孤児フィルランカ
カインクムは、ジュエルイアンの勧めで、現在の商店街に移動してきている。
今の店に移転する前は、帝都の第3区画に住んでいたが、その隣が孤児院だった。
孤児院の横に家兼鍛冶屋が有った事で、孤児院に引き取られていたフィルランカを、カインクムは、小さな時から知っている。
フィルランカとエルメアーナは、歳も変わらず、女の子同士という事で気もあったのだろう。
それで、よく小さな頃から、エルメアーナと一緒に遊んでいて、フィルランカも、家にもよく遊びにきていた。
特にフィルランカは、エルメアーナが学校で教わってきた勉強の内容を聞くのが好きだった。
フィルランカは、エルメアーナの学校が終わって家に戻った頃に、フィルランカは家に遊びに来ていた。
そしてフィルランカは、エルメアーナから、学校の授業の内容を聞いていたのだ。
時々、エルメアーナが先生役でフィルランカが生徒役になって、学校での勉強の話をしていた。
しかし、エルメアーナが10歳になった頃に、突然、エルメアーナが学校に行かなくなり、カインクムの工房に入って、鍛治仕事を始めるようになった。
それまでも、時々は、工房に来て鍛治を手伝ったり、自分で簡単な物を作ったりしていたのだが、ある日、突然、学校には行かず、工房に入り浸るようになった。
何故なのかとカインクムが聞いても、エルメアーナは答えず、工房で鍛治をするようになった。
カインクムは、鍛治の仕事の稼ぎが安定していたので、学費を払えない事はない。
だが、安くも無い学費を支払っている手前、エルメアーナには、学校へ行ってもらいたいと思っていたのだが、エルメアーナは、頑として学校へ行こうとしなかった。
毎日、フィルランカは遊びに来ていたが、エルメアーナが学校に行ってないと分かると、がっかりしてしまった。
学校に行けなかた孤児のフィルランカとすれば、それまで、エルメアーナから、学校で教わった事を、家で教えてもらっていたので、エルメアーナが学校に行かなくなったと聞いて、これからは教えてもらえなくなると、がっかりしたのだ。
そんな、がっかりしていたフィルランカを見たカインクムは、理由を聞くと、エルメアーナから学校の授業の事を聞けないからだと言う。
フィルランカが家に来るのは、エルメアーナから聞く勉強の話が好きだったと聞いたカインクムは、代わりにフィルランカを学校に入れる事を考える。
その頃、カインクムは鍛冶屋に集中したいが、店に出る必要も有るので、信頼できる店番を探していた。
カインクムの妻であり、エルメアーナの母親が、3年前に病気で死んでからは、1人で、エルメアーナの面倒を見ながら、鍛治と店番とに追われる毎日だった。
まだ、子供だった2人だが、フィルランカもエルメアーナから授業の話を聞いていたので、簡単な計算程度なら問題なかった。
時々、カインクムが店に立つ時に、一緒に接客をしてくれた事があった。
フィルランカも孤児院で、暇を持て余していた時は、エルメアーナが居なくとも、遊びに来ては、店番を手伝ってくれたこともあるのだ。
フィルランカは、お客ようである冒険者からも受けが良かった事も、時々、お客から聞かれた値段も正確に答えてくれていた。
お客からの受けもよく、数字にも明るい。
それにエルメアーナの友達で、ほとんど姉妹のように接している2人なら、将来2人に店を任せてもいいかもしれない。
自分が引退した後、エルメアーナが鍛治をして、それをフィルランカが店で売る。
そんな未来図を、カインクムは描くようになった。
そう考えた、カインクムは、それまでの投資と考えれば、エルメアーナの代わりにフィルランカの学費を出すのは、エルメアーナのためにもなると考えたのだ。
また、フィルランカは、ある年齢になったら孤児院を出なければならない。
孤児の成人後の未来は、それ程明るく無い。
飲食店の店員、宿屋の店員等の職にありつければ良いのだが、孤児が職にありつける事は、それほど多くは無い。
顔立ちの良い孤児なら、余裕の有る商人や貴族が、パトロンとなり、昼間は、家事を行わせて、夜は、一緒の床につく事を要求される。
そうでない孤児の女子が選ぶ職業は、娼館に向かう事になる。
そんな悲惨な未来を考えるなら、エルメアーナの為に店を見てもらう事を、フィルランカにお願いしたら良いと、カインクムは考えた。
それなら、学校を卒業してから、自分の鍛冶屋に住み込みで働く事を条件として、フィルランカの学費を出すことを、カインクムは、孤児院に了承させる事を思いついたようだ。




