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フィルランカの意思


 ただ、そんなフィルランカの涙を見て慌てたのが、カインクムだった。


 カインクムは、酷いことを言った覚えが無いのに、目の前で、ケーキを見ながら泣き出してしまったフィルランカを見て、オドオドとしている。


「あっ、ああ、すまなかった。 そんなに今の話が嫌だったなら、謝るよ」


「ううん、違うん、です。 いやじゃ、ない」


 違うと言われても、泣いているフィルランカは、泣き止む様子が無い。


「う、嬉しい、嬉しいんです」


「嬉しい?」


 泣いているのに、嬉しいと言われて、カインクムは、どう対応して良いのか困っている。


「私、孤児院を出たら、その後のことを考えると、一緒に居た姉様たちを、頼るしかないかと思ってたんです」


「姉様」


 カインクムは、フィルランカの口から姉様と聞いて、大凡の事が分かったようだ。


 孤児院を出た後の少女達の行き先の大半は、娼館に身を寄せていたのだ。


 その姉様達から、自分たちがどんな事をしているのかを、フィルランカは、聞いていたのだろうと、カインクムは、考えたようだ。


「そうか。 そうだな。 うちは、エルメアーナと2人だけだ。 フィルランカ、お前が家に来る事になっても問題は無い。 娘が2人になっただけだ。 エルメアーナに良い姉妹が増えたと思えば良いだけなんだ」


 カインクムは、エルメアーナの未来の為に、フィルランカが助けてくれたら、それで良いのだ。


「店番となったら、読み書きや計算も出来て欲しいんだ。 その為に、フィルランカが、学校に行って勉強してもらえたら、エルメアーナの役に立ってもらえるんだ」


 それを聞いても、フィルランカの涙は止まらない。


「俺が、フィルランカを学校に行かせる条件は、孤児院を出た後に、住み込みでここで働いてもらって、エルメアーナを助けてもらいたいだけなんだ」


 それを聞くと、フィルランカは、声を出して泣き出してしまった。


 流石に、カインクムも、それには、驚いたようだ。


 どうしようかと困っていると、そこに、エルメアーナが、フィルランカの泣き声を聞いて、リビングに入ってきた。




 エルメアーナは、テーブルを挟んで、慌てたカインクムが、フィルランカを見てどうしようかと、困っている姿と、その前で、泣いているフィルランカを交互に見る。


「父! お前、フィルランカに、何をした!」


 カインクムは、エルメアーナの声に驚いて、その方向を見る。


「あっ、いや、そのー」


 カインクムが困っていると、エルメアーナは、ズカズカと歩いて、カインクムの所に行くと、テーブルに片手をドンと叩きつける。


「フィルランカは、なんで泣いている。 父! お前は、フィルランカに何をした!」


 怒り狂った様子で、エルメアーナは、カインクムに詰め寄った。


「いや、フィルランカに学校に行かないかと、聞いただけなんだ」


 エルメアーナは、それで、何でフィルランカが泣いたのか、意味が分からなかったようだ。


「学校? 学校に行けないフィルランカに、何でそんな事を言った!」


「いや、学校の費用は、俺が出すと言った」


 カインクムが、フィルランカに、学費を出すから学校に行かないかと言ったことは、エルメアーナにも分かったみたいだ。


「じゃあ、何で、フィルランカが泣いている! それだけじゃないだろう! 父! フィルランカに何をした!」


 エルメアーナの剣幕に、カインクムも圧倒されている。


「ああ、その後、卒業したら、ここで住み込みで、お前の手伝いをして欲しいと頼んだ、」


 だが、エルメアーナには、フィルランカが泣いている理由には繋がらないのだ。


「じゃあ、フィルランカは、何で泣いているんだ! 父!」


「それが、俺にも、よく分からないんだ」


 その答えに、エルメアーナは、頭に血が上ったようだ。


「父、そんな事で、フィルランカが泣くかぁ!」


 そう言って、テーブルの上に置いた手と反対側の手を上にあげる。


「待って! エルメアーナ!」


 エルメアーナが、リビングに入ってきてから、泣き続けていたフィルランカが、初めて声をかけた。


 その声でエルメアーナが振り下ろそうとしていた手が止まる。


「違うの。 おじさんは、何もしてない。 私が泣いたのは、おじさんの話が、嬉しかったからなの」


「何?」


 エルメアーナは、振り上げた手を下ろすと、フィルランカを見る。


「じゃあ、何で、泣いている」


 フィルランカは、涙を拭う。


 エルメアーナも、フィルランカの様子から、カインクムが、フィルランカに何かをしたのでは無いと思ったようだ。


 エルメアーナは、フィルランカの横の椅子に座ると、フィルランカの背中をさする。


 フィルランカは、落ち着くと、エルメアーナに、今までの話を始めた。


 エルメアーナは、話を聞き終わると、カインクムに向く。


「フィルランカを学校に入れるのと、卒業後に家に住み込みで働く件は、私も賛成だ。 エルメアーナだったら、私も安心できる。 だが、私が学校に行くようになるかは、別の話だ」


「そうか」


 カインクムは、誤解が解けてホッとする。


「そうだ。 ケーキは、まだ、有る。 エルメアーナ、お前も食べるか?」


「当たり前だ。 ケーキが有るなら、私も先に呼べ。 3人でこうやって話していたら、誤解もなかった」


 カインクムは、学校に行かなかくなったエルメアーナにも学校に行かせることも考えていたので、3人で話すわけには、いかなかったのだ。


 フィルランカに協力してもらって、一緒に学校に行こうと誘ってもらおうと思っていたのだから、エルメアーナに話をするわけにはいかなかったのだ。


「ああ、すまなかった」


 そう言って、カインクムは、買ってきたケーキを、不慣れな手つきでエルメアーナにも出す。


 エルメアーナもケーキを一口食べると、フィルランカに聞く。


「フィルランカ。 それで、お前は、どうするのだ。 父に学費を出してもらって、学校に行くのか?」


 フィルランカは、答えに困っていた。


 カインクムの申し出は、とても嬉しいことなのだ、それに、卒業後に住み込みでこの家で働けるというのは、とてもありがたい。


 エルメアーナも賛成してくれており、何の障害も無いのだ。


「あの、私は、そんなに幸せな暮らしをしても構わないのですか? 私は、孤児なのだから、孤児に相応しい未来しか無いのでは無いですか?」


 カインクムは、今のフィルランカの言葉から、遠慮が見えたようだ。


「構わない。 私が、フィルランカと一緒にいたい。 何なら、今日からでも一緒に暮らしたい。 私の友達が、一緒に、これからもずーっと一緒だと思ったら、こんな嬉しい事はない」


 エルメアーナの言葉に、フィルランカは、また、泣き出してしまう。


「泣くな。 フィルランカ。 私たちは、いつまでも友達だ。 だから、一緒にいてくれ」


 それを聞いてフィルランカは、顔を手で覆いながら頷いた。


「私、学校に、行きたい」


 泣きながら、フィルランカは、答えた。


「父! フィルランカの了解は取れた。 後の事は、父が、何とかしろ」


 そう言うと、エルメアーナは、フィルランカを連れて、自分の部屋に言ってしまった。


 1人リビングに残されたカインクムは、疲れが一度に来たようだ。


 疲れた表情をして、天井を見上げた。


「これで、エルメアーナに未来ができた」


 カインクムは、ホッと一息ついた。


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