺りまで伸びている髪の毛は、そのまま、丁寧に先を揃えるだけにした。
「はい、おしまい」
ティナミムは、手鏡を取って、壁の鏡に映るように、フィルランカの後ろ髪を見せてあげた。
フィルランカは、いつも、洗っただけの髪なので、いつもボサボサだったのだが、ティナミムにセットしてもらって、ストレートの髪がとても綺麗に見えた。
その自分の髪を見て、フィルランカは、不安が一気に解消したかの様な笑顔になった。
「ありがとうございます。 とても綺麗です。 私の髪の毛がこんなに綺麗になるとは思いませんでした」
そう言って頭を少しうごかいながら、自分の後ろ髪を壁の鏡越しに見ていた。
「あと、誰かに聞かれたら?」
「はい、髪の毛は、ティナミムさんのお店でセットしてもらいました」
フィルランカが、髪の毛をセットする前に聞いていた事を、しっかり、覚えていてくれたと、ティナミムも喜んだ。
「はい。 その通りよ」
(うん。 ミルミヨルったら、本当に、いいお客さんを連れてきてくれたわ)
後ろの席に座っているミルミヨルを見ると、ミルミヨルもティナミムに笑顔を返してくれた。
2人の、いや、3人の思惑は、全て完遂したのだ。
あとは、フィルランカが、話を聞かれた人に、しっかりと、宣伝してくれるだけになった。




