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初めて履く革の靴


 靴屋の主人は、持ってきた靴をフィルランカに見せる。


 その靴を見てフィルランカは、うっとりとして眺めていた。


 今までは、木靴を履いていたので、足に対してかなりゆるいので、足よりも大きくできていた。


 でも、革でできている靴は、見るからに弾力があって、足に馴染むように見えた。


 しかし、靴屋の主人は、少し不満そうな表情をしていた。


「本当は、ハイヒールを履かせたいのだけど、今まで、木靴だったなら、踵は少しだけ高いのにした。 膝下までのドレスなら、足首もよく見えるから、本当なら、ハイヒールだと、足首のあたりが細く見えるけど、慣れないと転んだりするからな。 今は、ハイヒールに慣れるため、少しだけ、踵の高い靴だ。 慣れてきたら、ハイヒールを履かせてあげるよ」


 靴屋の主人は、言い訳をするように話ながら、フィルランカに靴を履かせてあげた。


 その靴は、フィルランカの足を優しく包むようだった。


 ピッタリと足を包み込んでいるが、締め付けるような事はない。


 フィルランカは、椅子に座った状態で、つま先を上げたり踵を上げたりして、馴染みを確認する。


「ほーっ、良さそうだな。 じゃあ、立ち上がって歩いてみようか」


 フィルランカは、ゆっくりと立ち上がる。


 ハイヒールとは言わないが、今までの木靴より、3センチ程、踵が高いので、立ち上がった時に違和感を覚えたように、少しよろけるが、直ぐに持ち直す。


「うん。 いい感じだ。 立ち姿もいい。 少し歩いてごらん。 少しつま先を伸ばすように歩くんだ」


 フィルランカは、立ち上がった時は、下を見ながら立ち上がったので、気がつかなかったのだが、歩けと言われて前を見ると、高々、3センチ、踵が高くなっただけだが、目の前に広がる景色がいつもと違うように思えた。


 言われた通り、つま先を前に出すように意識して歩くのだが、慣れないせいか、少しよろけた。


「フィルランカちゃん。 頭の天辺を上に上げるように意識して歩いてごらん」


 靴屋の主人に言われて、そのようにすると、フィルランカの姿勢が良くなり、歩く姿もようになっていた。


「おおーぉ」


 その姿を見て、ミルミヨルは思わず声を上げた。


「どうだ? 景色が変わって見えないか?」


 フィルランカは、靴屋の主人に聞かれて、嬉しそうにする。


「ええ、なんだかいつもと違います。 遠くまでよく見えるような気がします」


「靴だって、その人に合ったものを履くと、姿勢も良くなるんだ。 今までの木靴だと少し無理があったみたいだから、そのせいで、少し姿勢も悪かったみたいだからな。 それでだろう」


「ありがとうございます。 とても気に入りました。 それで、この靴はいくらになりますか?」


 フィルランカは、ミルミヨルの店の時と違い、元気に聞いた。


「ああ、これは、フィルランカちゃんに履いて貰うために用意したんだ。 ミルミヨルと同じで、聞かれた時に、服は、ミルミヨルの店で、靴はここで買ったと答えてくれればいい」


「えっ! 本当ですか?」


「おい、それじゃあ、私の店のついでみたいじゃないか」


「おお、そういえば、店の名前を言って無かったな」


「いえ、店に入ってくる時に看板を見ました。 カンクヲンさんのお店で靴を買ったと言います。 それとご主人は、人の足を見ただけで、ぴったりの靴を選んでくれる事も、しっかり伝えます」


 フィルランカは、嬉しそうに答えた。


「チェッ! なんだか、カンクヲンさんの靴の為に、私がドレスを用意したみたいじゃないか」


 ミルミヨルは、少し不満そうに呟く。


「いえ、そんな事はありませんよ。 この靴とドレスのおかげで、気持ちまで、何だか凄く良くなったのですよ」


 そう言って、フィルランカは、クルリと回って、ドレスの裾を広げて見せた。


 しかし、慣れないことをしてしまったので、足がもつれる。


「キャッ!」


 そう言って、ひっくり返って、背中から床に倒れて、頭を床にぶつけた。


 慌てて、2人は、フィルランカの両脇にしゃがみ込むとフィルランカを起こしてあげる。


 その際にミルミヨルは、捲れ上がったスカートの裾を、フィルランカに分からないように戻してあげていた。


「大丈夫かい、フィルランカちゃん。 慣れない事をするから」


「意外と、おっちょこちょいのところがあるのね」


 2人は、フィルランカに話しかけつつ、体を起こしてあげる。


「はい、大丈夫です。 ありがとうございます」


 そう言って、2人にお礼を言う。


 すると、ミルミヨルとカンクヲンは、お互いに顔を見合わせた。


「ミルミヨル。 婆さんにちゃんと、頼んでおいただろうな」


「大丈夫です。 抜かりはありません」


「そうか、だったら安心だ」


 カンクヲンは、そう言うと、フィルランカを真剣な目で見る。


「フィルランカちゃん。 この後は、もう一度、ミルミヨルの店で着替えをしなさい」


「はい」


 フィルランカは、カンクヲンがなんでそんな事を言うのか不思議そうに見た。


「じゃあ、ミルミヨル。 後はお前に任せた」


 そう言って、フィルランカを立たせると、店を追い出すように送り返した。


 フィルランカは、何で転んだ後にカンクヲンの態度が変わったのか不思議に思ったのだが、ミルミヨルの態度も少し違うので、それ以上の話はせずに、ミルミヨルの店に戻っていった。


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