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孤児院との話し合い


 カインクムは、隣の孤児院を訪れる。


 フィルランカの事について、孤児院に了解を取るためだ。


「カインクムさん、いらっしゃい。 今日は、どのようなご用件でしょうか?」


 孤児院のシスターは、恐る恐るカインクムに話しかけた。


 孤児院は、寄付に頼った経営をしているので、資金的な余裕が無く、子供達に満足な生活を営ませているわけではない。


 そんな孤児が、街に出ては、時々、食べ物を盗んだりして、苦情を言われたりする事があった。


 カインクムは、孤児院の横に店を構えているので、孤児院の子供の声がうるさいとかの苦情かと思っているのだ。


「ああ、シスター。 今日は、お願いがあって来たんです」


「お願い、ですか」


 シスターは、思っていた苦情なのかと思ったのだが、少し様子が違うように思えたようだ。


 だが、お願いと、言うなら、苦情ではなくとも、苦情に近い事なのかと思っているのだろう、シスターには、まだ、不安が残っているようだ。


 カインクムは、シスターが警戒している様子を見て、はっきり、説明する必要があると思ったようだ。


「実は、フィルランカの事なんだが、彼女を学校に通わせたいんだ。 もちろん、学費は、俺の方で支払う」


 そこまで聞くと、シスターは、ホッとしたようだ。


 最初は、フィルランカが、カインクムの店で、何か、やらかしたのかと思ったのだ。


「それは、どういう事なんでしょうか?」


「フィルランカは、うちのエルメアーナと仲が良い。 フィルランカがここを出た後、うちの店で働いて欲しいと思っている。 エルメアーナは、最近、学校に行かず、鍛治仕事をするだけだ。 これから先の事を考えたら、エルメアーナが鍛治仕事をしている間、店番を任せられる人が居れば助かる」


 そう言って、カインクムは、シスターの様子を伺っている。


 シスターは、フィルランカの未来につながる事だと分かると、安心した様子でカインクムの話を聞いてくれていた。


「フィルランカは、時々、遊びに来た時、店にも顔を出してくれてた。 冒険者とも普通に話もしてた。 それにうちの店の商品の値段も、すぐに把握してしまったし、飲み込みも早い。 エルメアーナが、学校に通っていたときは、夕方、遊びに来てはエルメアーナから学校の授業内容を聞いて覚えていた。 物覚えも早そうだから、成人後は、うちの店で雇いたいと思っている」


 そこまで聞くと、シスターの表情も明るくなった。


 孤児院を出た後の女子が生きる道は、限られているのだが、そんな中で、まともな職業につけるならありがたい話だとシスターは思ったようだ。


「まあ、そうだったのですか。 あの子、魔法適性があったから、そっちの方にと思ってたのですけど、物覚えが悪いとかで、魔法学校から戻されてしまったので、心配してたのですけど、そう言う事なら、ぜひ、お願いしたいと思います」


 カインクムは、第一関門を通過したと思うと、ホッとした。


「ただ、フィルランカだけというのは、他の孤児からしたら、羨ましい話になってしまいます」


 孤児は、生まれて間もない子供を育てられないと思った親が、孤児院に置いていく事が多い。


 ましてや、孤児院から孤児を引き取ってくれる人は少ないので、孤児院は、年々、孤児が増える傾向にある。


 寄付と、微々たる補助金によって、運営しているので、できる事なら、すぐにフィルランカを引き取ってもらえると助かるのだ。


「孤児院の中で、フィルランカだけが、学校に行くとなると、周りの子供達から、イジメを受ける可能性もあります」


 シスターの話を聞いて、カインクムも、有りそうな話だと思ったようだ。


「つきましては、フィルランカを養女として、カインクムさんの所に置いてもらえないでしょうか?」


 その話には、カインクムも納得する。


 2階に倉庫がわりにしてある部屋を思い出すと、そこを使っても良いのかとカインクムは考える。


(あの部屋か。 あそこは、人の住める状態じゃないな。 ちゃんと改装してやらないと使えそうもないな)


「シスター。 すまないが、今直ぐにフィルランカを受け入れる事はできない。 部屋を用意してないんだ。 改装して、人の住める部屋にしてあげないと、フィルランカが可哀想だ。 エルメアーナと姉妹と考えるなら、エルメアーナと同じにしてあげたい。 エルメアーナが上でフィルランカが下のような格付けはしたくないんだ」


「もったいない、お言葉です。 フィルランカも良い人に巡り会えた事を、感謝いたします」


「それじゃあ、フィルランカを引き取るのは、こっちの準備が出来てからでも構わないか?」


 そう言われて、シスターは、少し表情を変えた。


 このような話は、後で、ひっくり返ってしまい、無かった事にされることもある。


 ましてや、フィルランカは、物心ついた時から、エルメアーナと遊び、毎日のようにカインクムの家に行っているのなら、フィルランカが嫌がる事は無いとシスターは考えている。


 このまま、早めに話を決めてしまった方が、1人でも、新たな道に進ませて、孤児の数を減らしたいのだ。


「できましたら、1日でも早く、フィルランカを新しい道に進ませてあげたいのです。 それに、学校へ通わせるなら、養女にした方が、何かと便利だと思います」


「そうですか」


 それを聞いて、カインクムは、昨日の事を思い出した。


 エルメアーナは、今直ぐにでもフィルランカと、一緒に住みたいと言っていたことを思い出す。


(エルメアーナもフィルランカも、10歳か。 部屋が用意できるまで、一緒の部屋でも構わないのかもしれないな)


「わかりました。 それなら、フィルランカは、養女として、うちで引き取らせてもらおう。 しばらくは、エルメアーナと一緒の部屋に住んでもらいますが、倉庫の改装が終わったら、フィルランカにも部屋を持たせます」


「ありがとうございます」


 シスターは、ホッとした様子で、カインクムにお礼を言い、頭を下げた。


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