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値段と宣伝


 フィルランカは、第1区画の飲食店に入るためとはいえ、中銅貨2枚も出して服を買う事に戸惑ってしまっている。


「お話は、よく分かりました。 でも、流石に中銅貨2枚もかけてまで、第1区画のお店に入ろうとは思いませんから、別のもう少し、値段の安い服にしたいと思います」


 フィルランカは、本音でミルミヨルに話をした。


 しかし、ミルミヨルには、そうは聞こえて無かった。


(この子、赤字なんて言葉を知っていただけあって、商売上手なのね。 しかも、値引きして欲しいとは言わずに、違う服にと言ってきた。 他の服でも良いけど、フィルランカの良さを出すなら、この服、それに、私のオリジナルデザインなんだから、この噂のフィルランカに着てもらう価値は大きいわ。 何としても、フィルランカに着てもらって街を歩いてもらわないと価値が出ないわ)


 ミルミヨルは、悩んだ表情をする。


「うーん、じゃあ、中銅貨1枚と、銅貨5枚でどうかしら、あなたの宣伝費用を中銅貨3枚と銅貨5枚になるのよ。 いい話だと思わない」


「うーん」


 フィルランカは、唸るだけで、困った様子で考えている。


 フィルランカにしたら、安くなった銅貨5枚分で、どれだけのお店の料理を食べられるのかを考えていたのだが、ミルミヨルには、そうは見られなかった。


(あーっ! きっと、彼女は、自分の噂の価値を、私の服とで、天秤にかけているのね。 そうよね。 女の私から見ても、こんな、健気なフィルランカなら、嫁に欲しいわよ。 男から見たら、可愛いも含まれているから、年頃になったら、引く手数多よね)


「分かった。 フィルランカさん。 中銅貨1枚なら、どうでしょうか?」


「へっ!」


 フィルランカは純粋に驚いた。


 何で、そんなに値引きしてくれるのか、理解できなかったのだ。


 中銅貨5枚が、中銅貨1枚まで値引きされているのだから、驚いて言葉が出なかったのだ。


 中銅貨1枚の値引きで、買値が中銅貨4枚ならフィルランカも理解できるのだが、そうではないのだ。


 何で、そんなに値引きしてくれるのか、理由が分からないのだ。


 そんな、キョトンとしているフィルランカを見て、困ったのは、ミルミヨルの方だった。


(えっ! これでもダメなのか。 この子、本当に商売上手なのね。 この宣伝の話をした時点で、服代は、タダでって事を言いたかったのよね。 あーっ、私ったら、目先の欲に目が眩んでしまったみたいだわ)


「分かったわ。 お代はいらないわ」


「えっ、ええーっ!」


 ミルミヨルの無料にすると言う言葉に、フィルランカは驚いてしまった。


(えっ! 何で? 何でなの? お代はいらないって、タダよ。 何でタダになっちゃうのよ)


「あなたにウチの店の宣伝をしてもらうのだから、その服は、あなたに提供するわ」


 ミルミヨルは諦めたように言う。


 フィルランカは、開いた口が閉まらないでいる。


 フィルランカには、どうしてタダになるのか、意味がわからなかったのだ。


 しかし、ミルミヨルには、フィルランカの真意は、異なった形で伝わったようだ。


「お願い。 その服を着て下さい。 それで、聞かれた人には、ミルミヨルの店で買ったと言って欲しいのよ」


 ここまで来ると、ミルミヨルは懇願してきた。


 フィルランカとしたら、値切り交渉をしたわけではないのだが、気が付いたら、中銅貨5枚の服が、中銅貨2枚から、タダにまで下がってしまった事に驚いたのだが、今度は、着てくれと懇願されてしまった事に、さらに驚いてしまったのだ。


「は、はい。 わ、わかりました」


 フィルランカとしたら、この服を着て街を歩いていて、聞かれたら、ミルミヨルの店で買ったと言うだけならと思い、その提案を了解した。


「本当! ありがとう。 フィルランカさん、本当にありがとう」


 ミルミヨルが、フィルランカが、了解してくれた事が本当に嬉しかったのだろう。


 心の底から感謝が滲み出ているとフィルランカは感じたのだろう。


 しかし、フィルランカには少し怖さもあったせいで、一歩後ろに下がった。


 一歩後ろに下がった事で、残った足が服の裾から出て、その靴がミルミヨルの目に止まった。


「あっ! フィルランカさん」


 そう言うと、今度は真顔で、ミルミヨルは、フィルランカを見た。




 ブティックのミルミヨルは、フィルランカの靴を見て困った様子をするのだった。


「フィルランカさん。 申し訳ないけど、私の用意した服だけでは、第1区画のお店に入る事はできないわ」


 ミルミヨルの言葉に、フィルランカは唖然とし、そして、その理由を聞かなくてはいけないと思い、聞き返してしまう。


「ええーっ! どうしてなのですか? 着る物さえしっかりしていたら、何とかなるんじゃないですか?」


 フィルランカは、ミルミヨルに食ってかかった。




 中銅貨5枚の服でも、第1区画の店には入れないのかと思うと、納得出来ない様子だ。


「ああ、服なら、今の服で大丈夫なの。 でもね、その靴はダメよ。 ああいった、第1区画に入るお客様を値踏みする時って、服だけじゃなくて、身につけている物、全てに対してチェックが入るのよ。 着ている服の次にチェックが厳しいのは、靴なのよ。 きっと、その靴を見たら、また、断られるわ」


 フィルランカは、ミルミヨルの話を聞いて、ガッカリする。


 服を用意できると思ったら、今度は、靴がダメと言われた。


「私の服は、さっき言った通りタダでいいから、お隣の靴屋さんで靴を買って行きなさい。 その靴を履いて、……。  そうね。 あとは、髪型かしら、髪は綺麗だから、第1区画のお店に行くときは、セットしていった方イイわね。 髪の毛を束ねたりとかでも構わないから、綺麗にセットしてから、お店に向かいなさい」


 フィルランカは、髪の毛は洗っているのだが、綺麗にセットと言われてもピンとこない。


 洗いざらしの髪で、ブラシをかける事もなかった。


「あのね、髪の毛は、綺麗にブラッシングして、揃えてあげるのよ。 それから、髪留めとかで、髪の毛を止めたりするのよ」


 それでもフィルランカは、ピンとこないようだった。


 それを見た、ミルミヨルは、意を結したようにすると、店の奥に声をかける。


「母さん。 ちょっと出かけてくるから、店番お願いね!」


「ああ、分かった。 でも、なるべく早く帰ってきておくれ」


 店の奥から、声がした。


「じゃあ、フィルランカさん。 今から、あちこちのお店に連れて行ってあげる」


「えっ!」


 フィルランカは、驚いた。


 ミルミヨルが、何でそこまでしてくれるのか、理解できないのだ。


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